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労務管理

感染症と労務管理10

さて、先週、会社は、できる限り従業員の解雇ではなく、合意退職となるよう努力すべきという話をしました。

 

しかし、どう説得しても労働者が退職してくれない、ということもあり得ると思います。

 

この場合、やむを得ず、労働者を解雇できないか、検討することになります。

ただ、前回お伝えしたように、使用者からの一方的な意思表示による労働契約の解消である解雇は、従業員の生活に大きな影響を及ぼすことから、制限されています。

そのため、解雇が無効となるような解雇権の濫用とならないように、慎重に検討・判断しなければなりません。

 

特に業績の悪化を理由に従業員の解雇をする場合、いわゆる整理解雇の場合について、過去の裁判例がその判断基準を示しています。

具体的には、多くの裁判例で、①人員削減の必要性、②整理解雇回避の努力の履行、③解雇対象者の人選の妥当性、④解雇手続の相当性の4つの要件を検討し、当該解雇の有効性が判断されています。

 

そこで、コロナの影響で業績が悪化した場合であっても、この4要件を満たしているか、慎重に検討し、解雇の有効性を検討する必要があります。

(弁護士 國安耕太)

 

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感染症と労務管理9

最近、従業員に退職してもらいたい、との相談が増えてきました。

なぜこのような相談が増えてきているのか、正確なところはわかりません。

 

ただ、コロナの影響で業績が悪化したものの、各種助成金や補助金、融資で急場を凌いでいた会社が、緊急事態宣言の解除後も業績が十分回復していないといった状況もあるのかもしれません。

 

さて、上記のように、会社が従業員に退職してもらいたいと考えた場合、いきなり当該従業員を解雇してしまうということがありますが、このような対応は、正直、考えものです。

 

たしかに、法律上、解雇は自由に出来るのが原則です。

労働基準法19条は解雇制限、20条は解雇予告手当に関する条文ですが、いずれも時期等の要件を満たせば、解雇は可能であることを前提としており、解雇そのものを禁止するものではありません。

 

しかし、判例上、解雇権濫用法理が確立されており、これをうけて労働契約法16条は「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」として、事実上解雇を制限しています。

 

それゆえ、たとえコロナの影響で業績が悪化したとしても、それだけでは、解雇が無効となってしまう可能性があるのです。

 

会社は、このことを肝に銘じて、解雇ではなく、労働者が話し合いによって退職する合意退職となるよう努力すべきといえます。

(弁護士 國安耕太)

 

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感染症と労務管理8

先週、テレワーク等の場合、タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録することで対応することになるのが原則となるという話をしました。

 

これに対し、会社の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難なときは、事業場外労働に関するみなし労働時間制(労働基準法38条の2の1項*)が適用されることになります。

 

では、どのような場合に、会社の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難であるといえるのでしょうか。

 

この点について、厚生労働省の「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」では、つぎの内容が記載されています。

 

(1)情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと(情報通信機器を通じた使用者の指示に即応する義務がない状態であること)

(2)随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと

以上の2つの要件を満たしていなければ、テレワーク等において、会社の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難とはいえない。

 

そのため、テレワーク等を実施した際に、事業場外労働に関するみなし労働時間制の適用を受けようとする場合は、上記要件を満たすように実施する必要がありますので、注意が必要です。

(弁護士 國安耕太)

 

* 労働基準法38条の2の1項

労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務に関しては、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。

 

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感染症と労務管理7

さて、今般の新型コロナの流行にかんがみて、テレワーク・リモートワーク・在宅勤務(以下、総称して「テレワーク等」といいます。)を導入したり、導入を検討したりする企業が増えています。

 

では、テレワーク等を実施するにあたり、どのような点に注意すればよいのでしょうか。

 

まず、テレワーク等を実施するため、許認可等の特別な法的手続きが求められるわけではありません。

 

ただ、従業員の職場環境や労働条件に関係するため、就業規則を整備しておくことが望ましいといえます。

また、会社は、労働契約を締結する際、従業員に対し、賃金や労働時間のほかに、就業の場所に関する事項等を明示しなければならないとされていますので(労働基準法第15条1項*1、労働基準法施行規則5条1項1号の3*2)、就業の場所としてテレワークを行う場所を明示する必要があります。

 

つぎに、テレワーク等を行う場合においても、会社は、その労働者の労働時間について適正に把握する責務を有しています(労働安全衛生法66条の8の3*3)。

 

テレワーク等の場合、会社(上司)が、直接視認して確認することは難しいと思いますので、タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録することで対応するのが原則になると思います。

(弁護士 國安耕太)

 

*1 労働契約法15条1項

使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。

 

*2 労働基準法施行規則5条1項1号の3

使用者が法第十五条第一項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件は、次に掲げるものとする。

一の三 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項

 

*3 労働安全衛生法66条の8の3

事業者は、第六十六条の八第一項又は前条第一項の規定による面接指導を実施する ため、厚生労働省令で定める方法により、労働者(次条第一項に規定する者を除く。)の労働時間の状況を把握しなければならない。

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感染症と労務管理6

さて、先週、会社が新型コロナに関する感染防止策を実施していたにもかかわらず、従業員が新型コロナに罹患してしまった場合、労災保険給付の対象となりうるという話をしました。

 

では、会社の安全配慮義務違反に基づく損害賠償と労災保険給付はどのような関係にあるのでしょうか。

 

この点、労基法84条*1には、労災保険給付がなされた場合、使用者は補償義務を負わないことが明記されています。

 

では、なぜ、使用者である会社の賠償義務が問題となるのでしょうか。

 

実は、これは労災保険の性質に基づきます。

すなわち、労災保険は、あくまでも「業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行」うものにすぎません*2。

 

そのため、労災保険給付は、必ずしも損害を完全に賠償するものではないのです。

 

(弁護士 國安耕太)

 

*1 労働基準法84条

1 この法律に規定する災害補償の事由について、労働者災害補償保険法 (昭和二十二年法律第五十号)又は厚生労働省令で指定する法令に基づいてこの法律の災害補償に相当する給付が行なわれるべきものである場合においては、使用者は、補償の責を免れる。

2 使用者は、この法律による補償を行つた場合においては、同一の事由 については、その価額の限度において民法による損害賠償の責を免れる。

 

*2 労働者災害補償保険法1条

労働者災害補償保険は、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行い、あわせて、業務上の事由又は通勤により負傷し、又は疾病にかかつた労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族の援護、労働者の安全及び衛生の確保等を図り、もつて労働者の福祉の増進に寄与することを目的とする。

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感染症と労務管理5

さて、先週、会社が、新型コロナに関する感染防止策を怠っていた場合、安全配慮義務違反を問われる可能性がある、という話をしました。

 

では、会社が新型コロナに関する感染防止策を実施していたにもかかわらず、従業員が新型コロナに罹患してしまった場合、当該従業員は何の補償も受けられないのでしょうか。

 

まず、考えられるのは、労災保険に基づく補償です。

 

新型コロナに罹患したことが労災保険給付の対象となるのかについて厚生労働省は、「業務に起因して感染したものであると認められる場合には、労災保険給付の対象となります。」としています(新型コロナウイルスに関するQ&A(労働者の方向け)5労災補償 問1)。

 

では、つぎに、どのような場合であれば「業務に起因して感染したものである」とされるのでしょうか。

 

この点に関し、令和2年2月3日に出された厚生労働省の基補発0203第1号「新型コロナウイルス感染症に係る労災補償業務の留意点について」との通達では、

(1)業務または通勤における感染機会や感染経路が明確に特定され、

(2)感染から発症までの潜伏期間や症状等に医学的な矛盾がなく、

(3)業務以外の感染源や感染機会が認められない場合

に該当するか否か等について個別の事案ごとに判断するとされています。

 

そのうえで、「接客などの対人業務において、新型コロナウイルスの感染者等と濃厚接触し、業務以外に感染者等との接触や感染機会が認められず発症」したような場合は、「業務上と考えられる」旨記載されています。

 

このことからすれば、上記(1)ないし(3)の要件を満たしているような場合には、「業務に起因して感染したものである」と認められる可能性が高いといえるでしょう。

(弁護士 國安耕太)

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感染症と労務管理4

さて、先週まで、新型コロナ等の感染症に基づく休業に関し、休業手当の支払義務が生じるか否かについて検討してきました。

 

では、休業せずに業務に従事していた従業員が新型コロナに罹患した場合、会社は当該従業員に対し、損害賠償義務を負うのでしょうか。

 

まず、会社(使用者)は、従業員に対し、安全配慮義務を負っています(労働契約法5条)*。

 

安全配慮義務とは、会社が負っている従業員が安全で健康に働くことが出来るように配慮しなければならないという義務のことで、労働(雇用)契約書や就業規則に明示されていなかったとしても、労働契約に伴って会社が当然に負うべき義務とされています。

 

会社は、この安全配慮義務に基づき、従業員が勤務中や通勤中に新型コロナに罹患しないよう必要な措置を取らなければならない、ということになります。

 

具体的には、新型コロナが接触や飛沫で感染することは広く知られた事実であることから、事業所内を消毒したり、従業員に対しマスク着用・手洗いを呼び掛けたりするなど、新型コロナに罹患しないよう感染防止策を実施する義務があると考えられます。

そのため、これらの感染防止策を怠っていた場合、会社は、安全配慮義務違反を問われる可能性があるといえるでしょう。

(弁護士 國安耕太)

 

*労働契約法5条

「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」

 

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感染症と労務管理3

では、つぎに、緊急事態宣言後に、会社が休業することを決定した場合はどうでしょうか。

 

まず、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく協力要請(法24条9項)の一環として、休業を要請され、営業を自粛し、労働者を休業させた場合です。

 

協力要請の一環としての休業要請は、強制力を伴うものではありませんが、法律に基づく要請であることからすれば、休業の原因が事業の外部から発生したということができます。

 

