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2016年12月の投稿

起業塾20:社内体制の整備11(モデル就業規則の問題点)

前回の最後に、厚生労働省のモデル就業規則*1には多々問題がありますので、利用には注意が必要です、という話を少ししました。

 

では、具体的に、モデル就業規則のどのような規定が問題なのでしょうか。

 

たとえば、モデル就業規則には、「休職」に関する規定があります*2。

「休職」とは、業務外での疾病等主に労働者側の個人的事情により相当長期間にわたり就労を期待し得ない場合に、労働者としての身分を保有したまま一定期間就労義務を免除する特別な扱いをいいます。

 

従業員と会社との間の労働契約は、従業員が会社に対し、労働力を提供することをその内容としていますから、従業員が私傷病によって会社に対し労務提供できない場合、本来は解雇として取り扱われます。

そのため、休職は、従業員が会社に対し労務提供ができないとしても、即時に解雇するのではなく、労働契約関係を維持しながら、一定期間猶予を与えるものといえます。

 

要するに、従業員を保護するための制度なのです。

 

ところが、実は、労働基準法をはじめとした労働法には、「休職」に関する規定が一切ありません。

これは、つまり、休職の対象となる従業員や休職期間その他の条件を会社が自由に決められるというにとどまらず、そもそも休職制度を置くかどうかも自由に決められるということです。

 

スタートアップの会社や、従業員が10数名しかいない会社で、本当に休職制度を設ける必要があるのでしょうか。

休職期間中、給与の支払義務はないとしても、社会保険の支払義務は残ります。

 

もちろん、考えた結果、制度が必要だ!という判断もあり得るでしょう。

しかし、少なくとも本当に必要なのか、きちんと検討する必要はあるでしょう。

(弁護士 國安耕太)

 

*1

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/model/index.html

 

*2

第9条

1 労働者が、次のいずれかに該当するときは、所定の期間休職とする。

①業務外の傷病による欠勤が  か月を超え、なお療養を継続する必要があるため勤務できないとき:  年以内

②前号のほか、特別な事情があり休職させることが適当と認められるとき:必要な期間

2 休職期間中に休職事由が消滅したときは、原則として元の職務に復帰させる。ただし、元の職務に復帰させることが困難又は不適当な場合には、他の職務に就かせることがある。

3 第1項第1号により休職し、休職期間が満了してもなお傷病が治癒せず就業が困難な場合は、休職期間の満了をもって退職とする。

 

※下記の日程で経営者勉強会を開催いたします。定員少数のため満席の場合はご容赦ください。

*第2回経営者勉強会

日時:平成29年1月10日午前7時〜8時30分

定員:7名

テーマ:従業員の秘密保持義務(秘密保持誓約書の作り方)

参加費(朝食代):1500円

 

*第3回経営者勉強会

日時:平成29年1月24日午前11時30分〜午後1時

定員:7名

テーマ:営業秘密とは

参加費(昼食代):1500円

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起業塾19:社内体制の整備10(就業規則の有用性)

常時10人以上の従業員を使用する会社は、労働基準法89条の規定により、就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署長に届け出なければならないとされています。

 

では、従業員が10人未満の会社は、就業規則を作成しなくてもよいのでしょうか。

 

確かに、法律上、従業員が10人未満の会社には、就業規則の作成義務はありません。

しかし、スタートアップの会社等、従業員が10人未満の会社であっても、就業規則を作成しておくメリットは複数あります。

 

まず、最も大きなメリットは、個々の会社の状況に則した服務規律を定めることができるという点です。

たとえば、無断欠勤や、遅刻早退を繰り返す従業員がいたとしても、そのような場合の処分に関する明確なルールが定められていなければ、会社は、当該従業員を減給処分等することはできません。

また、当然ですが、前々回ご紹介した固定残業手当(定額残業代)制度を利用することもできません。

 

また、厚生労働省管轄の助成金の中には、就業規則の作成が前提とされているものがあります。

就業規則を作成しておくで、このような助成金を申請することが可能になります。

 

その他、従業員とのトラブルを未然に防止することができたり、良い人材確保ができたりといった副次的なメリットもあるでしょう。

 

このように、就業規則を作成しておくメリットは複数あります。

 

ただ、就業規則であれば、何でもよいというわけではありません。

実際、社会保険労務士や弁護士に就業規則の作成を依頼せず、厚生労働省が公表しているモデル就業規則*を自社の就業規則としている会社を見かけます。

しかし、モデル就業規則には多々問題がありますので、利用には注意が必要です。

 

次回は、モデル就業規則等ひな形の問題点について、見ていきましょう。

(弁護士 國安耕太)

 

*http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/model/index.html

 

※下記の日程で経営者勉強会を開催いたします。定員少数のため満席の場合はご容赦ください。

*第2回経営者勉強会

日時:平成29年1月10日午前7時〜8時30分

定員:7名

テーマ:従業員の秘密保持義務(秘密保持誓約書の作り方)

参加費(朝食代):1500円

 

