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刑事

社員の金銭的不正行為への対応2

先週に引き続き、従業員の金銭的不正行為への対応です。

 

従業員の金銭的不正行為が発覚した場合、会社は、事実確認を入念に行ったうえで、

①懲戒処分(懲戒解雇)をするか否か

②損害の賠償を請求するか否か

③刑事告訴をするか否か

を検討することになります。

 

それでは、前回の続きです。

 

②損害の賠償を請求するか否かについて

 

①の懲戒処分とは別に、金銭的不正行為をした従業員に対しては、損害賠償請求または不当利得返還請求をすることができます。

ただし、一方的に給与や退職金と相殺することはできないので、注意が必要です(労働基準法24条1項本文*1、賃金全額払いの原則)。

そのため、退職金と相殺したり、退職金を放棄させるのであれば、従業員の同意が必要となります。

過去の判例でも、労働者の自由な意思に基づいてなされた退職金債権放棄の意思表示が有効と判断されています(最判昭和48年1月19日、民集27巻1号27頁、シンガー・ソーイング・メシーン事件*2)。

 

③刑事告訴をするか否かについて

 

刑事告訴を行ったとしても、会社が被った損害が回復されるわけではありません。

むしろ刑事告訴をすることによって、会社が悪い意味で話題になってしまう可能性もあります。

また、刑事告訴は、義務でもありません。

 

ただ、金額が大きかったり、態様が悪質であったような場合、会社として放置できないということもあるでしょう。

また、他の従業員との関係を考慮して、厳しい姿勢で臨む必要がある場合もあります。

それゆえ、刑事告訴をする場合には、これによって生じるメリットとデメリットを十分検討することが重要です。

なお、証拠がないにもかかわらず、従業員を告訴したような場合、会社の側に名誉毀損が成立することもあるので、注意が必要です。

(弁護士 國安耕太)

 

*1

労働基準法24条1項本文

「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」

 

*2

最判昭和48年1月19日

「全額払の原則の趣旨とするところは、使用者が一方的に賃金を控除することを禁止し、もつて労働者に賃金の全額を確実に受領させ、労働者の経済生活をおびやかすことのないようにしてその保護をはかろうとするものというべきであるから、本件のように、労働者たる上告人が退職に際しみずから賃金に該当する本件退職金債権を放棄する旨の意思表示をした場合に、右全額払の原則が右意思表示の効力を否定する趣旨のものであるとまで解することはできない。」

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社員の金銭的不正行為への対応1

最近、従業員の金銭的不正行為(窃盗、横領、詐欺等)への対応についてアドバイスを求められることが多くなっています。

 

従業員の金銭的不正行為が発覚した場合、会社は、事実確認を入念に行ったうえで、

①懲戒処分(懲戒解雇)をするか否か

②損害の賠償を請求するか否か

③刑事告訴をするか否か

を検討することになります。

 

以下、個別にみていきましょう。

 

①懲戒処分(懲戒解雇)をするか否かについて

 

まず、現在の我が国の法制度は、解雇権濫用の法理*1*2を採用しており、労働者を手厚く保護しています。

そのため、懲戒処分の中でも懲戒解雇については、慎重な判断が求められることが多いです(すなわち、懲戒解雇が無効となることが多々あります。)。

 

しかし、従業員の金銭的不正行為に関しては、過去の裁判例では、その額や回数を問わず、有効とされる傾向にあります。

そのため、従業員の金銭的不正行為に関し、懲戒解雇を行っても、後に無効とされる可能性は低いといえます。

 

ただし、あくまでも懲戒事由に該当する事実を証明できる場合であることが必要です。

過去の裁判例では、従業員が、使途不明金の一部を着服した旨の自認書および念書を書いていた事案において、事実に即して書かれたとはいい難く、これによって着服の事実を基礎づけることはできないとされたものがあります*3。

それゆえ、本人が認めているだけでなく、客観的な資料に基づいて事実を証明できるようにしておかなければなりません。

 

また、実務上は、懲戒解雇事由に該当する事実を証明できる場合であっても、懲戒解雇とせずに諭旨解雇や普通解雇、自主退職にとどめるということもありえます。

このあたりは、金銭的不正行為の額、被害弁償の有無、これまでの処分事例との均衡等を考慮して、判断していくことになります。

 

なお、②損害の賠償を請求するか否か、③刑事告訴をするか否かについては、次回解説します。

(弁護士 國安耕太)

 

*1

労働契約法16条

「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」

 

*2

最判昭和50年4月25日(労判227-32、日本食塩製造事件)

「使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になると解するのが相当である。」

 