それゆえ、協力要請の一環としての休業要請をされた場合は、休業手当の支払義務が生じないことが多いと思います。

 

ただし、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当しないためには、事業主が通常の経営者としての最大の注意を尽くしてもなお避けることができないといえなくてはなりません。

 

そのため、テレワーク等で業務を行うことができるような場合は、休業手当の支払義務が生じる可能性があります。

 

この点について、「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」でも、

「・自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合において、これを十分に検討しているか

・労働者に他に就かせることができる業務があるにもかかわらず休業させていないか」

との観点から、事業主が通常の経営者としての最大の注意を尽くしてもなお避けることができないといえるかを検討することとされています。

 

以上のことを踏まえ、休業手当の支払義務が生じるか否か、慎重に判断しましょう。

(弁護士 國安耕太)

 

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感染症と労務管理2

さて、前回の続きですが、新型コロナを理由に事業所を閉鎖した場合、不可抗力による休業といえるのでしょうか。

 

まず、社内感染防止等の観点から、会社が自主的な判断で休業することを決定した場合はどうでしょうか。

 

新型コロナの発生自体は、会社の事業の外部から発生したものと言うことができると思います。

しかし、新型コロナが発生したとしても、休業するかどうかの判断は、基本的には各会社に委ねられているといえます。

そうすると、休業の原因が事業の外部から発生したとすることは難しいように思います。

 

このことからすれば、使用者の自主的な判断で休業することを決定した場合、会社には休業手当の支払義務が生じるものと考えられます。

 

この点について、「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」でも、

『自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合において、これを十分検討するなど休業の回避について通常使用者として行うべき最善の努力を尽くしていないと認められた場合には、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当する場合があり、休業手当の支払が必要となることがあります。』

とされています。

(弁護士 國安耕太)

 

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感染症と労務管理1

2020年4月7日、新型コロナウイルス感染症を理由に緊急事態宣言が発令され、5月25日に解除されるまで、多くの企業でリモートワークが導入され、また、従業員の休業措置が採られました。

 

さて、新型コロナを理由に事業所を閉鎖した場合、従業員に対し、休業手当を支払わなければならないのでしょうか。

 

労働基準法は、休業手当について、つぎの通り定めています。

 

*労働基準法26条

「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。」

 

そこで、問題は、新型コロナを理由に事業所を閉鎖した場合、「使用者の責に帰すべき事由による休業」にあたるかどうかです。

 

この点について、厚生労働省が公表している「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」*では、

「不可抗力による休業の場合は、使用者の責に帰すべき事由に当たらず、使用者に休業手当の支払義務はありません。」

「ここでいう不可抗力とは、①その原因が事業の外部より発生した事故であること、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であることの2つの要件を満たすものでなければならないと解されています。」

とされています(4 労働者を休ませる場合の措置(休業手当、特別休暇など)の問1)。

 

このため、新型コロナを理由に事業所を閉鎖した場合に、この不可抗力による休業といえるのかを検討する必要があります。

(弁護士 國安耕太)

 

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近時の労働法改正10

パートタイム・有期雇用労働法および労働者派遣法に関し、②労働者に対する待遇に関する説明義務の強化および③行政による履行確保措置及び裁判外紛争解決手続(行政ADR)の整備という改正もされています。

 

まず、②労働者に対する待遇に関する説明義務の強化については、事業主は、パートタイム・有期雇用労働者および派遣労働者を雇い入れる際に雇用管理上の措置の内容(賃金、教育訓練、福利厚生施設の利用、正社員転換の措置等)に関する説明をする義務を負うことになりました(パートタイム・有期雇用労働法14条1項、労働者派遣法31条の2 2項・3項)。

また、パートタイム・有期雇用労働者および派遣労働者は、正社員との待遇差の内容や理由などについて、事業主に対して説明を求めることができることとされました(パートタイム・有期雇用労働法14条2項、労働者派遣法31条の2 4項)。

さらに、説明を求めた労働者に対する場合の不利益取扱いが禁止されています(パートタイム・有期雇用労働法14条3項、労働者派遣法31条の2 5項)。

 

つぎに、③行政による履行確保措置及び裁判外紛争解決手続(行政ADR)の整備については、パートタイム労働者・有期雇用労働者・派遣労働者の均等・均衡待遇等に関する個別労使紛争については、各都道府県労働局の紛争調整委員会に対し、無料かつ非公開の調停を申し立てることができるようになりました。

なお、調停委員は、弁護士や大学教授、家庭裁判所家事調停委員、社会保険労務士などの労働問題の専門家が担当し、高い専門性、公平性、中立性のもとで紛争の解決を図るとされています。

 

以上のとおり、パートタイム・有期雇用労働法および労働者派遣法についても重要な改正がなされていますので、自社に影響がないか、一度確認してみることをお勧めします。

(弁護士 國安耕太)

 

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近時の労働法改正9

パートタイム・有期雇用労働法および労働者派遣法に関する主な改正点のうち、もっとも重要なのは、①不合理な待遇差を解消するための規定の整備に関する改正です。

 

まず、パートタイム・有期雇用労働法については、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間・有期雇用労働者に関し、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをすることが禁止されています(パートタイム・有期雇用労働法9条)。

また、同一企業内において、通常の労働者と短時間・有期雇用労働者の間で、基本給や賞与などあらゆる待遇について不合理な待遇差を設けることが禁止されます(パートタイム・有期雇用労働法8条)。

 

一般的に前者を「均等待遇規定」と呼び、㋐職務内容、㋑職務内容・配置の変更範囲が同じ場合は、差別的取扱いが禁止されます。

同様に、後者を「均衡待遇規定」と呼び、㋐職務内容、㋑職務内容・配置の変更範囲、㋒その他の事情の内容を考慮して不合理な待遇差が禁止されます。

 

どのような待遇差が不合理、差別的取扱いにあたるかは、ガイドラインに示されていますが*、押さえておきたい重要なポイントは、つぎの点です。

 

(1)㋐職務内容、㋑職務内容・配置の変更範囲が同じ場合は、同様の待遇としなければならない。

(2)㋐職務内容、㋑職務内容・配置の変更範囲が異なっていても、その待遇差が不合理であってはならない。

 

このため、通常の労働者と短時間・有期雇用労働者の間で、待遇差を設ける場合は、慎重に判断する必要があります。

 

実際、過去の裁判では、通常の労働者と短時間・有期雇用労働者の間で、㋐職務内容および㋑職務内容・配置の変更範囲が異なっていたとしても、労働契約に期間の定めがあるか否かによって通勤に必要な費用が異なるわけではない通勤手当や、安全運転および事故防止の必要性は同じ無事故手当といった手当を、通常の労働者にのみ支給する規定は、均衡待遇規定に反する不合理なものと判断されていますので、㋐職務内容および㋑職務内容・配置の変更範囲余程の差異がない限り、不合理とされる可能性が高いでしょう。

 

なお、労働者派遣法については、パートタイム・有期雇用労働法と同様の派遣先均等・均衡方式と、一定の要件を満たす労使協定によって待遇を定める労使協定方式のいずれかの方式により、派遣労働者の待遇を確保することが義務化されています。

(弁護士 國安耕太)

 

*  https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000190591.html

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近時の労働法改正8

来年(2020年)4月1日(中小企業については、2021年4月1日)から、パートタイム・有期雇用労働法(短時間労働者および有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)が施行されます。

これまでパートタイム労働者に関しては、パートタイム労働法(短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律)が制定されていましたが、有期雇用労働者もこの法律の対象に含めることとされました。

 

本改正の主な目的は、同一企業内における正社員と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇の差をなくし、どのような雇用形態を選択しても待遇に納得して働き続けられるようにすることで、多様で柔軟な働き方を選択できるようにすることとされています。

 

同様の目的で、労働者派遣法に関しても、改正が行われています。

 

パートタイム・有期雇用労働法および労働者派遣法に関する主な改正点は、つぎの3点です。

①不合理な待遇差を解消するための規定の整備

②労働者に対する待遇に関する説明義務の強化

③行政による履行確保措置及び裁判外紛争解決手続(行政ADR)の整備

次回以降、具体的に解説していきます。

(弁護士 國安耕太)

 

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最低賃金が改訂されました

本年(2019年)8月9日、厚生労働省から最低賃金の改訂額が公表されました。

 

東京都および神奈川県で全国初の時給1000円超え、全国加重平均では時給901円となりました。

東京都は1013円、神奈川県は1011円、埼玉県926円、千葉県923円となり、いずれも本日(2019年10月1日)から適用されます。

 

都内を歩いていると、いまだに時給1000円~という求人を見かけますが、本日以降、「使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない」(4条1項)と定める最低賃金法違反となりますので、自社の応募要項を見直しておきましょう。

 

さて、とうとう1000円を超えた最低賃金ですが、10年前の2009年は、東京都は791円、神奈川県は789円、埼玉県735円、千葉県728円でした。

この10年で約25%も上がったことになります。

 

なお、最低賃金に関する規律を定めている最低賃金法ですが、法律自体には具体的な最低賃金の定めはありません。

法律上は、

・厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、一定の地域ごとに、中央最低賃金審議会又は地方最低賃金審議会(以下「最低賃金審議会」という。)の調査審議を求め、その意見を聴いて、地域別最低賃金の決定をしなければならない(10条1項)

と定められており、実際には、各都道府県の労働局に設置されている地方最低賃金審議会が、最低賃金を定めています。

(弁護士 國安耕太)

 

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近時の労働法改正7

本年(2019年)4月1日から、改正労働基準法の施行とともに、改正労働時間等設定改善法(労働時間等の設定の改善に関する特別措置法)が施行されています。

主な改正は、勤務間インターバル制度の導入促進です。

 

勤務間インターバル制度とは、1日の勤務終了後、翌日の出社までの間に、一定時間以上の休息時間(インターバル)を確保する仕組みをいいます。

本改正では、この仕組みを導入することを事業主の努力義務としました(労働時間等設定改善法2条1項*1)。

この仕組みを事業主の努力義務とすることで、働く方々の十分な生活時間や睡眠時間を確保することを目的としています。

 

