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企業の倒産処理手続8(会社更生手続2)
企業の倒産処理手続8(会社更生手続2)
今回も引き続き、会社更生手続について、民事再生手続と比較しながら解説していきます。
民事再生手続と会社更生手続では、手続開始後の企業(債務者)の地位が異なります。
民事再生手続では、原則、企業は、財産の管理処分権および業務遂行権を失いません(民事再生法38条1項)。
これに対し、会社更生手続では、裁判所に選任された選任された管財人に財産の管理処分権が付与され、企業は財産の管理処分権を失います(会社更生法72条1項)。
また、これにあわせて、取締役の地位についても違いがあります。
民事再生手続では、原則としてその地位を失いませんが、会社更生手続では、更生計画認可の決定の時に原則退任することになります(会社更生法211条4項)。
最後に、株主の地位の違いについてです。
再生計画(民事再生手続)と更生計画(会社更生手続)において、株主の地位には大きな違いがあります。
再生計画において、株主の権利の変更は必ず記載しなければならない事項(必要的記載事項)ではなく、株主は議決権者でもないなど、株主は再生計画に取り込まれていません。
他方、更生計画において、株主の権利変更は必要的記載事項であり(会社更生法167条1項1号)、株主も原則として議決権者とされている(会社更生法166条1項)*など、株主は更生計画に取り込まれています。
これは、更生計画において募集株式の発行や組織変更など会社の組織再編に関する行為を行うことが予定されており、更生計画が株主に与える影響が大きいことから、株主に更生計画に関与する機会を与える趣旨とされています。
さて、これまで「法的整理」について解説してきましたが、次回からは、「私的整理」について解説していきます。
民事再生手続 | 会社更生手続 | |
根拠法令 | 民事再生法 | 会社更生法 |
手続の対象 | 原則限定なし | 株式会社 |
手続開始の原因 | 破産手続の原因となる事実の生ずるおそれなど | |
手続開始の申立人 | 企業(債務者) | 企業(債務者) |
債権者 | 一定の金額の債権者 | |
株主は不可 | 一定の議決権を持つ株主 | |
手続開始後の企業
(債務者)の地位 |
原則財産の管理処分権及び
業務遂行権を有する |
財産の管理処分権を失う |
取締役の地位 | 原則留任 | 原則退任 |
計画の名称 | 再生計画 | 更生計画 |
計画と株主 | 再生計画に取り込まれない | 更生計画に取り込まれる |
*
このように法律上は、原則、株主は議決権者であり、例外的に、債務超過の場合には、議決権を有しないとされています(会社更生法166条2項)。
ただし、会社更生手続の対象となる株式会社は、債務超過に陥っているケースが多く、株主が議決権を有しないケースも少なくないところです。
企業の倒産処理手続7(会社更生手続1)
前回まで、「法的整理かつ再建型」の代表的な手続である民事再生手続について解説してきました。
今回は、民事再生手続と同じ「法的整理かつ再建型」の手続である会社更生手続について、民事再生手続と比較しつつ、解説します。
会社更生手続とは、倒産またはそれに近い状態にある株式会社について、裁判所に選任された管財人に財産の管理処分権を付与し、更生債権者や更生担保権者等の多数の同意により可決された更生計画に基づいて、事業の再生を図る手続です。
本年(令和3年)3月24日、電力の小売り事業を行ういわゆる「新電力」の株式会社F-Powerが、この会社更生法の適用を東京地方裁判所に申請し受理されたと話題になったことをご存知の方もいらっしゃると思います*。
さて、民事再生手続と会社更生手続は、立案された計画に従って、債権者に弁済を行い、企業を再生させる手続である点では共通しており、同じ「法的整理かつ再建型」に分類されます。
他方で、根拠法令、手続の対象等において、違いがあります。
まず、民事再生手続の根拠が、民事再生法であるのに対し、会社更生手続の根拠は、会社更生法にあり、また、民事再生手続では、個人のほか、どのような法人でも対象となるのに対し、会社更生手続では、株式会社のみが対象となるという相違点があります。
つぎに、手続の開始原因については、両手続の開始原因が、(1)破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれがあるときおよび(2)事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することができないときであり、共通しています(民事再生法21条1項、会社更生法17条1項)。
これに対し、手続開始を申立てることができる者(申立人)の範囲は、異なっています。
民事再生手続では、債権者は、その債権額に関わりなく、手続開始を申立てることができます(民事再生法21条2項)。
一方、会社更生手続では、債権者のうち、当該株式会社の資本金の額の10分の1以上の金額の債権を有する者のみ、手続開始を申立てることができます。(会社更生法17条2項1号)。
また、民事再生手続では、株主が手続開始を申立てることはできませんが、会社更生手続では、総株主の議決権の10分の1以上を有する株主であれば、手続開始を申立てることができます(会社更生法17条2項2号)。
なお、企業(債務者)が、申立てることができることは共通しています。
