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2013年10月の投稿

会社の労務管理と取締役の責任

1 10月30日(水)午後6時30分から東京都港区新橋1-18-19キムラヤオオツカビル7階JWAグループセミナールームにて、第3回労務管理セミナー『社長さん必見!会社を守るための「健康管理と労災補償・損害賠償の実務」』を開催いたします。

残席にまだ余裕がありますので、お時間のある方は、お誘い合わせのうえ、ぜひご参加ください。

 

2 さて、上記セミナーでも取り上げますが、先日、居酒屋チェーンの男性従業員(当時24歳)が死亡したのは過労が原因であるとして、当該従業員の遺族が、T社および役員個人に対し、損害賠償を求めた事案に関し、最高裁はT社らの上告を棄却する判決を下しました(平成25年9月24日)。

これにより、T社に対して合計約7800万円の支払いを命じた京都地裁判決(平成22.5.25、労判1011号35頁)、大阪高裁判決(平成23.5.25、労判1033号24頁)が確定しました。

 

3 過重労働が原因で、従業員が死傷した場合、従業員ないしその家族は、会社に対し、不法行為を理由とする損害賠償請求(民法709条)をすることができます。

また、債務不履行(安全配慮義務違反)を理由とする損害賠償請求(民法415条)をすることもできます。安全配慮義務とは、判例上、「労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命および身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務」(最判昭和59.4.10、民集38-6-557、川義事件)とされてきたもので、現在では、労働契約法5条に「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と定められています。

本件でも、原告となった従業員の遺族は、不法行為および債務不履行(安全配慮義務違反)を根拠に損害賠償を求めていましたが、京都地裁は、「被告会社は、労働者であるAを雇用し、自らの管理下におき、a駅店での業務に従事させていたのであるから、Aの生命・健康を損なうことがないよう配慮すべき義務を負っていたといえる。具体的には、Aの労働時間を把握し、長時間労働とならないような体制をとり、一時、やむを得ず長時間労働となる期間があったとしても、それが恒常的にならないよう調整するなどし、労働時間、休憩時間及び休日等が適正になるよう注意すべき義務があった。」としたうえで、「給与体系において、本来なら基本給ともいうべき最低支給額に、80時間の時間外労働を前提として組み込んでいた」、「三六協定においては1か月100時間を6か月を限度とする時間外労働を許容しており、実際、特段の繁忙期でもない4月から7月までの時期においても、100時間を超えるあるいはそれに近い時間外労働がなされており、労働者の労働時間について配慮していたものとは全く認められない」等の事実を認定し、「被告会社が、Aの生命、健康を損なうことがないよう配慮すべき義務を怠り、不法行為上の責任を負うべきであることは明らかである。」として、不法行為を理由とする損害賠償請求を認めました(大阪高裁、最高裁もかかる判断を支持しています。)。

 

4 さらに、本件訴訟では、上記のとおり、T社のみならず、T社の役員個人に対しても、会社法429条1項に基づく損害賠償義務を認めました。

会社法429条1項は「役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。」と規定していますが、過重労働によって従業員が死亡した事案に関し、取締役の個人責任が認められるのは、非常に珍しいといえます。

ただ、本件では、上述のとおり、給与体系において、最低支給額に80時間の時間外労働を前提として組み込んでいたり、三六協定においては1か月100時間を6か月を限度とする時間外労働を許容している等、労務管理の制度設計からして不備があるとされても仕方がないような体制を取っていました。

そうであるからこそ、京都地裁も、「被告取締役らにおいて、労働時間が過重にならないよう適切な体制をとらなかっただけでなく・・・一見して不合理であることが明らかな体制をとっていたのであり、それに基づいて労働者が就労していることを十分に認識し得たのであるから、被告取締役らは、悪意又は重大な過失により、そのような体制をとっていたということができ、任務懈怠があったことは明らかである。」として、取締役個人の責任を認めたものと考えられます。

 

5 このように、昨今では、会社だけでなく、取締役等の役員個人に対する損害賠償訴訟も提起されるようになってきました。そして、実際に損害賠償請求が認められる事案も出てきています。

会社にとって、事前に専門家によるチェックを受け、適正な労務管理を行うことは喫緊の課題ですが、会社のみならず、取締役個人にとっても、適正な労務管理を行うことが直接的かつ重要な意味を持つ時代となったといえるでしょう。

(弁護士 國安耕太)

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