また、この改正にあわせて、労働時間等見直しガイドライン(労働時間等設定改善指針*2)も改訂されています。

そして、労働時間等見直しガイドラインにおいては、勤務間インターバルを設定するに際しては、「労働者の通勤時間、交替制勤務等の勤務形態や勤務実態等を十分に考慮し、仕事と生活の両立が可能な実効性ある休息が確保されるよう配慮すること。」とされていますので、注意が必要です。

(弁護士 國安耕太)

 

*1 労働時間等設定改善法2条1項

事業主は、その雇用する労働者の労働時間等の設定の改善を図るため、業務の繁閑に応じた労働者の始業及び終業の時刻の設定、健康及び福祉を確保するために必要な終業から始業までの時間の設定、年次有給休暇を取得しやすい環境の整備その他の必要な措置を講ずるように努めなければならない。

 

*2 労働時間等見直しガイドライン

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/jikan/index.html

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近時の労働法改正6

本年(2019年)4月1日から、改正労働基準法の施行とともに、改正労働安全衛生法が施行されています。

主な改正は、労働時間把握の義務化と産業医、産業保健機能の強化です。

 

まず、労働時間把握の義務化については、これまで割増賃金を適正に支払うため、労働時間を客観的に把握することを通達で規定しているのみでした。

また、裁量労働制が適用される人などは、この通達の対象外とされていました。

本改正では、健康管理の観点から、事業者に対し、裁量労働制が適用される人や管理監督者も含め、すべての労働者の労働時間の状況を客観的な方法その他適切な方法で把握するよう法律で義務づけています(66条の8の3)。

 

つぎに、産業医、産業保健機能の強化については、これまでは産業医は、労働者の健康を確保するために必要があると認めるときは、事業者に対して勧告することができること、事業者は、産業医から勧告を受けた場合は、その勧告を尊重する義務があることが規定されていました。

本改正では、事業者は、長時間労働者の状況や労働者の業務の状況など産業医が労働者の健康管理等を適切に行うために必要な情報を提供しなければならないこととされ、事業者は、産業医から受けた勧告の内容を事業場の労使や産業医で構成する衛生委員会に報告しなければならないこととされました(労働安全衛生法13条4項、13条6項等)。

このほか、産業医の独立性・中立性の強化が図られています。

(弁護士 國安耕太)

 

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近時の労働法改正5

本年(2019年)4月1日から、改正労働基準法が施行されています。

これまで主に中小企業に対する影響が大きいと考えられる改正について解説してきましたが、このほか、フレックスタイム制の拡充および高度プロフェッショナル制度の創設といった改正もされています。

 

まず、フレックスタイム制の拡充については、次のような改正がされました。

フレックスタイム制とは、一定の期間についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、労働者が日々の始業・終業時刻、労働時間を自ら決めることのできる制度です。

労働者が日々の始業・終業時刻、労働時間を自ら決めることができるため、子育てや介護等の理由で、毎日固定の就業時間で勤務することが難しい労働者にとって働きやすい職場を提供することができ、ひいては離職率の低下につながるなど、使い方によっては労働者・使用者双方にメリットのある制度です。

ただ、これまでは清算期間の上限が「1か月」までとされていたため、労働者は1か月の中で生活に合わせた労働時間の調整を行うことはできましたが、1か月を超えた調整をすることはできませんでした。

本改正によって、清算期間の上限が「3か月」に延長され、月をまたいだ労働時間の調整により柔軟な働き方が可能となりました(労働基準法33条の3 1項2号*1)。

 

つぎに、高度プロフェッショナル制度の創設については、次のような改正がされました。

高度プロフェッショナル制度とは、高度の専門的知識等を有し、職務の範囲が明確で一定の年収要件を満たす労働者に関し、労働基準法に定められた労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定を適用しないという制度です。

本改正では、①年間104日以上、かつ、4週間を通じ4日以上の休日を付与すること、②選択的措置の実施、を義務化しました(労働基準法41条の2 1項4号・5号*2)。

 

このように本改正では、個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方ができるよう様々な改正がなされています。

(弁護士 國安耕太)

 

*1 労働基準法33条の3 1項

使用者は、就業規則その他これに準ずるものにより、その労働者に係る始業及び終業の時刻をその労働者の決定に委ねることとした労働者については、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めたときは、その協定で第二号の清算期間として定められた期間を平均し一週間当たりの労働時間が第三十二条第一項の労働時間を超えない範囲内において、同条の規定にかかわらず、一週間において同項の労働時間又は一日において同条第二項の労働時間を超えて、労働させることができる。

二清算期間(その期間を平均し一週間当たりの労働時間が第三十二条第一項の労働時間を超えない範囲内において労働させる期間をいい、三箇月以内の期間に限るものとする。以下この条及び次条において同じ。)

 

*2 労働基準法41条の2 1項4号・5号

四 対象業務に従事する対象労働者に対し、一年間を通じ百四日以上、かつ、四週間を通じ四日以上の休日を当該決議及び就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより使用者が与えること。

五 対象業務に従事する対象労働者に対し、次のいずれかに該当する措置を当該決議及び就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより使用者が講ずること。

イ 労働者ごとに始業から二十四時間を経過するまでに厚生労働省令で定める時間以上の継続した休息時間を確保し、かつ、第三十七条第四項に規定する時刻の間において労働させる回数を一箇月について厚生労働省令で定める回数以内とすること。

ロ 健康管理時間を一箇月又は三箇月についてそれぞれ厚生労働省令で定める時間を超えない範囲内とすること。

ハ 一年に一回以上の継続した二週間(労働者が請求した場合においては、一年に二回以上の継続した一週間)(使用者が当該期間において、第三十九条の規定による有給休暇を与えたときは、当該有給休暇を与えた日を除く。)について、休日を与えること。

ニ 健康管理時間の状況その他の事項が労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める要件に該当する労働者に健康診断(厚生労働省令で定める項目を含むものに限る。)を実施すること。

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近時の労働法改正4

本年(2019年)4月1日から、改正労働基準法が施行されています。

主な改正のうち、時間外労働の上限規制・月60時間を超える部分の割増賃金率の引き上げとともに、特に中小企業に対する影響が大きいと考えられるものの一つが、年次有給休暇の取得義務付けです。

 

本改正で、使用者は、10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、5日について、毎年、時季を指定して年次有給休暇を与えなければならないことになりました(労働基準法39条7項*1)。

 

ただし、労働者が自らの希望で5日以上年次有給休暇を取得する場合や、計画的付与で5日以上年次有給休暇を付与した場合は、この規定は適用されません(労働基準法39条8項*2)。

 

年次有給休暇は、入社日から起算して6か月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に10日間付与されます(労働基準法39条1項)。

また、継続勤務年数が増加するごとに、付与される年次有給休暇も増加していきます(労働基準法39条2項)。

このように、年次有給休暇は、全労働者一律に付与されるものではないため、労働者ごとにきちんと管理しておくことが必要となりますので、ご注意ください。

(弁護士 國安耕太)

 

*1 労働基準法39条7項

使用者は、第一項から第三項までの規定による有給休暇(これらの規定により使用者が与えなければならない有給休暇の日数が十労働日以上である労働者に係るものに限る。以下この項及び次項において同じ。)の日数のうち五日については、基準日(継続勤務した期間を六箇月経過日から一年ごとに区分した各期間(最後に一年未満の期間を生じたときは、当該期間)の初日をいう。以下この項において同じ。)から一年以内の期間に、労働者ごとにその時季を定めることにより与えなければならない。ただし、第一項から第三項までの規定による有給休暇を当該有給休暇に係る基準日より前の日から与えることとしたときは、厚生労働省令で定めるところにより、労働者ごとにその時季を定めることにより与えなければならない。

 

*2 労働基準法39条8項

前項の規定にかかわらず、第五項又は第六項の規定により第一項から第三項までの規定による有給休暇を与えた場合においては、当該与えた有給休暇の日数(当該日数が五日を超える場合には、五日とする。)分については、時季を定めることにより与えることを要しない。

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近時の労働法改正3

本年(2019年)4月1日から、改正労働基準法が施行されています。

主な改正のうち、時間外労働の上限規制とともに、特に中小企業に対する影響が大きいと考えられるものの一つが、月60時間を超える部分の割増賃金率の引き上げです。

 

労働基準法上、使用者が労働者に1日8時間・1週40時間を超える労働をさせた場合、25%の割増賃金を支払う義務があります*1。

たとえば、時給1500円の労働者が10時間労働した場合、通常の給与に加えて、1500円×1.25×2時間=3750円を支払わなければなりません。

 

また、同様に、1か月60時間を超える労働をさせた場合は、50%の割増賃金を支払う義務があるとされていますが、これまでは大企業にのみこの条項が適用され、中小企業に関してはこの条項の適用が猶予されていました。

 

しかし、本改正では、この猶予が撤廃され、2023年以降、中小企業も大企業同様50%の割増賃金を支払う義務を負うことになりました。

 

このため、2023年以降、労働者に60時間を超える時間外労働をさせる場合は注意が必要です。

(弁護士 國安耕太)

 

*1 労働基準法37条1項

使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

 

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近時の労働法改正2

本年(2019年)4月1日から、改正労働基準法が施行されています。

 

主な改正のうち、特に中小企業*1に対する影響が大きいと考えられるものの一つが、時間外労働の上限規制です。

 

本改正では、

(1)時間外労働の上限が、原則として、月45時間・年360時間。

(2)臨時的な特別の事情がある場合、労使が合意をすれば、これを超えることができる。

(3)ただし、その場合でも、(ア)月45時間を超えることができるのは年6か月まで、(イ)時間外労働の合計が年720時間以内、(ウ)時間外労働+休日労働の合計が月100時間未満かつ2~6か月の平均が80時間以内。