*3

東京地八王子支判平成15年6月9日(労判861号56頁、京王電鉄府中営業所事件)

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誤表示(?)と刑事罰

1 10月22日、関西の阪急阪神ホテルズが、メニューの表示とは違う食材を使っていたことを公表しました。その後、同ホテルだけでなく、東京の椿山荘や帝国ホテル等多数のホテルで、同様の問題が発覚しています。また、この問題はホテルにとどまらず、レストランや大手百貨店の総菜売場等他の業界にも波及しています。

では、このようにメニューの表示とは違う食材を使用した場合、会社(ホテル等)やその経営者は、どのような法的責任を負うことになるのでしょうか。

 

2 まず、当初から消費者を騙す目的で、メニューの表示とは違う食材を使っていた場合には、会社の経営者に刑法上の詐欺罪(246条1項)が成立する可能性があります。過去には、北海道の食品加工卸売会社ミートホープの代表取締役が、牛肉に他の肉を混入した肉を牛肉として販売したとして、詐欺罪等の罪で有罪判決を受けています(札幌地判平成20.3.19、裁判所ウェブサイト)。

しかし、本件について、実際に詐欺罪の責任を問うことは、現実的には難しいと思われます。

少し専門的な話になりますが、刑法上の詐欺罪が成立するためには、①人を欺くこと(欺罔行為)、②欺罔行為により相手方が錯誤(主観的な認識と客観的な事実との間に齟齬が生じていること)に陥ること(錯誤)、③錯誤に陥った相手方が、財物ないし財産上の利益の処分をすること(処分行為)、④行為者が財物ないし利益を得ること(取得行為)、⑤①ないし④の因果関係という客観的要件および⑤故意という主観的要件を満たす必要があります。

本件で難しいのは、そもそも、②欺罔行為により相手方が錯誤に陥ったといえるかという点です。

すなわち、食材単体の販売の場合であれば、当該食材の内容・品質そのものが重要かつ唯一の関心事となります。たとえば、芝エビを買いに行ったにもかかわらず、騙されてバナメイエビを販売されたのであれば、芝エビを買ったという主観と、バナメイエビを買ったという事実との間に齟齬がありますから、間違いなく錯誤にあたります(ミートホープ事件は、まさにこのような事件でした。)。

他方、食材は、レストランで提供される料理の一部分を構成するにすぎません。消費者は、調理された料理に対して代金を支払うのであって、食材そのものに代金を支払うものではありません。たとえば、「芝エビのエビチリ」というメニューを見たときに、どれだけの消費者が「芝エビ」という部分を重視しているのでしょうか。そうすると、料理人の作ったエビチリという主観と事実には、齟齬はなく、錯誤はないとも考えられます。

このように、本件では、②錯誤の要件を満たすか、一概には判断できません。

また、これだけ多くのホテル等がメニューの表示とは違う食材を使っていたとなると、その妥当性・相当性はともかく、消費者を騙す意図(⑤故意)まであったといえるのか、疑問もあります。

したがって、会社の経営者に対し、刑法上の詐欺罪(246条1項)としての法的責任を問うことは、現実的には難しいでしょう。

 

3 そこで、現実的には、会社に対し、不当景品類および不当表示防止法(以下「景表法」)違反としての責任を追及されることになると思われます。

景表法は、商品の品質等について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、不当に顧客を誘引すること等を禁止しています(4条、優良誤認表示の禁止)。

かかる禁止に違反した場合には、措置命令(6条)が出される可能性があり、措置命令に反すると2年以下の懲役また300万円以下の罰金(15条)に処せられる可能性があります。

そして、重要なことは、故意に偽って表示した場合のみならず、誤って表示してしまった場合であっても、責任を免れないということです。

実際、平成25年11月12日、消費者庁が、阪急阪神ホテルズに対し、景品表示法違反(優良誤認)の疑いで立入検査したことが報道されています(http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG1200U_S3A111C1000000/)。

なお、製造日と消費期限を偽った伊勢名物の赤福事件では、食品の品質表示などを定めた農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律(JAS法)違反を問われました。

JAS法は、製造業者等(農林物資の製造、加工、輸入または販売を業とする者)に対し、名称、原料または材料、保存の方法、原産地等を表示する義務を負わせています(19条の13の2、19条の13)。

しかし、JAS法をうけて定められている加工食品品質表示基準は、一般消費者に直接販売する場合および飲食料品を設備を設けて飲食させる場合を対象から除外しています(3条)。

そのため、対面販売を行うデパートの総菜店や、レストランには、JAS法は適用されず、本件についてもJAS法に基づく法的責任を負うことはありません。

 