*第3回経営者勉強会

日時:平成29年1月24日午前11時30分〜午後1時

定員:7名

テーマ:営業秘密とは

参加費(昼食代):1500円

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起業塾18:社内体制の整備9(安全配慮義務)

業務が原因で、従業員が死傷した場合、従業員ないしその家族は、会社に対し、不法行為を理由とする損害賠償請求(民法709条)をすることができます。

 

また、債務不履行(安全配慮義務違反)を理由とする損害賠償請求(民法415条)をすることもできます。

安全配慮義務とは、判例上、「労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命および身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務」(最判昭和59.4.10、民集38-6-557、川義事件)とされてきたもので、現在では、労働契約法5条に「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と定められています。

 

そして、たとえば、過重労働が問題となった過去の裁判例では、「会社は、労働者であるAを雇用し、自らの管理下におき、a駅店での業務に従事させていたのであるから、Aの生命・健康を損なうことがないよう配慮すべき義務を負っていたといえる。具体的には、Aの労働時間を把握し、長時間労働とならないような体制をとり、一時、やむを得ず長時間労働となる期間があったとしても、それが恒常的にならないよう調整するなどし、労働時間、休憩時間及び休日等が適正になるよう注意すべき義務があった。」として、長時間労働を原因とする死亡につき、会社に損害賠償義務を認めています(京都地判平成22年5月25日、労判1011号35頁)。

 

また、昨今では、会社だけでなく、取締役等の役員個人に対する損害賠償訴訟も提起されるようになってきました。そして、実際に損害賠償請求が認められる事案も出てきています。

上記裁判例でも、会社のみならず、役員個人に対しても、会社法429条1項*に基づく損害賠償義務を認めています。

 

会社にとって、事前に専門家によるチェックを受け、適正な労務管理を行うことは非常に重要ですが、会社のみならず、役員個人にとっても、適正な労務管理を行うことが直接的かつ重要な意味を持つといえます。

(弁護士 國安耕太)

 

*会社法429条1項

役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。

 

※下記の日程で経営者勉強会を開催いたします。定員少数のため満席の場合はご容赦ください。

*第1回経営者勉強会

日時:平成28年12月20日午前11時30分~午後1時

定員:7名

テーマ:従業員の秘密保持義務(秘密保持誓約書の作り方)

参加費(昼食代):1500円

 

*第2回経営者勉強会

日時:平成29年1月10日午前7時〜8時30分

定員:7名

テーマ:従業員の秘密保持義務(秘密保持誓約書の作り方)

参加費(朝食代):1500円

 

*第3回経営者勉強会

日時:平成29年1月24日午前11時30分〜午後1時

定員:7名

テーマ:営業秘密とは

参加費(昼食代):1500円

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起業塾17:社内体制の整備8(固定残業手当制度)

近時、いわゆる固定残業手当(定額残業代)制度、すなわち、定額の残業手当を支払うことで、時間外労働に対する割増賃金の支払いに代えるとの制度を導入している会社が増えています。

 

固定残業手当制度も、現実の時間外労働時間に基づいて算出される割増賃金額を下回らないかぎり適法です。

 

ただし、そもそも固定残業手当制度として認められるためには、少なくとも、(1)基本給部分と固定残業手当部分とを明確に区別できること、(2)他の支給目的と混同する名称が用いられていないこと、(3)固定分を超えた部分について差額を支払うことが、(4)就業規則・賃金規程・労働条件通知書等に記載されていることが必要とされています。

 

これらの要件を満たしていないと、制度が無効となってしまう可能性があるので、注意が必要です。

 

実際、過去の裁判例では、就業規則および賃金規程が明確性・一義性に欠けること、実際に労働者が自己の毎月の労働による具体的時間外割増賃金額を了知できないこと等から、割増賃金が能力給に含まれるとの会社の主張を認めなかった事案があります(東京地判平成20年3月21日、労判967号35頁、フジビルメンテナンス事件)。

 

また、たとえ労働者と、固定額しか支払わないとの合意をしていたとしても、そのような合意は労働基準法37条に反し無効となります。

 

そして、固定残業手当(定額残業代)制度が無効とされると、当該手当の額が割増賃金算定の基礎金額に算入されてしまい、予想外の金額を支払わなければならなくなる危険性があります。

 

固定残業手当(定額残業代)制度を導入・運用する際は、きちんと弁護士、社会保険労務士等の専門家に相談することをお勧めします。

(弁護士 國安耕太)

 

※下記の日程で経営者勉強会を開催いたします。定員少数のため満席の場合はご容赦ください。

*第1回経営者勉強会

日時:平成28年12月20日午前11時30分~午後1時

定員:7名

テーマ:従業員の秘密保持義務(秘密保持誓約書の作り方)

参加費(昼食代):1500円

 

*第2回経営者勉強会

日時:平成29年1月10日午前7時〜8時30分

定員:7名

テーマ:従業員の秘密保持義務(秘密保持誓約書の作り方)

参加費(朝食代):1500円

 

*第3回経営者勉強会

日時:平成29年1月24日午前11時30分〜午後1時

定員:7名

テーマ:営業秘密とは

参加費(昼食代):1500円

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