とされました(労働基準法36条4項、5項*2)。

 

労働基準法上、労働時間は1日8時間、週40時間までと定められています。

しかし、厚生労働省の通達により、36協定を結べば月45時間、年間360時間までの法定労働時間外の労働が認められており、また、「特別条項付き36協定 」を締結すれば、年6回に限り上限なく時間外労働を行わせることができるようになっていました。

 

本改正は、法律で時間外労働の上限を設け、長時間労働の抑制を図ろうとしています。

 

なお、この上限規制に関しては、自動車運転の業務、建設事業、医師等の職種に関しては、2024年まで適用が猶予されています。

(弁護士 國安耕太)

 

*1

中小企業かどうかは、資本金の額または出資の総額と常時使用する労働者の数から判断されます。

たとえば、小売業であれば、資本金の額または出資の総額が5000万円以下で、常時使用する労働者の数が50人以下の場合、中小企業となります。

 

*2 労働基準法36条

4 前項の限度時間は、一箇月について四十五時間及び一年について三百六十時間(第三十二条の四第一項第二号の対象期間として三箇月を超える期間を定めて同条の規定により労働させる場合にあつては、一箇月について四十二時間及び一年について三百二十時間)とする。

5 第一項の協定においては、第二項各号に掲げるもののほか、当該事業場における通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に第三項の限度時間を超えて労働させる必要がある場合において、一箇月について労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させることができる時間(第二項第四号に関して協定した時間を含め百時間未満の範囲内に限る。)並びに一年について労働時間を延長して労働させることができる時間(同号に関して協定した時間を含め七百二十時間を超えない範囲内に限る。)を定めることができる。この場合において、第一項の協定に、併せて第二項第二号の対象期間において労働時間を延長して労働させる時間が一箇月について四十五時間(第三十二条の四第一項第二号の対象期間として三箇月を超える期間を定めて同条の規定により労働させる場合にあつては、一箇月について四十二時間)を超えることができる月数(一年について六箇月以内に限る。)を定めなければならない。

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近時の労働法改正1

昨年、労働基準法、労働安全衛生法および労働時間等設定改善法が改正され、本年(2019年)4月1日から施行されています。

 

各法律の主な改正点は、次のとおりです。

 

①労働基準法

・時間外労働の上限規制

・月60時間を超える部分の割増賃金率の引き上げ

・年次有給休暇の取得義務付け

・フレックスタイム制の拡充

・高度プロフェッショナル制度の創設

 

②労働安全衛生法

・労働時間把握義務

・産業医、産業保健機能の強化

 

③労働時間等設定改善法

・勤務間インターバル制度の導入促進

 

これらの改正のうち、特に中小企業に対する影響が大きいと考えられるのが、労働基準法に関する改正です。

時間外労働の上限規制については、2020年4月まで、割増賃金率の引き上げについては、2023年4月までその適用が猶予されていますが、ぎりぎりになって慌てることがないよう、いまのうちにきちんと対応しておきましょう。

 

次回以降、具体的に解説をしていきます。

(弁護士 國安耕太)

 

*8月10日~8月18日まで夏季休業となります。

そのため、次回配信は、8月20日です。

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労務管理8

時間外労働とは、労基法上の1日8時間、1週40時間の法定労働時間を超えた労働をいい、休日労働とは、週休制の法定基準による休日における労働をいいます。

 

所定労働時間を超えていたとしても、法定労働時間を超えていないのであれば、時間外労働にはあたりません。

たとえば、所定労働時間が1日7時間とされている会社で、8時間勤務した場合、所定労働時間を1時間超えていることになりますが、時間外労働は0ということになります。

同様に、法定休日が日曜日とされている会社で、所定休日(たとえば土曜日)に労働した場合であっても、休日労働とはならないことになります。

 

時間外・休日労働は、事業場における労使の時間外・休日労働協定(いわゆる三六協定)に基づく必要があります(労働基準法36条1項)。

 

また、時間外労働の限度について、次のような基準が定められています。

 

期 間         時間外労働の上限期間

1週間         15時間

2週間         27時間

4週間         43時間

1カ月         45時間

2カ月         81時間

3カ月         120時間

1年間         360時間

 

なお、この時間外労働の限度に関する基準は、強行的効力を有するものではないと考えられており、限度を超えた時間外労働の合意があったとしても直ちに無効となるものではありません。

 

また、割増率は、1か月の合計が60時間までの時間外労働および午後10時~午前5時までの深夜労働については、2割5分以上の率、②1か月の合計が60時間を超えた時間外労働の部分については、5割以上の率、③休日労働については3割5分以上の率とされています*。

 

なお、この割増賃金の規制は、年俸制を採用している場合や、歩合給や出来高給についても及ぶので注意が必要です。

 

(弁護士 國安耕太)

 

 

*

ただし、このうち、②5割の割増率は、平成31年4月1日までは、中小事業主の事業について適用されません。

 

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労務管理7

さて、先週まで、労働時間についてみてきましたが、今回は、休日・休暇についてです。

 

労働基準法上、使用者は、労働者に対して、毎週少なくとも1回の休日を与えなければならないとされています(労働基準法35条1項)。

 

ここで「休日」とは、労働者が労働契約に基づく労働義務を負わない日をいい、労働日を労働日としたまま単に就労させない場合は、休業日であって、休日ではありません。

また、休日は、労働者が、労働日に労働をしなくてもよい権利として認められている「休暇」とも区別されています。

 

週の休日(週休日)をどの日にするのかについては、法律上規定がありません。

そのため、休日を日曜日にする必要はありません。

実際、飲食店などは、月曜日、不動産会社は水曜日を休みとしていることが多いといわれています。

また、祝祭日を休日にしなければならないものでもありません。

 

さて、使用者は、突発的な受注への対処など一時的な業務上の業務上の必要性から、就業規則上、休日と定められた特定の日を労働日に変更し、代わりにその前後の労働日である特定の日を休日に変更することができます。

 

その際の方法として、事前に休日と定められた特定の日を労働日に変更し、代わりにその前後の労働日である特定の日を休日に変更する、いわゆる「振替休日」と事後に行う「代休」という2つの制度があります。

 

双方とも労働契約上の根拠を必要とする、すなわち、就業規則等に根拠規定があることか労働者の個別の同意が必要である点で共通しています。

 

しかし、振替休日は、労基法の1週1休や、週40時間の制約を受け、また、本来の休日における労働が労働日における労働となるため、休日労働に基づく割増賃金の支払義務は生じません。

 

これに対し、代休の場合、休日に労働したということに変更はないため、休日労働に基づく割増賃金の支払義務が生じるという違いがあります。

(弁護士 國安耕太)

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労務管理6

繰り返しになりますが、労働時間にあたるか否かは、使用者の指揮命令下におかれたといえるかどうか、すなわち、使用者から「義務付けられた」または「余儀なくされた」といえるかどうかによって判断されることになります。

 

では、この使用者の指揮命令は、明示のものである必要があるのでしょうか。

 

この点について、通説では、使用者の指揮命令は、明示のものである必要はなく、黙示のもので足りると解されています。

裁判例でも、従業員が時間外労働を行っていることを会社が認識しながら、これを止めなかった以上、少なくとも黙示的に業務命令があったものとして、使用者側の時間外労働を命じていないとの主張が排斥されています(大阪地判平成17.10.6労判907号5頁、ピーエムコンサルタント事件)。

 

このように、業務命令として残業を指示したか否かにかかわらず、業務命令があったと認定され、労働時間であると判断されているケースは、珍しくありません。

このような現状を踏まえると、むしろ、労働時間ではないと判断されているケースは、使用者が、労働者に対して業務を禁止していたにもかかわらず業務を行っていたため、自発的な労働と評価されたものに限られると考えておくのが無難でしょう。

 

たとえば、東京高判平成17.3.30(労判905号72頁、神代学園ミューズ音楽院事件)は、

「繰り返し36強定が締結されるまで残業を禁止する旨の業務命令を発し、残務がある場合には役職者に引き継ぐことを命じ、この命令を徹底していた」

として、時間外または深夜にわたる残業時間を使用者の指揮命令下にある労働時間と評価することはできないと判断しています。

(弁護士 國安耕太)

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労務管理5

労働時間にあたるか否かは、使用者の指揮命令下におかれたといえるかどうか、すなわち、使用者から「義務付けられた」または「余儀なくされた」といえるかどうかによって判断されることになります。

 

では、たとえば、緊急事態が発生した際に対応するため、泊まり込みで待機しているような場合、当該待機時間(仮眠時間)は、労働時間にあたるのでしょうか。

 

この点について判例は、

「不活動時間において、労働者が実作業に従事していないというだけでは、使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず、当該時間に労働者が労働から離れることを保障されていて初めて、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないものと評価することができる。」

としています(最判平成19.10.19民集61巻7号2555頁大林ファシリティーズ事件)

 

したがって、緊急事態が発生したとき以外は、部屋で待機していたり、寝ていたとしても、労働契約に基づく義務として、部屋での待機と緊急時には直ちに相当の対応をすることを義務付けられている以上は、労働時間にあたるといえるでしょう。

 

なお、労働時間にあたるか否かは、労働者が使用者の指示に従っていたかどうかには影響されません。

実際、タクシー運転手の客待ち時間に関する裁判例において、

会社が指定場所以外で30分を越える客待ち待機をしないように命令していたとしても、「その時間中には、被告の具体的指揮命令があれば、直ちに原告らはその命令に従わなければならず、また原告らは労働の提供ができる状態にあるのであるから、被告の明示又は黙示の指揮命令ないし指揮監督の下に置かれている時間であるというべき」

とされています(大分地判平成23.11.30労判1043号54頁中央タクシー事件)*。

(弁護士 國安耕太)

 

*

ただし、別途、指揮命令違反として、懲戒処分の対象とはなりえます。

 

