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2021年5月の投稿

企業の倒産処理手続11(私的整理3)

前回に引き続き、準則型の私的整理についてです。

 

次に、中小企業再生支援協議会(以下「協議会」といいます。)による再生支援事業についてです。

 

協議会は、中小企業の事業再生に向けた取り組みを支援する「国の公的機関」(経済産業省委託事業)として47都道府県に設置されており、商工会議所等が受託・運営しています。

 

協議会による再生支援事業は、中小企業再生支援協議会事業実施基本要領というルールに基づき協議会の関与の下、行われます。

 

まず、協議会の統括責任者等と企業の代表者等との間で事業の再生に向けた取り組みに関する相談が行われ、統括責任者等が企業の財務状況等を把握した上で、課題解決に向けた助言、支援施策・支援機関の紹介を行います(第一次対応)。

また、企業が再生計画策定支援(第二次対応)を希望する場合は、統括責任者等は、事業価値があり関係者の支援により再生が可能であるか等の観点から、これを行うことが適当であるかを判断します。

 

再生計画策定支援を行うことが適当であると判断された場合、統括責任者は、企業の承諾を得たうえで、主要債権者に対し、企業の財務状況や再生可能性を説明し、主要債権者の意向を確認します。

主要債権者が反対しないときは、統括責任者は、再生計画の策定を支援することを決定し、企業の再生を支援する外部専門家で構成される個別支援チームを編成し、対象債権者(主要債権者や金融機関等の債権者)に、事業の再生への協力を要請します。

その後、個別支援チームが財務および事業のデューデリジェンスを実施し、企業は、個別支援チームの支援を受けて、再生計画案を作成します*。

 

再生計画案が作成された後、債権者会議を開催し、対象債権者に対し、再生計画案の説明等が行われ、対象債権者全員の同意が得られた場合には、再生計画が成立します。

再生計画成立後は、協議会のフォローアップを受けながら、再生計画に基づいて、事業を再生していくことになります。

(弁護士 國安耕太)

 

*

企業が、手続外において、会計士を選任して、自らデューデリジェンスを実施した上で、再生計画案を作成し、それを協議会が検証する方法(検証型)もあります。

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企業の倒産処理手続10(私的整理2)

前回は、準則型ではない私的整理の一般的な流れについて解説しましたが、今回は、準則型の私的整理についてです。

 

準則型の私的整理は、一定のルールに基づく私的整理です。準則型の私的整理は、企業の再建が目的であり、清算を目的としていません。

 

準則型の私的整理の代表的なものとしては、私的整理に関するガイドライン(以下「ガイドライン」といいます。)によるものや中小企業再生支援協議会による再生支援事業によるものなど*1があります。

 

まず、ガイドラインによる私的整理についてです。

 

ガイドラインによる私的整理は、会社更生法や民事再生法などの手続によらずに、債権者と債務者の合意に基づき、債務(主として金融債務)について猶予・減免などをすることにより、経営困難な状況にある企業の再建を図るものです。

 

ガイドラインでは、おおよそつぎの流れで手続きが進んでいきます。

 

(1)債務者である企業が、主要債権者(主にメインバンク)に対して、ガイドラインによる私的整理を申し出たうえで、主要債権者が、企業の作成した再建計画案の実行可能性などを検討し、私的整理を進めるのが相当か判断します。

 

(2)相当と判断したときは、主要債権者と企業が連名で、一時停止通知*2を発し、これにより手続きが開始されます。

 

(3)手続開始から2週間以内に、同じく企業と主要債権者の連名で、第1回債権者会議に対象債権者を招集し、企業の財務内容や再建計画案の内容等の説明、意見の交換が行われ、再建計画案の実行可能性や企業の財務内容を調査検証する専門家の必要性を検討し、必要な場合には選任が行われます。

 

(4)第2回債権者会議では、第1回債権者会議後の調査結果の説明、意見交換が行われた上で、再建計画案についての同意期限が定められ、期限までに対象債権者全員の同意が得られれば、再建計画が実行されます*3。

(弁護士 國安耕太)

 

*1

他には、主に大規模な企業に関し、国から認証を受けた中立的な第三者機関が関与する「事業再生ADR」や、コロナなどの自然災害によって生活や事業が成り立たなくなった個人(個人事業主を含む)に関し、中立的な専門家が関与して私的整理を行う「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」、整理回収機構が関与する「企業再生スキーム」などもあります。

 

*2

一時停止通知は、再建計画が成立した場合に権利変更されることになる対象債権者(主に銀行と大口の取引先)に対して、個別的な権利行使等を控えるように求める通知のことです。

 

*3

全員の同意が得られない場合、通常は、法的整理に移行することになります。

 

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企業の倒産処理手続9(私的整理1)

これまでは、「法的整理」について、解説してきましたが、今回からは、「私的整理」について、解説していきます。

 

私的整理とは、裁判所が関与しない、債務者である企業と債権者などの利害関係人間の私的交渉によって行われる倒産処理手続です。

 

私的整理ガイドラインや事業再生ADRのように一定のルールに基づく準則型の私的整理もあれば、そのようなルールに基づかない私的整理もあります。

また、企業を解体する清算型の私的整理もあれば、企業を再生させる再建型の私的整理もあります。

 

さて、準則型でない私的整理については、特別なルールがあるわけではなく、関係者間の私的な交渉・合意によって行われるものであるため、その手続の進行、内容は千差万別です。

 

債権者が少数であれば、各債権者と個別に交渉して、私的整理が行われることも少なくありません。

他方で、複数のメインバンクや大口の取引先のある比較的規模の大きい中小企業では、つぎのような流れで私的整理が行われることもあるようです。

 

まず、債権者集会が招集されて、債務者である企業から倒産に至る経緯の報告、財務内容の説明、今後の方針の協議が行われます。

それに応じて、大口債権者を中心に、数名の債権者委員が選任され、債権者委員会が組織されます。

債権者委員会委員長が、管財人同様に企業の財産、帳簿等を占有、管理して財産状況の調査を行います。

その後、清算型の場合、総債権者の同意の下、財産を換価して、配当を実施し、私的整理を終了させます。

これに対し、再建型の場合、再建計画が策定され、債権者集会に討議を付して、大方の債権者の同意を得られたならば、その再建計画に基づいて、企業の再建が行われることになります*。

 

次回は、準則型の私的整理について解説していきます。

(弁護士 國安耕太)

 

*

総債権者の同意がある場合は特に問題となりませんが、一部の債権者が不同意の場合、当該債権者から破産申立がなされる可能性があります。

また、後に破産手続きに移行した場合、再建計画に基づいて弁済していたとしても、当該弁済が偏波弁済とされる可能性もあります。

 

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