最新の記事
アーカイブ
カテゴリー
誤表示(?)と刑事罰
1 10月22日、関西の阪急阪神ホテルズが、メニューの表示とは違う食材を使っていたことを公表しました。その後、同ホテルだけでなく、東京の椿山荘や帝国ホテル等多数のホテルで、同様の問題が発覚しています。また、この問題はホテルにとどまらず、レストランや大手百貨店の総菜売場等他の業界にも波及しています。
では、このようにメニューの表示とは違う食材を使用した場合、会社(ホテル等)やその経営者は、どのような法的責任を負うことになるのでしょうか。
2 まず、当初から消費者を騙す目的で、メニューの表示とは違う食材を使っていた場合には、会社の経営者に刑法上の詐欺罪(246条1項)が成立する可能性があります。過去には、北海道の食品加工卸売会社ミートホープの代表取締役が、牛肉に他の肉を混入した肉を牛肉として販売したとして、詐欺罪等の罪で有罪判決を受けています(札幌地判平成20.3.19、裁判所ウェブサイト)。
しかし、本件について、実際に詐欺罪の責任を問うことは、現実的には難しいと思われます。
少し専門的な話になりますが、刑法上の詐欺罪が成立するためには、①人を欺くこと(欺罔行為)、②欺罔行為により相手方が錯誤(主観的な認識と客観的な事実との間に齟齬が生じていること)に陥ること(錯誤)、③錯誤に陥った相手方が、財物ないし財産上の利益の処分をすること(処分行為)、④行為者が財物ないし利益を得ること(取得行為)、⑤①ないし④の因果関係という客観的要件および⑤故意という主観的要件を満たす必要があります。
本件で難しいのは、そもそも、②欺罔行為により相手方が錯誤に陥ったといえるかという点です。
すなわち、食材単体の販売の場合であれば、当該食材の内容・品質そのものが重要かつ唯一の関心事となります。たとえば、芝エビを買いに行ったにもかかわらず、騙されてバナメイエビを販売されたのであれば、芝エビを買ったという主観と、バナメイエビを買ったという事実との間に齟齬がありますから、間違いなく錯誤にあたります(ミートホープ事件は、まさにこのような事件でした。)。
他方、食材は、レストランで提供される料理の一部分を構成するにすぎません。消費者は、調理された料理に対して代金を支払うのであって、食材そのものに代金を支払うものではありません。たとえば、「芝エビのエビチリ」というメニューを見たときに、どれだけの消費者が「芝エビ」という部分を重視しているのでしょうか。そうすると、料理人の作ったエビチリという主観と事実には、齟齬はなく、錯誤はないとも考えられます。
このように、本件では、②錯誤の要件を満たすか、一概には判断できません。
また、これだけ多くのホテル等がメニューの表示とは違う食材を使っていたとなると、その妥当性・相当性はともかく、消費者を騙す意図(⑤故意)まであったといえるのか、疑問もあります。
したがって、会社の経営者に対し、刑法上の詐欺罪(246条1項)としての法的責任を問うことは、現実的には難しいでしょう。
3 そこで、現実的には、会社に対し、不当景品類および不当表示防止法(以下「景表法」)違反としての責任を追及されることになると思われます。
景表法は、商品の品質等について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、不当に顧客を誘引すること等を禁止しています(4条、優良誤認表示の禁止)。
かかる禁止に違反した場合には、措置命令(6条)が出される可能性があり、措置命令に反すると2年以下の懲役また300万円以下の罰金(15条)に処せられる可能性があります。
そして、重要なことは、故意に偽って表示した場合のみならず、誤って表示してしまった場合であっても、責任を免れないということです。
実際、平成25年11月12日、消費者庁が、阪急阪神ホテルズに対し、景品表示法違反(優良誤認)の疑いで立入検査したことが報道されています(http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG1200U_S3A111C1000000/)。
なお、製造日と消費期限を偽った伊勢名物の赤福事件では、食品の品質表示などを定めた農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律(JAS法)違反を問われました。
JAS法は、製造業者等(農林物資の製造、加工、輸入または販売を業とする者)に対し、名称、原料または材料、保存の方法、原産地等を表示する義務を負わせています(19条の13の2、19条の13)。
しかし、JAS法をうけて定められている加工食品品質表示基準は、一般消費者に直接販売する場合および飲食料品を設備を設けて飲食させる場合を対象から除外しています(3条)。
そのため、対面販売を行うデパートの総菜店や、レストランには、JAS法は適用されず、本件についてもJAS法に基づく法的責任を負うことはありません。
4 以上のとおり、本件に関しては、景表法に基づく法的責任を負う可能性があります。
また、相次ぐ偽装事件をうけ、近年、食に対する消費者の視線は厳しくなってきています。最初に発覚した阪急阪神ホテルズでは、代表取締役が辞任するに至っていますし、前述のミートホープ事件では、代表取締役に懲役4年の実刑判決が下されています。
5 会社および会社の経営者は、本件を教訓として、自社の行っている事業にどのような問題が生じる可能性があるのか、十分に検討し、必要に応じて専門家と協議して、しっかりとした対策をとるようにしてください。
(弁護士 國安耕太)