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労務管理4

休憩時間を除いて、1日8時間もしくは1週間40時間を超えて労働させた場合または休日に労働させた場合に、割増賃金の支払義務が生じます(労働基準法32条、37条1項)。

 

では、具体的にどのような要件を満たしていれば、労働時間と認められるのでしょうか。

 

判例では、労働時間といえるかどうかは、

 

「労働者の行為が使用者の指揮命令下におかれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まる」とされ、

 

使用者の指揮命令下におかれたといえるかどうかは、

 

「労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、または、これを余儀なくされたとき」は、「特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ」る

 

とされています(最判平成12.3.9民集54巻3号801頁、三菱重工長崎造船所事件)

 

具体的には、同判例において、「実作業に当たり、作業服及び保護具等の装着を義務付けられていたなどというのであるから、作業服及び保護具等の着脱等は、被上告人の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、右着脱等に要する時間は、それが社会通念上必要と認められる限り、労働基準法上の労働時間に該当するというべきである。」とされ、作業服及び保護具等の装着についても、会社の指揮命令下に置かれたものと評価できると判断されています。

 

このように、労働時間にあたるか否かは、使用者の指揮命令下におかれたといえるかどうか、すなわち、使用者から「義務付けられた」または「余儀なくされた」といえるかどうかによって判断されることになります。

(弁護士 國安耕太)

 

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労務管理3

法律上「労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては・・・割増賃金を支払わなければならない」(労働基準法37条1項)とされていることから、一般的に、残業代請求と呼ばれているものには、早出の場合や、休日労働の場合も含まれており、法律上は、「割増賃金」の請求です。

 

さて、ここで「労働時間を延長」とあるので、つぎに、労働時間とは何なのか、という問題が出てきます。

 

原則となる所定の労働時間に関する規定は、労働基準法32条にあります。

この規定を、法律で定められた労働時間という意味で「法定労働時間」と呼んでいます。

 

(労働基準法32条)

1 使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。

2 使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない。

 

労働基準法が規定する労働時間は、「休憩時間を除」いた時間であり、現に労働させる時間を指します。

 

そうすると、休憩時間を除いて、1日8時間もしくは1週間40時間を超えて労働させた場合または休日に労働させた場合に、割増賃金の支払義務が生じる、ということになります。

 

なお、ここでいう1日とは、就業規則その他に別段の定めがない限り、午前0時から午後12時まで、1週とは、日曜日から土曜日までを指しています。

(弁護士 國安耕太)

 

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労務管理2

平成25年の統計では、1年間に、賃金手当等に関する紛争(主に未払残業代請求)は、労働審判1456件、民事訴訟1929件の合計3385件が申し立てられています。

 

ちなみに、一般的に未払残業代請求と言われていますが、法律上「残業代」という概念は存在しません。

ご存知でしたか?

 

実は、法律上は、「割増賃金」という概念が存在しているだけなのです。

 

割増賃金については、労働基準法37条1項が規定しています。

 

(労働基準法37条1項)

使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

 

一読しただけでは、よくわからないかもしれませんが、ここで重要なのは、「労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては・・・割増賃金を支払わなければならない」とされていることです。

 

つまり、割増賃金は、いわゆる残業の場合のほか、所定の労働時間を勤務時間前に延長した場合に支払義務が生じる、すなわち、残業の場合のほか、早出の場合や、休日労働の場合にも支払義務が生じるということになります。

 

このように、一般的に、残業代請求と呼ばれているものには、早出の場合や、休日労働の場合も含まれており、法律上は、「割増賃金」の請求、ということになります。

(弁護士 國安耕太)

 

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労務管理1

先日(平成29年10月20日)、つぎのような報道がありました*。

 

「日本放送協会(NHK)の山口放送局(山口市)で残業代の未払いがあったとして、山口労働基準監督署(同)が先月、労働基準法違反で同放送局に是正勧告を出していたことがわかった。勧告は9月29日付。

関係者やNHKの説明によると、同放送局に勤める一部の職員が申請した勤務時間が、タイムカードで記録された労働時間より短くなっていたことが労基署の調査で判明。労基署から残業代が未払いになっている可能性があると指摘されたことを受け、NHK側が同放送局内の勤務時間の実態を調べた結果、今年4~6月に、11人の職員に計約9万2千円分の未払い残業代があることがわかり、労基署から是正勧告を受けたという。」

 

この事件は、NHKの山口放送局が、山口労働基準監督署から、労働基準法違反で是正勧告を出されていた、というものです。

このように、近時、未払残業代をめぐって、労基署の調査や勧告がなされたり、訴訟や労働審判が申し立てられることが増えています。

 

確かに、実際に賃金手当等に関する紛争が生じる会社は一握りかもしれません。

 

しかし、賃金手当等に関する紛争が生じた場合、マクドナルド事件のように、1人あたり数百万円の支払いを求められる可能性もあり、会社の経営基盤に重大なダメージを与える可能性があります。

 

また、近時、働き方改革が叫ばれ、労働時間を巡る世間の視線は厳しいものになってきています。

 

そのため、労働時間の管理を適切に行っていくことは、会社の維持発展には必要不可欠といえます。

(弁護士 國安耕太)

 

*

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171020-00000017-asahi-soci

 

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労働者災害補償保険法の「業務上の事由」の範囲

先日(平成28年7月8日)、ある交通事故が、労働者災害補償保険法(以下「労災法」)上の「業務上の事由*1」による事故といえるか、争われた事案に関し、最高裁判決が出されました*2。

 

具体的な事案としては、

ある労働者が、業務を一時中断して事業場外で行われた歓送迎会に途中参加した後、業務を再開するため自動車を運転して事業場に戻るついでに、参加者をその住居に送る途中で発生した交通事故により死亡した

というものです。

 

原審(東京高判平成26年9月10日)は、

歓送迎会は、親睦を深めることを目的として、会社の従業員有志によって開催された私的な会合であり、運転行為は、事業主の支配下にある状態でされたものとは認められない*3

として、当該労働者の死亡は、労災法上の「業務上の事由」によるものとはいえないと判断しました。

 

これに対し、最高裁は、

当該労働者が、歓送迎会に参加しないわけにはいかない状況に置かれ、その結果、歓送迎会の終了後に当該業務を再開するために事業場に戻ることを余儀なくされていたこと

歓送迎会が、会社の事業活動に密接に関連して行われたものといえるものであったこと

事業場と住居の位置関係に照らし、飲食店から事業場へ戻る経路から大きく逸脱するものではないこと

等の事情を総合すれば、歓送迎会が事業場外で開催され、アルコール飲料も供されたものであり、当該参加者を住居まで送ることについて明示的な指示を受けてされたものとはうかがわれないこと等を考慮しても、なお本件会社の支配下にあったというべき

として、当該労働者の死亡が労災法上の「業務上の事由」にあたるとしました。

 

本判決は、事例判断ですが、労災法の適用範囲を考えるにあたって参考になる事例といえるでしょう。

(弁護士 國安耕太)

 

*1

労災法は、「業務上の事由または通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に関して保険給付を行うほか、社会復帰促進等事業を行うことができる」(労災法2条の2)と定め、保険給付ができる場合を「業務上の事由」または「通勤」による災害に限定しています。

 

*2

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/000/086000_hanrei.pdf

 

*3

判例上「労働者災害補償保険法に基づく業務災害に関する保険給付の対象となるには、それが業務上の事由によるものであることを要するところ、そのための要件の一つとして、労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にある状態において当該災害が発生したことが必要である」とされています。

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固定残業代制度にご注意を!

最近、主として残業代(割増賃金)請求対策として、固定残業代制度を設けている会社があります。

たとえば、①基本給の中に一定時間数の残業代を含むとしていたり、②一定時間数の残業代に相当する一定の金額を手当で支給する、といった制度を定めている場合です。

 

当然ですが、このような固定残業代制度を就業規則等で設けること自体は、適法です。

しかし、適切な規程の仕方をしていないと、後に裁判になった際に、残業代を含んでいるとはいえない(①の場合)とされたり、当該手当は残業代の支払いとはいえない(②の場合)とされ、残業代として支払われていると認められない可能性があります。

 

具体的な制度設計としては、㋐残業代として支払うことが明確にされており、㋑基本給にあたる部分と残業代にあたる部分とが明確に区別できていることが重要です。

 

また、固定残業代制度は、あくまでも一定時間数の残業代を含んでいるだけですから、当該一定時間数を超えた場合は、超えた分の残業代を支払う必要があります。

当該一定時間数を超えているにもかかわらず、超えた分の残業代が支払われていない場合、残業代として支払われていると認められない可能性があります。

 

このように、固定残業代制度を設ける場合には、その規程の仕方に十分注意する必要があります。

固定残業代制度を設ける場合は、ぜひ一度弁護士、社会保険労務士等の専門家に相談してみることをお勧めします。

(弁護士 國安耕太)

 

 

 

 

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会社に損害を加えた従業員に対し、損害賠償請求できるか

従業員が、会社に損害を加えた場合、会社は、当該従業員に対し、損害賠償請求できるのでしょうか。

たとえば、従業員が、社用車を運転中、物損事故を起こした場合に、当該従業員に対し、その損害全額の賠償を求めることはできるのか、相談を受けることがあります。

 

従業員が会社に対し、損害を加えた場合、その損害を賠償する責任が生じます。

しかし、会社は、従業員の活動によって利益を得ていますから、従業員の活動によって被った損害についても、一定程度負担すべき、とするのが判例・通説の考え方です。

具体的には、最判昭和51年7月8日(民集第30巻7号689頁)は、

「使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償または求償の請求をすることができる」

と判示しています。

 

したがって、従業員が、社用車を運転中、物損事故を起こした場合であっても、会社が、当該従業員に対して請求できる損害賠償請求は、信義則上相当と認められる限度に制限されます。

 