4 以上のとおり、本件に関しては、景表法に基づく法的責任を負う可能性があります。

また、相次ぐ偽装事件をうけ、近年、食に対する消費者の視線は厳しくなってきています。最初に発覚した阪急阪神ホテルズでは、代表取締役が辞任するに至っていますし、前述のミートホープ事件では、代表取締役に懲役4年の実刑判決が下されています。

 

5 会社および会社の経営者は、本件を教訓として、自社の行っている事業にどのような問題が生じる可能性があるのか、十分に検討し、必要に応じて専門家と協議して、しっかりとした対策をとるようにしてください。

(弁護士 國安耕太)

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スーパーの冷凍庫に入る行為と刑事罰

1 先日、つぎのニュースが、話題となりました。

「スーパーの冷凍庫に客入り撮影 ツイッターに投稿」

http://www.47news.jp/CN/201308/CN2013082101001073.html

軽い気持ちでこのような行動に出たのでしょうが、場合によっては刑事罰を科せられる可能性があります。

 

2 まず、当初から、アイスケースに入る目的でスーパーに立ち入ったような場合は、住居侵入罪(刑法130条前段)が成立します。

(参考判例:最判昭和58年4月8日、刑集 37巻3号215頁)

「刑法一三〇条前段にいう「侵入シ」とは、他人の看守する建造物等に管理権者の意思に反して立ち入ることをいうと解すべきであるから、管理権者が予め立入り拒否の意思を積極的に明示していない場合であっても、該建造物の性質、使用目的、管理状況、管理権者の態度、立入りの目的などからみて、現に行われた立入り行為を管理権者が容認していないと合理的に判断されるときは、他に犯罪の成立を阻却すべき事情が認められない以上、同条の罪の成立を免れないというべきである。」

このような目的での立ち入りは、スーパーの管理権者が容認していないといえるからです。

住居侵入罪の罪責は、「3年以下の懲役又は10万円以下の罰金」です。

なお、買物目的でスーパーに来店し、アイスケースを見て犯行を思い立ったような場合には、住居侵入罪は成立しません。

 

3 つぎに、アイスケースに入っていたアイスについて、器物損壊罪が成立しえます。

器物損壊罪(刑法261条)における「損壊」とは、物の効用を害する一切の行為を指します。

(参考判例:最決昭和35年12月27日、刑集14巻14号2229頁)

「校庭に「アパート建築現場」と墨書した立札を掲げ巾六間長さ二〇間の範囲で二箇所にわたり地中に杭を打込み板付けをして、もって保健体育の授業その他生徒の課外活動に支障を生ぜしめたときは、該物件の効用を害するから器物損壊罪を構成するものと解するを相当とする。」

他人が寝転んだアイスを購入したいと考える人は通常いないので、当該アイスをアイスとして売却することは、事実上不可能であり、物の効用を害する行為といえます。

過去の判例では、食器に放尿する行為が「損壊」にあたるとされています(大判明治42年4月16日、刑録 15輯452頁)。

器物損壊罪の罪責は、「3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料」です。

 

4 最後に、アイスケースに入る行為につき、スーパーに対する威力業務妨害罪が成立する可能性があります。

威力業務妨害罪(刑法234条)における「威力」とは、人の自由意思を制圧するに足る勢力の使用をいいます。

(参考判例:最判昭和28年1月30日、刑集 7巻1号128頁)

「「威力」とは犯人の威勢、人数及び四囲の状勢よりみて、被害者の自由意思を制圧するに足る犯人側の勢力と解するを相当とするものであり、且つ右勢力は客観的にみて被害者の自由意思を制圧するに足るものであればよいのであって、現実に被害者が自由意思を制圧されたことを要するものではないと解すべきものである。」

本件では、客がスーパーの売り場にあるアイスケースに入ることによって、必然的にアイスを販売するという業務の執行を中止または制限せざるを得ない状況になります。

そのため、当該行為自体が、業務主催者に心理的威圧を加えるものとして、「威力」に該当すると考えることができます。

過去の裁判例では、大阪万博の展示館「太陽の塔」の地上60メートルの右眼孔部に入り込む行為が「威力」にあたるとされています(大阪地判昭和47年2月17日、刑事裁判月報4巻2号394頁)。

威力業務妨害罪の罪責は、「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」です。

 

5 以上のとおり、スーパーの冷凍庫に入る行為は、住居侵入罪、器物損壊罪および威力業務妨害罪の罪責を負う可能性があります。

また、民事上多額の損害賠償を負担しなければならない可能性もあります。

このように軽い気持ちで行った行為によって、思わぬ刑罰・損害賠償責任を負担することがありますので、十分注意してください。

(弁護士 國安耕太)

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