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相続をめぐる法律関係8 遺留分
第8回のテーマは、遺留分です。
遺言の自由を制限して、一定範囲の相続人のために法律上必ず留保される相続分の一定割合を「遺留分」といいます。
民法上、遺留分を有する者は、被相続人の兄弟姉妹以外の相続人、つまり、①子および代襲相続者、②直系尊属(被相続人の両親等)、③配偶者になります。
遺留分の割合は民法上、以下のように定められています。
①直系尊属のみが相続人である場合
被相続人の財産の3分の1になります。
例えば、被相続人の両親のみが相続人である場合に、被相続人が「父親にだけ財産を相続させる」との遺言を作成していたとします。
この場合、民法の規定に従えば、被相続人の母親は2分の1の相続分を有していたはずです。
そのため、被相続人の母親は、本来の相続分2分1×3分の1=6分の1を遺留分として有することになります。
よって、父親にだけ財産を相続させる旨の遺言があったとしても、被相続人の母親は、遺留分あることを主張して、遺産のうち6分の1を取得することができます。
②それ以外の場合
被相続人の財産の2分の1になります。
例えば、配偶者と子2人が相続人ある場合の、子1人の遺留分は、以下の計算により求めることができます。
民法の規定に従えば、子1人は、子全体の相続分2分の1÷2人=4分の1の相続分を有していたことになりますので、4分の1×2分の1=8分の1を遺留分を有することになります。
なお、相続開始および減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年以内に自己の遺留分を主張する遺留分減殺請求をしなければなりませんので、注意してください。
次回は、「遺言」についてご紹介します。
(弁護士 松村 彩)
相続をめぐる法律関係7 相続人の相続分
第7回のテーマは、相続人の相続分です。
相続人が複数いる場合に、各相続人が財産を受け継ぐことができる割合を「相続分」といいます。
相続分については、被相続人の遺言により指定がされているときには、それに従い、遺言がない場合には民法の定める割合に従うことになります。
民法の規定に従うと、相続分は以下のようになります。
①子のみが相続人になるとき
子が複数いる場合には、子の間で均等に相続分を分けることになります。
なお、非嫡出子(法律上の婚姻関係にない男女の間に生まれた子)であっても、嫡出子(法律上の婚姻関係にある男女の間に生まれた子)と同じ相続分を取得することになります。
②配偶者と子が相続人であるとき
その相続分は、配偶者と子とで各2分の1になります。
なお、子が複数いる場合には、子の相続分2分の1を均等に分けることになります。
例えば、配偶者と子2人がいる場合には、配偶者の相続分が2分の1、子の相続分は各自4分の1となります。
③配偶者と直系尊属(被相続人の両親等)が相続人であるとき
その相続分は、配偶者が3分の2、直系尊属が3分の1になります。
たとえば、被相続人の両親ともが相続人になる場合には、配偶者の相続分が3分の2、被相続人の両親が3分の1(被相続人の父が6分の1、被相続人の母が6分の1)になります。
次回は、「遺留分」についてご紹介します。
(弁護士 松村 彩)
相続をめぐる法律関係6 相続財産の範囲
第6回のテーマは、相続財産の範囲です。
被相続人が相続開始時に有していた遺産は、被相続人の一身に専属する権利(一身専属権)を除いて、全て相続の対象になります。
ここでいう「遺産」には、プラスの財産もマイナスの財産も含まれます。
プラスの財産とは、不動産や現金、預貯金、自動車、株式、家財などの動産がこれに当たります。
一方で、マイナスの財産とは、借金や住宅ローン、未払の税金、連帯保証人の地位などがこれに当たります。
また、相続財産に含まれない「一身専属権」とは、特定人のみが主体であることを必要とする権利をいい、例えば、雇用上の地位やもともと本人以外への帰属が予定されていない生活保護受給権などがこれに当たります。
一身専属権を除く遺産は、全て相続の対象になりますが、以下の財産については注意が必要です。
まず、生命保険金のうち、被相続人が特定の相続人を受取人に指名して締結した生命保険の保険金は、相続財産になりません。
また、保証債務についても、身元保証債務や保証期間および責任限度額の定めのない包括的信用保証債務については、主債務者と保証人の人的関係が基礎にあると考えられていますので、相続の対象になりません。
他方で、一般の保証債務や限度額の定めのある信用保証債務については、相続の対象になります。
相続の承認をするかどうかを判断する際には、被相続人が保証人になっているのか、保証人になっているとすれば何の保証なのかを予めよく確認するようにしてください。
次回は、「相続人の相続分」についてご紹介します。
(弁護士 松村 彩)
相続をめぐる法律関係5 相続の承認と放棄
第5回のテーマは、相続の承認と放棄です。
民法では、誰が相続人になることができるのか規定されており、このように民法の規定により相続人になると予定されている人を「法定相続人」といいます。
法定相続人は、以下の3つのうち、いずれかを選ぶことができます。
①単純承認(被相続人の財産も借金もすべて受け継ぐこと)
②限定承認(被相続人に借金があるか不明であるものの財産が残る可能性がある場合等に、相続によって得た財産の限度で被相続人の借金等の債務も受け継ぐこと)
③相続放棄(被相続人の財産も借金も全て受け継がないこと)
法定相続人は、相続放棄の手続きをとらない限り、単純承認をしたことになります。
そのため、相続財産が明らかに借金しかないような場合には、相続放棄の手続きをとった方がよいでしょう。
なお、一部の財産についてのみ相続放棄をすることはできませんし、被相続人が死亡する前に法定相続人がした相続放棄は無効になります。
相続放棄の手続きをとるためには、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所で、相続放棄の申述をしなければなりません。
家庭裁判所に相続放棄の申述をする際には、申述書のほかに被相続人の戸籍謄本等の添付書類が必要になります。
なお、相続放棄は、自己のために相続開始があったことを知った時から「3ヶ月以内」に行わなければなりませんので、注意してください(民法915条1項)。
相続財産の一部または全部を処分したきには基本的に単純承認をしたものとみなされ、後で相続放棄の手続きをとることはできなくなります。
また、相続放棄をした後であっても、相続財産を消費した場合等は基本的には単純承認をしたものとみなされますので、注意してください。
次回は、「相続財産の範囲」についてご紹介します。
(弁護士 松村 彩)