なお、上記はあくまでも、会社と従業員間の内部分担の問題です。

会社は、物損事故の被害者に対して、直接責任を負います(民法715条1項、使用者責任)。

従業員が責任を負うことを理由に、第三者に対する賠償義務を免れることはできませんので注意が必要です。

(弁護士 國安耕太)

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厚生労働省、長時間労働に関する行政指導で企業名を初めて公表

先日(平成28年5月19日)、厚生労働省が、長時間労働に関する行政指導で企業名を初めて公表したとの報道がありました*1。

 

千葉市にある棚卸し業務の代行会社「エイジス」が、従業員63人に対し、違法に月100時間を超える残業をさせていたとのことです。

 

昨年、厚生労働省は、過重労働対策強化のため、違法な長時間労働を行う事業所に対して監督指導を行う「過重労働撲滅特別対策班(通称「かとく」)」を、東京労働局と大阪労働局に新設し、社会的に影響力の大きい企業が、違法な長時間労働を繰り返している場合には、是正を指導した段階で公表するとの方針を発表していました*2。

 

なお、具体的には、

①複数の都道府県に事業場を有している企業であって、中小企業に該当しない企業であること

②㋐労働時間、休日、割増賃金に係る労働基準法違反が認められ、かつ㋑1か月当たりの時間外・休日労働時間が100時間を超えている違法な長時間労働を行わせていること

③1箇所の事業場において、10人以上の労働者または当該事業場の4分の1以上の労働者に違法な長時間労働を行わせていること

④上記①②のような実態が概ね1年程度の期間に3箇所以上の事業場で繰り返されていること

という要件を満たしている場合に、指導・公表の対象となります*3。

 

このように、近時は、従業員に違法な長時間労働を行わせることによって、従業員自身に健康障害が発生し、損害賠償請求を受けてしまうというリスクのみならず、公表されることによって、企業イメージや信用の低下というリスクも生じ得ます。

 

このような状況にかんがみて、企業にとっては、長時間労働の是正が喫緊の課題といえるでしょう。

(弁護士 國安耕太)

 

*セミナーを開催いたします。

『新入社員定着セミナー』

開催日時:5月26日(木)

セミナー 19~20時30分

懇親会  20時30分~

場所:株式会社アセットリード「セミナールーム」

東京都新宿区西新宿1-26-2 新宿野村ビル9F

お問合せ先:03-6453-8270

株式会社TGIインデペンデント(担当:小林)

参加資格:なし(経営者・人事担当者向けセミナーになります。)

講師:森 泰造(株式会社みらい創世社代表取締役)

村中幸代(ノースブルー社会保険労務士事務所代表)

定員:30名

受講料:5000円

 

*1

http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/ann?a=20160519-00000046-ann-soci

 

*2

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000085324.pdf#search=’%E9%81%8E%E9%87%8D%E5%8A%B4%E5%83%8D%E6%92%B2%E6%BB%85%E7%89%B9%E5%88%A5%E5%AF%BE%E7%AD%96%E7%8F%AD+%E5%8E%9A%E7%94%9F%E5%8A%B4%E5%83%8D%E7%9C%81+%E5%85%AC%E8%A1%A8

 

*3

「長時間労働に係る労働基準法違反の防止を徹底し、企業における自主的な改善を促すため、社会的に影響力の大きい企業が違法な長時間労働を複数の事業場で繰り返している場合、都道府県労働局長が経営トップに対して、全社的な早期是正について指導するとともに、その事実を公表する。」

 

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有期労働契約の無期転換ルールにご注意を!

労働契約法18条1項は、有期労働契約の無期転換ルールを定めています。

 

*労働契約法18条1項

「同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除く。以下この条において同じ。)の契約期間を通算した期間(次項において「通算契約期間」という。)が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。」

 

この規定は、要するに、

①同一の使用者との間で、

②有期労働契約が通算で5年を超える労働者は、

③現に締結している有期労働契約の期間満了までに、

④使用者に申し込むことにより、

無期労働契約に転換することができる、というものです。

 

これだけを読むと、有期労働契約の期間が、単に5年を超えなければ、無期転換権は生じないように読めます。

たしかに、1年の有期労働契約の場合、その通算期間が5年を「超える」のは、5回目の更新時、すなわち、有期労働契約が6年目に入った時点ですから、5回目の更新をしなければ、無期転換権は生じないことになります*1。

 

他方、3年の有期労働契約の場合は、1回更新しただけで、その通算期間が5年を超えてしまいます。

そのため、1回目の更新時、すなわち、4年目に入った時点で、無期転換権が生じることになります。

 

「5年経過していないから、大丈夫!」と思っていると思わぬ痛手を被ることになりかねません。

有期労働契約の無期転換ルールを正確に理解しておきましょう。

(弁護士 國安耕太)

 

*1

ただし、労働契約法19条によって、更新拒絶(雇止め)が無効となる場合があります。

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パワハラにご注意を!

近年、職場のパワーハラスメントに関する都道府県労働局や労働基準監督書等への相談件数が、増加しています。

 

パワーハラスメントとは、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」をいいます。

 

上司から部下に対する行為が典型例ですが、同僚間、さらには部下から上司に対して行われるものも含まれます。

 

また、つぎの6つ行為が、パワーハラスメントの典型的な行為とされています(なお、これ以外は問題ないということではありません。)。

(1)身体的な攻撃・・・暴行、傷害など

(2)精神的な攻撃・・・脅迫、名誉棄損、ひどい暴言など

(3)人間関係からの切り離し・・・隔離、仲間外し、無視など

(4)過大な要求・・・業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害など

(5)過小な要求・・・業務上の合理性がなく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じる、仕事を与えないなど

(6)個の侵害・・・私的なことに過度に立ち入るなど

 

このうち、(1)については、どのような場合であっても許容されるものではなく、身体的な攻撃=パワーハラスメントと認定されるのが通常です。

また、(2)および(3)についても、通常、業務遂行に必要な行為であるとはいえないことから、原則として「業務の適正な範囲」を超えるもの、すなわちパワーハラスメントと認定される可能性が極めて高いといえます。

 

したがって、自社内で、(1)~(3)に該当する行為がなされているのを見掛けたら、即座に是正する必要があります。

 

つぎに、(4)~(6)の類型ですが、これらについては、程度問題ということもあり、パワーハラスメントかどうかが個別具体的に検討されることになります。

 

部下を熱心に教育していたつもりが、ある日突然パワーハラスメントだと訴えられる。

そういったことがないよう十分ご注意ください。

(弁護士 國安耕太)

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社員の金銭的不正行為への対応2

先週に引き続き、従業員の金銭的不正行為への対応です。

 

従業員の金銭的不正行為が発覚した場合、会社は、事実確認を入念に行ったうえで、

①懲戒処分(懲戒解雇)をするか否か

②損害の賠償を請求するか否か

③刑事告訴をするか否か

を検討することになります。

 

それでは、前回の続きです。

 

②損害の賠償を請求するか否かについて

 

①の懲戒処分とは別に、金銭的不正行為をした従業員に対しては、損害賠償請求または不当利得返還請求をすることができます。

ただし、一方的に給与や退職金と相殺することはできないので、注意が必要です(労働基準法24条1項本文*1、賃金全額払いの原則)。

そのため、退職金と相殺したり、退職金を放棄させるのであれば、従業員の同意が必要となります。

過去の判例でも、労働者の自由な意思に基づいてなされた退職金債権放棄の意思表示が有効と判断されています(最判昭和48年1月19日、民集27巻1号27頁、シンガー・ソーイング・メシーン事件*2)。

 

③刑事告訴をするか否かについて

 

刑事告訴を行ったとしても、会社が被った損害が回復されるわけではありません。

むしろ刑事告訴をすることによって、会社が悪い意味で話題になってしまう可能性もあります。

また、刑事告訴は、義務でもありません。

 

ただ、金額が大きかったり、態様が悪質であったような場合、会社として放置できないということもあるでしょう。

また、他の従業員との関係を考慮して、厳しい姿勢で臨む必要がある場合もあります。

それゆえ、刑事告訴をする場合には、これによって生じるメリットとデメリットを十分検討することが重要です。

なお、証拠がないにもかかわらず、従業員を告訴したような場合、会社の側に名誉毀損が成立することもあるので、注意が必要です。

(弁護士 國安耕太)

 

*1

労働基準法24条1項本文

「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」

 

*2

最判昭和48年1月19日

「全額払の原則の趣旨とするところは、使用者が一方的に賃金を控除することを禁止し、もつて労働者に賃金の全額を確実に受領させ、労働者の経済生活をおびやかすことのないようにしてその保護をはかろうとするものというべきであるから、本件のように、労働者たる上告人が退職に際しみずから賃金に該当する本件退職金債権を放棄する旨の意思表示をした場合に、右全額払の原則が右意思表示の効力を否定する趣旨のものであるとまで解することはできない。」

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社員の金銭的不正行為への対応1

最近、従業員の金銭的不正行為(窃盗、横領、詐欺等)への対応についてアドバイスを求められることが多くなっています。

 

従業員の金銭的不正行為が発覚した場合、会社は、事実確認を入念に行ったうえで、

①懲戒処分(懲戒解雇)をするか否か

②損害の賠償を請求するか否か

③刑事告訴をするか否か

を検討することになります。

 

以下、個別にみていきましょう。

 

①懲戒処分(懲戒解雇)をするか否かについて

 

まず、現在の我が国の法制度は、解雇権濫用の法理*1*2を採用しており、労働者を手厚く保護しています。

そのため、懲戒処分の中でも懲戒解雇については、慎重な判断が求められることが多いです(すなわち、懲戒解雇が無効となることが多々あります。)。

 

しかし、従業員の金銭的不正行為に関しては、過去の裁判例では、その額や回数を問わず、有効とされる傾向にあります。

そのため、従業員の金銭的不正行為に関し、懲戒解雇を行っても、後に無効とされる可能性は低いといえます。

 

ただし、あくまでも懲戒事由に該当する事実を証明できる場合であることが必要です。

過去の裁判例では、従業員が、使途不明金の一部を着服した旨の自認書および念書を書いていた事案において、事実に即して書かれたとはいい難く、これによって着服の事実を基礎づけることはできないとされたものがあります*3。

それゆえ、本人が認めているだけでなく、客観的な資料に基づいて事実を証明できるようにしておかなければなりません。

 

また、実務上は、懲戒解雇事由に該当する事実を証明できる場合であっても、懲戒解雇とせずに諭旨解雇や普通解雇、自主退職にとどめるということもありえます。

このあたりは、金銭的不正行為の額、被害弁償の有無、これまでの処分事例との均衡等を考慮して、判断していくことになります。

 

なお、②損害の賠償を請求するか否か、③刑事告訴をするか否かについては、次回解説します。

(弁護士 國安耕太)

 

*1

労働契約法16条

「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」

 

*2

最判昭和50年4月25日(労判227-32、日本食塩製造事件)

「使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になると解するのが相当である。」

 

*3

東京地八王子支判平成15年6月9日(労判861号56頁、京王電鉄府中営業所事件)

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労働者派遣のルールが変わります!

