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値引きが違法?! 2
さて、先週は、値引き表示が、違法となってしまう可能性があるという話をしました。
今週は、具体的にどのような値引き表示に気を付けなければならないかです。
まず、1つ目は、他の顧客向けの販売価格と比較対照する二重価格表示を行う場合です。
たとえば、先週ご紹介したセミナーの事例のように、「通常価格 ●●万円、参加者特別価格 ●●万円」といった表示を行うような場合です。
このような二重価格表示自体は、よく用いられている表示ですが、通常価格での購入者がほとんど存在しないようなときは、このような値引き表示が不当表示(景品表示法5条2号*)に該当し、違法となることがあります。
また、「標準価格●万円のところ、●月●日~●月●日に限り、●万円」といった表示も、標準価格とされる金額で販売されている期間が限定されているようなときは(標準価格とされる金額の方が例外的なとき)、不当表示(景品表示法5条2号)に該当し、違法となることがあります。
2つ目は、過去の販売価格と比較対照する二重価格表示を行う場合です。
たとえば、「通常価格●●●万円 セール価格●●万円」といった表示をしている場合です。
このような場合、通常価格で販売していた期間が相当期間にわたっていないと、不当表示(景品表示法5条2号)に該当し、違法となることがあります。
なお、相当期間とは、原則的に、セール開始時前8週間のうち過半を占めている場合を指すと考えられています。
3つ目は、
希望小売価格と比較対照する二重価格表示を行う場合です。
たとえば、「メーカー希望小売価格●●万円の品を●万円」といった表示をしている場合です。
製造業者等が設定・公表している希望小売価格であれば問題とはなりませんが、そうではない場合は、値引き表示が不当表示(景品表示法5条2号)に該当し、違法となることがあります。
このように、値引き(表示)をするにあたっては、景品表示法5条2号に十分注意する必要があります。
知らないうちに不当表示を行っていた、ということのないようにしましょう。
(弁護士 國安耕太)
* 景品表示法5条
「 事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。
1 (略)
2 商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
3 (略)」
値引きが違法?! 1
先日、とあるマーケティングに関するセミナーに参加しました。
内容は非常に面白かったのですが、その中で、一つ気になることがありました。
それは、「本セミナー参加者限定で、通常30万円の合宿に3万円で参加できます!」という表現です。
もちろん、この表現自体が直ちに違法となるわけではありません。
しかし、高額なセミナー参加者限定での大幅な値引きである等、何らかの特別な事情があるのであればともかく、このセミナーは、無料セミナーで、特別な事情もないようでした。
そうであれば、通常30万円の商品を10分の1の値段で販売することは通常あり得ません。
もしかしたら、本来3万円で参加できる合宿を、割安に見せるために「通常30万円」と表現しているのでは・・・と勘ぐってしまいます。
不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)は、自己が提供するサービスの販売価格について、実際に販売価格よりも著しく有利であると誤認させる表示を不当表示として禁止しています(景品表示法5条2号*)。
そして、他の価格と比較対照する二重価格表示を行う場合は、当該比較対照する価格を事実に基づいて表示する必要があり、比較対照する価格が虚偽のものである場合、不当表示に該当する可能性があります。
また、比較対照する価格が曖昧な場合も不当表示に該当する可能性があります。
もし、本来3万円で参加できる合宿を、割安に見せるために「通常30万円」と表現しているような場合は、比較対照する価格が虚偽のものであるとして、不当表示に該当する可能性があります。
このように、値引き(表示)は、違法となってしまう可能性があるので注意が必要です。
なお、次週は、具体的にどのような値引き表示に気を付けなければならないか、について話を進めていきたいと思います。
(弁護士 國安耕太)
* 景品表示法5条
「 事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。
1 (略)
2 商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
3 (略)」
労働者災害補償保険法の「業務上の事由」の範囲
先日(平成28年7月8日)、ある交通事故が、労働者災害補償保険法(以下「労災法」)上の「業務上の事由*1」による事故といえるか、争われた事案に関し、最高裁判決が出されました*2。
具体的な事案としては、
ある労働者が、業務を一時中断して事業場外で行われた歓送迎会に途中参加した後、業務を再開するため自動車を運転して事業場に戻るついでに、参加者をその住居に送る途中で発生した交通事故により死亡した
というものです。
原審(東京高判平成26年9月10日)は、
歓送迎会は、親睦を深めることを目的として、会社の従業員有志によって開催された私的な会合であり、運転行為は、事業主の支配下にある状態でされたものとは認められない*3
として、当該労働者の死亡は、労災法上の「業務上の事由」によるものとはいえないと判断しました。
これに対し、最高裁は、
当該労働者が、歓送迎会に参加しないわけにはいかない状況に置かれ、その結果、歓送迎会の終了後に当該業務を再開するために事業場に戻ることを余儀なくされていたこと
歓送迎会が、会社の事業活動に密接に関連して行われたものといえるものであったこと
事業場と住居の位置関係に照らし、飲食店から事業場へ戻る経路から大きく逸脱するものではないこと
等の事情を総合すれば、歓送迎会が事業場外で開催され、アルコール飲料も供されたものであり、当該参加者を住居まで送ることについて明示的な指示を受けてされたものとはうかがわれないこと等を考慮しても、なお本件会社の支配下にあったというべき
として、当該労働者の死亡が労災法上の「業務上の事由」にあたるとしました。
本判決は、事例判断ですが、労災法の適用範囲を考えるにあたって参考になる事例といえるでしょう。
(弁護士 國安耕太)
*1
労災法は、「業務上の事由または通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に関して保険給付を行うほか、社会復帰促進等事業を行うことができる」(労災法2条の2)と定め、保険給付ができる場合を「業務上の事由」または「通勤」による災害に限定しています。
*2
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/000/086000_hanrei.pdf
*3
判例上「労働者災害補償保険法に基づく業務災害に関する保険給付の対象となるには、それが業務上の事由によるものであることを要するところ、そのための要件の一つとして、労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にある状態において当該災害が発生したことが必要である」とされています。
固定残業代制度にご注意を!
最近、主として残業代(割増賃金)請求対策として、固定残業代制度を設けている会社があります。
たとえば、①基本給の中に一定時間数の残業代を含むとしていたり、②一定時間数の残業代に相当する一定の金額を手当で支給する、といった制度を定めている場合です。
当然ですが、このような固定残業代制度を就業規則等で設けること自体は、適法です。
しかし、適切な規程の仕方をしていないと、後に裁判になった際に、残業代を含んでいるとはいえない(①の場合)とされたり、当該手当は残業代の支払いとはいえない(②の場合)とされ、残業代として支払われていると認められない可能性があります。
具体的な制度設計としては、㋐残業代として支払うことが明確にされており、㋑基本給にあたる部分と残業代にあたる部分とが明確に区別できていることが重要です。
また、固定残業代制度は、あくまでも一定時間数の残業代を含んでいるだけですから、当該一定時間数を超えた場合は、超えた分の残業代を支払う必要があります。
当該一定時間数を超えているにもかかわらず、超えた分の残業代が支払われていない場合、残業代として支払われていると認められない可能性があります。
このように、固定残業代制度を設ける場合には、その規程の仕方に十分注意する必要があります。
固定残業代制度を設ける場合は、ぜひ一度弁護士、社会保険労務士等の専門家に相談してみることをお勧めします。
(弁護士 國安耕太)