次回も、引き続き、民事再生手続と会社更生手続の違いについて解説していきます。
(弁護士 國安耕太)
*
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210325/k10012935141000.html
企業の倒産処理手続6(民事再生手続2)
破産手続と民事再生手続では、手続開始後の企業(債務者)の地位も異なります。
破産手続では、裁判所によって必ず破産管財人が選任され、財産の管理処分権は破産管財人に委ねられ、企業は財産の管理処分権を失います。
他方、民事再生手続では、原則、企業は、財産の管理処分権および業務遂行権を失いません(民事再生法38条1項)。
これは、企業(実質的には企業の代表者等)の人脈や経験等を企業の再生に生かすためです。
ただし、企業には公平かつ誠実に再生手続を追行する義務が課されており(民事再生法38条2項)、また、裁判所の選任する監督委員によって監督されるため*1、必ずしも自由に財産を管理・処分できるというわけではありません。
また、企業の財産管理・処分が失当であるとき、その他再生債務者の事業の再生のために特に必要があると認められるときには、管財人が選任され(民事再生法64条1項)、財産の管理処分権等は管財人に委ねられることもあります(民事再生法66条)。
つぎに、債権者に対する弁済方法についても異なります。
破産手続では、破産企業の全ての財産を金銭に換えた上で、債権者に弁済または配当することになります。
これに対し、民事再生手続では、再生計画に基づいて、将来の収益から、債権者に弁済または配当が行われます。
さらに、破産手続では、破産手続が終了した場合、企業は消滅することになります。
他方、民事再生手続では、企業の再生を目的とした手続であることから、当然のことながら、通常は、手続が終了したとしても企業が消滅することはありません*2。
次回は、民事再生手続と同じ「法的整理かつ再建型」の手続である会社更生手続について、民事再生手続と比較しつつ、解説します。
(弁護士 國安耕太)
破産手続 | 民事再生手続 | |
根拠法 | 破産法 | 民事再生法 |
手続開始の原因 | 債務超過・支払不能 | 破産手続の原因となる事実の生ずるおそれなど |
手続開始の申立人 | 債権者・債務者 | |
取締役個人も可 | 取締役個人は不可 | |
手続開始後の企業(債務者)の地位 | 財産の管理処分権を失う | 原則:財産の管理処分権及び業務遂行権を有する |
弁済方法 | 全財産を金銭化して配当 | 再生計画に従い将来の収益から弁済 |
手続終了後 | 企業は消滅 | 企業は存続 |
*1
法律上、監督委員は必ず選任されるものではなく「必要があると認められるとき」に選任されることになっているが(民事再生法54条1項)、実務上、管財人が選任されない場合、監督委員が選任されることが多いです。
*2
ただし、再生計画が遂行される見込みがないことが明らかになったときは、手続の廃止決定がなされ、民事再生手続は終了します(民事再生法194条)。この場合、裁判所は、職権で破産手続開始決定をするのが通常です。
企業の倒産処理手続5(民事再生手続1)
これまで「法的整理かつ清算型」の手続について解説してきました。
今回は「法的整理かつ再建型」の代表的な手続である民事再生手続について、破産手続と比較しつつ解説していきます。
民事再生手続とは、倒産またはそれに近い状態にある企業(債務者)が、原則、業務の遂行および財産の管理処分を継続しながら、再生計画を立案し、債権者の多数の同意により可決された再生計画に基づいて、事業や経済生活の再生を図る手続です。
民事再生手続と破産手続は、裁判所が継続的に関与する手続である点は共通しており、その点で、両手続は同じ「法的整理」に分類されます。
他方、破産手続では、企業の解体を目的としている「清算型」の手続であったのに対し、民事再生手続では、企業の再生を目的としている「再建型」の手続であることから、様々な違いがあります。
まず、当然のことですが、根拠法令が異なります。
破産手続の根拠が、破産法にあるのに対し、民事再生手続の根拠は、民事再生法にあります。
つぎに、手続きの開始原因にも違いがあります。
破産手続では、支払不能*1である場合か債務超過*2である場合に手続が開始されましたが、民事再生手続では、破産手続の開始原因となる支払不能または債務超過を生じる「おそれ」がある段階で、手続が開始されます(民事再生法21条1項前段)。
これは、企業の再生を図るには、支払不能や債務超過に至る前に、手続を開始し、手を打つ必要があるためです。
また、この企業の再生を図るという目的から、支払不能または債務超過のおそれがなくても、「債務者が事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することができないとき」にも手続きを開始することができます(民事再生法21条1項後段)。
なお、両手続ともに、債権者および債務者(企業自身)が手続開始を申立てることができます。
他方で、破産手続では、取締役個人が申立てをすることができるのに対し、民事再生手続では、できません。
次回も、引き続き、破産手続と民事再生手続の違いについて解説していきます。
(弁護士 國安耕太)
*1
支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態(破産法2条11項)
*2
その債務につき、その財産をもって完済することができない状態(破産法16条)