先日(平成27年9月17日)、当事務所主催(共催)の第3回企業法務セミナーを開催しました。

当日は、生憎の天気でしたが、多数の方にご参加いただきました。ありがとうございます。

 

さて、その際、当事務所髙安弁護士が、「雇用と請負」の相違点、メリット・デメリット等を解説しましたが、この他、雇用との区別が問題となる契約形態として、「派遣」があります。

 

この派遣に関する法律(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律。以下「派遣法」)が改正され、今月30日から施行されます*。

今回の改正では、派遣労働は、 臨時的・一時的なものであることを原則とするという考え方のもと、派遣労働者の雇用の安定やキャリアアップを図ることを目的としています。

 

主な改正点は、つぎの4点です。

①労働者派遣事業を許可制に統一

②期間制限のルールの変更

③派遣元事業主の義務の強化

④労働契約申込みみなし制度の導入

 

まず、①についてですが、これまで、労働者派遣事業には、一般労働者派遣事業(許可制)と特定労働者派遣事業(届出制)の2種類が存在していました。

これが、許可制に一本化されます。

 

つぎに、②についてですが、これまで、特定の業務以外の業務に対する労働者派遣に関する派遣期間の上限は、原則1年(最長3年)とされていました。

これに対し、改正法では、つぎの2つのルールが設けられました。

㋐派遣先事業所単位の規制

一つの事業所において、労働者派遣の受入れを行うことができる期間が、原則3年以内となります。

㋑派遣労働者個人単位の規制

派遣先の事業所における同一の組織単位(課)において、同一の派遣労働者を受け入れることができる期間が、原則3年以内となります。

たとえば、甲社の人事課に派遣されていたAさんを、3年後に、同社の会計課に派遣することは可能です。

 

③については、派遣元事業主に、つぎの義務が課されました。

㋐雇用安定措置の実施

派遣元事業主は、同一の組織単位に継続して3年間派遣される見込みがある派遣労働者に対し、派遣終了後の雇用を継続させる措置(雇用安定措置)を講じる義務があります。

㋑キャリアアップ措置の実施

派遣元事業主は、雇用している派遣労働者のキャリアアップを図るため、

・段階的かつ体系的な教育訓練

・希望者に対するキャリア・コンサルティング

を実施する義務があります。

㋒均衡待遇の推進

派遣元事業主は、派遣労働者から求められたときは、賃金の決定、教育訓練の実施および福利厚生の実施について、派遣先の労働者と待遇の均衡を図るために考慮した内容を説明する義務があります。

 

最後に、④について、派遣先が違法派遣を受け入れた場合、その時点で、派遣先が派遣労働者に対して、その派遣労働者の派遣元における労働条件と 同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みをしたものとみなされます。

 

以上のとおり、派遣法の改正は、国が正規雇用をより推進していこうとしていることを明確に示しています。

派遣業を営んでいる方、派遣の利用を検討している方は、本改正と共に今後の動向にご注意ください。

(弁護士 國安耕太)

 

* http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000077386.html

 

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リストラと解雇権濫用法理

本日、インターネット上に「東芝赤字転落 リストラ不可避」とのニュースが配信されていました*1。

 

使用者と労働者との労働契約を解消するためには、

①包括的同意(定年に達するなど一定の事由が発生すると当然に労働契約が終了するもの。「当然退職」)

②個別的同意(一般的に、労働者が退職を申込み、使用者が承諾する形で、双方の合意により労働契約を終了させるもの。「合意退職」)

③労働者の単独行為(労働者からの一方的な意思表示によって労働契約を終了させるもの。「辞職」)

といった方法がありますが、この他、

④使用者の単独行為(使用者からの一方的な意思表示によって労働契約を終了させるもの。「解雇」)

があります。

 

そして、リストラは、このうち④の「解雇」にあたります。

 

労働基準法上、この「解雇」は、自由に出来るのが原則です*2。

しかし、使用者からの一方的な意思表示による労働契約の解消である解雇は、従業員の生活に大きな影響を及ぼします。

そこで、裁判所は、「使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になる」として、実質的には解雇を制限してきました(「解雇権濫用の法理」)*3。

 

リストラ(整理解雇)も、解雇の一種ですから、原則的には自由であるものの、解雇権の濫用となるような場合は、無効となります。

そして、整理解雇の正当性を判断する際、多くの裁判例が、①人員削減の必要性、②整理解雇回避の努力の履行、③解雇対象者の人選の妥当性、④解雇手続の相当性の4つ要件を検討してきました。

 

したがって、本件でも、上記4つの要件を満たすよう慎重に手続を検討し、実行していくことになるでしょう。

(弁護士 國安耕太)

 

*1

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150914-00000112-mai-bus_all

 

*2

労基法19条は解雇制限、20条は解雇予告手当に関する条文ですが、いずれも時期・手当等の要件を満たせば、解雇は可能であることを前提としています。

 

*3

なお、現在では、労働契約法16条に同趣旨の規定がある。

「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」

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最低賃金法の引き上げ

先日(平成27年7月30日)、厚生労働省中央最低賃金審議会は、最低賃金を全国で16~19円引き上げる旨の小委員会報告を公表しました*1。

 

これにより、たとえば、東京では、最低賃金が現在の888円から19円上昇し、907円となります。

現在は、アルバイトの時給を900円にしているところもよく見掛けますが、改定後は法律違反となってしまいますので注意が必要です。

 

実際、毎年のように、労働基準監督署が、最低賃金法違反容疑で検察庁に書類送検しています*2。

特に、平成27年3月には、居酒屋経営者が逮捕されるという事件も起きています*3。

この事案では、平成23年1月1日から平成25年8月16日までの間、当該居酒屋の元労働者から、勤務した最後の月の給料が支払われない旨の賃金不払に関する申告が4件あり、労働基準監督署が、この申告を受け、当該居酒屋に対し、不払賃金を支払うよう行政指導を行ったにもかかわらず、その行政指導に従わず、再三の出頭要求に応じなかったようです。

 

通常は、逮捕までされることはあまりありませんが、この事案では、行政指導に従わず、再三の出頭要求に応じなかったことから、非常に悪質であると判断されたものと思われます。

 

労働法の分野では、労災、解雇や未払残業代がフォーカスされることが多いですが、最低賃金法にも注意するようにしてください。

(弁護士 國安耕太)

 

*1

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11201250-Roudoukijunkyoku-Roudoujoukenseisakuka/0000092841.pdf

 

*2

http://tokyo-roudoukyoku.jsite.mhlw.go.jp/jirei_toukei/souken_jirei.html

 

*3

http://tokyo-roudoukyoku.jsite.mhlw.go.jp/jirei_toukei/souken_jirei/backnumber/_121377.html

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ストレスチェック制度の義務化

本年(2015年)12月1日から、労働者を常時50人以上使用する事業場は、ストレスチェック制度が義務化されます(改正労働安全衛生法第66条の10・附則第4条)。

 

このストレスチェック制度に関し、本年7月22日、厚生労働省から、ストレスチェックの受検、結果の出力等を簡便に実施できるプログラムを開発しているとの発表がありました*1。

 

このプログラムには、つぎの機能の実装が予定されています。

① 労働者が画面でストレスチェックを受けることができる機能

② 労働者の受検状況を管理する機能

③ 労働者が入力した情報に基づき、あらかじめ設定した判定基準に基づき、自動的に高ストレス者を判定する機能

④ 個人のストレスチェック結果を出力する機能

⑤ あらかじめ設定した集団ごとに、ストレスチェック結果を集計・分析(仕事のストレス判定図の作成)する機能

⑥ 集団ごとの集計・分析結果を出力する機能

⑦ 労働基準監督署へ報告する情報を表示する機能

 

ただし、上記プログラムを使用する場合でも、社内規程を整備しておく必要がありますし、高ストレスと判定された者に対する面接指導等は、会社の側で準備・判断しておかなければなりませんので注意が必要です(詳細は、厚生労働省のストレスチェック制度実施マニュアルをご覧ください。*2)。

 

上記プログラムがどのようなものになるのか、まだ不透明な部分もありますが、上手に活用して、ストレスチェックの実施に備えてください。

 

なお、このストレスチェック制度の義務化に関し、来週8月6日木曜日、社会保険労務士・精神保健福祉士の田中豪先生に「企業のメンタルヘルス対策の最前線(仮)」についてご講演いただきます。

田中先生は、県警本部、大手家電量販店、大手不動産会社等にてメンタルヘルスケアサポートを手掛けた、企業のメンタルヘルス対策の専門家です。

非常に貴重な機会ですので、ぜひ参加をご検討ください。

 

【第7回JSHセミナー】

[日時]平成27年8月6日(木)19時~22時

[場所]フレンチバル&レストランジェイズ TEL 03-3365-0341

東京都新宿区歌舞伎町1-1-16 テイケイトレードビルB1

[定員]25名

[会費]事前申込5500円、当日6500円

 

(弁護士 國安耕太)

 

*1

http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/pdf/150722-1.pdf

*2

http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/pdf/150507-1.pdf

 

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セクハラと会社の責任

昨日(平成27年7月21日)、上司によるセクハラ等が原因で自殺したとして、レストランチェーン「サイゼリヤ」の元店員の遺族が、会社等に対し、約9800万円の損害賠償を求める訴訟を提起したとのニュースがありました*1。

 

セクハラによって、従業員が自殺したり、うつ病等に罹患してしまった場合、セクハラに直接の責任がある者だけでなく、会社自体も損害賠償責任を負う可能性があります。

すなわち、セクハラをした本人は、不法行為に基づく損害賠償義務を負いますが(民法709条)、その使用者である会社も、民法の使用者責任の規定*2によって、不法行為に基づく損害賠償義務を負うことになります。

 

詳細な事実関係は今後明らかになると思いますが、セクハラで、会社が高額の賠償を命じられる、といった事態も十分考えられると思います。

 

なお、セクハラに関しては、厚生労働省が、職場におけるセクシュアルハラスメント防止のために講ずべき措置について資料を開示しています*3。

これらを参考にしたり、専門家である弁護士、社会保険労務士に相談する等して、職場環境をきちんと整えるようにしましょう。

(弁護士 國安耕太)

 

*1

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150721-00000130-jij-soci

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150721-00000075-mai-soci

 

*2 民法715条1項

「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。」

 

*3

http://www.positiveaction.jp/09/09_07.html

http://www.positiveaction.jp/09/09_08.html

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精神障害と労災

厚生労働省は、毎年「過労死等の労災補償状況」を調査・公表していますが、先日(平成27年6月25日)、その平成26年度版が公表されました*1。

これによれば、精神障害を理由とする労災請求件数は1456件、支給決定件数は497件で、いずれも過去最多を記録したようです。

 

また、平成23年と少し古い情報ですが、厚生労働省「みんなのメンタルヘルス総合サイト」によれば、精神疾患により医療機関にかかっている患者数は、約320万人との統計が出されています*2。

 

このように現在の日本社会には、多くの精神疾患を有する患者を抱えており、どの会社においても、社員がうつ病等に罹患してしまうという危険を内包しているといえます。

そして、いったん社員が精神疾患に罹患してしまうと、当該社員のケア、業務の調整等、会社は多大なコストを投じなければならなくなります。

また、社員が亡くなってしまった場合には、数千万円から1億円超の損害賠償義務を負う可能性も十分あります。

 

このように企業においてメンタルヘルス対策をしておくことは、必要不可欠といえます。

 

なお、精神障害を理由とする労災と認定されるためには

①対象疾病を発病していること。

②対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること。

③業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと。

という3要件を満たしている必要があります*3。

 

ただ、現実の運用では、業務による心理的負荷が強いか否かにかかわらず、業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したと認められなければ、業務起因性が肯定されてしまう傾向にありますので、注意が必要です。

(弁護士 國安耕太)

 

*1

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000089447.html

*2

http://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/data.html

*3

http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken04/dl/120118a.pdf

 

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従業員の退職後の秘密保持義務

先日、某家電量販大手の元幹部社員が、退職して競合他社に再就職後、退職前の会社の事業に関する情報を不正に取得したとして、不正競争防止法違反で逮捕されました。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150113-00050083-yom-soci

 

不正競争防止法は、事業者間の公正な競争を確保することを目的とする法律で、様々な行為を「不正競争」行為として規制をしていますが、本件は、このうち営業秘密の不正取得行為が問題とされています。

ここで、不正取得行為は、不正競争防止法上「窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により営業秘密を取得する行為」と定義されています(同法2条1項4号)。

そのため、単に転職後に、転職前に得た情報を利用しただけでは、不正競争防止法には違反しません。

 

ただし、「労働者が雇用関係中に知りえた業務上の秘密を不当に利用してはならないという義務は、不正競争防止法の規定及びその趣旨並びに信義則の観点からしても、雇用関係の終了後にも残存する」(仙台地判平成7.12.22、判タ929-237)というのが、通説的な見解です。

したがって、必ずしも転職前に得た情報を自由に利用できるわけではありませんので、注意が必要です。

(弁護士 國安耕太)

 

 

 

 

 

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妊娠による降格の可否

すでにニュース等になっていますが、昨日(平成26年10月23日)、妊娠による降格に関し、最高高裁判決が出されました。

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/577/084577_hanrei.pdf

 

判決の枠組みはつぎのとおりです。

 

①女性労働者につき妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は、原則として違法

「一般に降格は労働者に不利な影響をもたらす処遇であるところ、上記のような均等法1条及び2条の規定する同法の目的及び基本的理念やこれらに基づいて同法9条3項の規制が設けられた趣旨及び目的に照らせば、女性労働者につき妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は、原則として同項の禁止する取扱いに当たる」

 

②例外的に、㋐当該労働者が、真に降格を承諾したとき、および㋑特段の事情が存在するときは、例外的に適法

㋐「当該労働者が軽易業務への転換及び上記措置により受ける有利な影響並びに上記措置により受ける不利な影響の内容や程度、上記措置に係る事業主による説明の内容その他の経緯や当該労働者の意向等に照らして、当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき」

㋑「事業主において当該労働者につき降格の措置を執ることなく軽易業務 への転換をさせることに円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障がある場合であって、その業務上の必要性の内容や程度及び上記の有利又は不利な影響の内容や程度に照らして、上記措置につき同項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するとき」

は、同項の禁止する取扱いに当たらない

 

今後、様々な方が、詳細な分析をされると思いますが、妊娠による降格を原則として無効とし、例外的に有効となる一般的な基準を示した点で、非常に大きな意義を有する判決であるといえます。

 

みなさまの会社におかれましても、これを機に社内の人事規定について見直しをしてみることをお勧めいたします。

(弁護士 國安耕太)

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スーパーの冷凍庫に入る行為と刑事罰

1 先日、つぎのニュースが、話題となりました。

「スーパーの冷凍庫に客入り撮影 ツイッターに投稿」

http://www.47news.jp/CN/201308/CN2013082101001073.html

軽い気持ちでこのような行動に出たのでしょうが、場合によっては刑事罰を科せられる可能性があります。

 

2 まず、当初から、アイスケースに入る目的でスーパーに立ち入ったような場合は、住居侵入罪(刑法130条前段)が成立します。

(参考判例:最判昭和58年4月8日、刑集 37巻3号215頁)

「刑法一三〇条前段にいう「侵入シ」とは、他人の看守する建造物等に管理権者の意思に反して立ち入ることをいうと解すべきであるから、管理権者が予め立入り拒否の意思を積極的に明示していない場合であっても、該建造物の性質、使用目的、管理状況、管理権者の態度、立入りの目的などからみて、現に行われた立入り行為を管理権者が容認していないと合理的に判断されるときは、他に犯罪の成立を阻却すべき事情が認められない以上、同条の罪の成立を免れないというべきである。」

このような目的での立ち入りは、スーパーの管理権者が容認していないといえるからです。

住居侵入罪の罪責は、「3年以下の懲役又は10万円以下の罰金」です。

なお、買物目的でスーパーに来店し、アイスケースを見て犯行を思い立ったような場合には、住居侵入罪は成立しません。

 

3 つぎに、アイスケースに入っていたアイスについて、器物損壊罪が成立しえます。

器物損壊罪(刑法261条)における「損壊」とは、物の効用を害する一切の行為を指します。

(参考判例:最決昭和35年12月27日、刑集14巻14号2229頁)

「校庭に「アパート建築現場」と墨書した立札を掲げ巾六間長さ二〇間の範囲で二箇所にわたり地中に杭を打込み板付けをして、もって保健体育の授業その他生徒の課外活動に支障を生ぜしめたときは、該物件の効用を害するから器物損壊罪を構成するものと解するを相当とする。」

他人が寝転んだアイスを購入したいと考える人は通常いないので、当該アイスをアイスとして売却することは、事実上不可能であり、物の効用を害する行為といえます。

過去の判例では、食器に放尿する行為が「損壊」にあたるとされています(大判明治42年4月16日、刑録 15輯452頁)。

器物損壊罪の罪責は、「3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料」です。

 

4 最後に、アイスケースに入る行為につき、スーパーに対する威力業務妨害罪が成立する可能性があります。

威力業務妨害罪(刑法234条)における「威力」とは、人の自由意思を制圧するに足る勢力の使用をいいます。

(参考判例:最判昭和28年1月30日、刑集 7巻1号128頁)

「「威力」とは犯人の威勢、人数及び四囲の状勢よりみて、被害者の自由意思を制圧するに足る犯人側の勢力と解するを相当とするものであり、且つ右勢力は客観的にみて被害者の自由意思を制圧するに足るものであればよいのであって、現実に被害者が自由意思を制圧されたことを要するものではないと解すべきものである。」

本件では、客がスーパーの売り場にあるアイスケースに入ることによって、必然的にアイスを販売するという業務の執行を中止または制限せざるを得ない状況になります。

そのため、当該行為自体が、業務主催者に心理的威圧を加えるものとして、「威力」に該当すると考えることができます。

過去の裁判例では、大阪万博の展示館「太陽の塔」の地上60メートルの右眼孔部に入り込む行為が「威力」にあたるとされています(大阪地判昭和47年2月17日、刑事裁判月報4巻2号394頁)。

威力業務妨害罪の罪責は、「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」です。

 

5 以上のとおり、スーパーの冷凍庫に入る行為は、住居侵入罪、器物損壊罪および威力業務妨害罪の罪責を負う可能性があります。

また、民事上多額の損害賠償を負担しなければならない可能性もあります。

このように軽い気持ちで行った行為によって、思わぬ刑罰・損害賠償責任を負担することがありますので、十分注意してください。

(弁護士 國安耕太)

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