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交通事故をめぐる法律関係7
第7回のテーマは、自賠責保険です。
自動車保険には、自動車損害賠償保障法により保険契約の締結が強制されている「自賠責保険」「自賠責共済」(以下「自賠責保険等」といいます。)と保険契約の締結が任意である「任意保険」があります。
自賠責保険等は、被害者救済を目的としていますので、自賠責保険等に加入せずに自動車を運行の用に供した場合には、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます(自賠責法第86条の3第1号)。
自賠責保険等と任意保険の大きな違いは、支払の対象です。
自賠責保険等は、被害者の生命または身体に対する損害(人身事故)の填補のみを目的としており、自動車の修理費用等の損害(物損事故)については支払の対象としていません。
また、人身事故の場合、被害者の被った損害はまずは自賠責保険により填補され、自賠責保険の負担額だけでは足りない場合に、その不足額が任意保険により填補されることになります。
なお、労働者が、業務が原因で負傷した場合や通勤中に負傷した場合には、「労働災害」として労働基準監督署に届け出ることにより、労災保険を受けることができます。
そのため、労働者が通勤中に交通事故により負傷した場合には、労災保険と自賠責保険等のいずれからでも給付を受けることができますので、どちらを先に請求するのかは被害者が自由に選ぶことができますが、同時に請求をして二重取りをすることはできません。
自賠責保険等と労災保険の主な違いとしては、以下のとおりです。
①自賠責保険等では支払限度額があるが、労災保険には治療費の限度額がない
②自賠責保険等では慰謝料も支払い対象であるが、労災保険では慰謝料は支払対象ではない
③自賠責保険等では仮渡金の制度(損害賠償額が確定する前であっても、一定額の支払を自賠責保険会社に対して請求することができる制度)があるが、労災保険では仮渡金の制度はない
次回は、「損害賠償請求の流れ」についてご紹介します。
(弁護士 松村 彩)
交通事故をめぐる法律関係6 過失相殺
第6回のテーマは、過失相殺です。
交通事故の場合において、被害者に事故の発生や損害の拡大に落ち度がある場合に損害賠償額が減額されることがあります。
これを「過失相殺」といいます。
例えば、歩行者が、横断歩道が付近に存在するにもかかわらず、あえて横断歩道外を歩行して交通事故が発生した場合、被害者の過失として基本的には25パーセント程度の過失相殺がなされます。
どの程度の過失相殺をするのかは、訴訟においては、最終的には裁判官の裁量に任せられることになりますが、一般的には、東京地裁民事交通訴訟研究会編「交通訴訟における過失相殺率の認定基準全訂四版」(別冊判例タイムズ16号)に掲載されている過失相殺の基準を利用します。
ただし、現実に発生する交通事故は千差万別ですので、基準のうちのどの類型を適用すべきであるのかについては、交渉や訴訟においても争いになることが多々あります。
また、被害者本人に過失がなくても、被害者と身分上、生活関係上一体の関係にある者の過失が存在する場合には、「被害者側の過失」として、被害者本人の過失と同視して過失相殺をすることがあります。
例えば、夫が妻を同乗させて運転していて交通事故を起こした場合、夫と第三者の双方に過失があるときには、妻の第三者に対する損害賠償請求においては、夫の過失を「被害者側の過失」として斟酌し、過失相殺をして損害額を決めることになります。
次回は、「自賠責保険」についてご紹介します。
(弁護士 松村 彩)
交通事故をめぐる法律関係5 物的損害
第5回のテーマは、物的損害です。
交通事故で車両に損傷を受けた場合、修理が可能なときは、原則として必要かつ相当な修理費用の賠償を請求することができます。
実務上、加害者側の保険会社のアジャスター(保険会社から依頼されて事故車両の修理費の算定等を行う者)が事故車両を検分し、修理工場との間で修理方法や修理内容について協議を行い、修理費の金額について協定を締結することが多く、この場合には修理費の金額が争いになることは多くはありません。
修理の見積額が、車両の時価を超える場合には、修理費用を全額請求することはできず、事故当時の車両価格および買替諸費用の合計額を請求するにとどまります(これを「経済的全損」といいます。)。
なぜなら、事故当時の車両価格および買替諸費用が賠償されれば、被害者は同等の車両を手に入れることができ、その結果として、被害を受ける前の経済状態が回復されるため、これ以上の賠償を認める必要はないからです。
また、車両の修理期間中、レンタカー等の代車を使用することになった場合、代車を使用する必要性が存在するのであれば、代車使用料を損害として加害者に請求することができます。
代車のグレードとしては、被害車両が外国車の場合には国産高級車の限度で、国産車が被害車両の場合には同等以下の国産車の代車料を認めるが一般的です。
なお、車両の損傷等の物的損害を理由とする慰謝料は原則として認められません。
例えば、飼い犬が自動車にひかれて死んだ事例で、加害者が責任を否定して不誠実な対応をとり被害感情を刺激したことを重視して、飼い犬を喪失したことによる飼い主の慰謝料として2万円を認めた裁判例がありますが(東京地判昭和40年11月26日判時427号17頁)、これは例外的なケースといえるでしょう。
次回は、「過失相殺」についてご紹介します。
(弁護士 松村 彩)
交通事故をめぐる法律関係4 慰謝料
第4回のテーマは、慰謝料です。
交通事故によって被害者が感じた苦痛や不快感等を金銭により賠償するのが慰謝料です。
被害者が死亡した場合、いわゆる赤い本*に記載されている以下の基準を目安に具体的な事情を斟酌して慰謝料額を算出します。
①一家の支柱が死亡した場合 2800万円
②母親、配偶者 2500万円
③その他 2000万円~2500万円
なお、加害者の過失が重大であったり事故態様が悪質な場合、加害者の事故後の態度が著しく不誠実な場合には上記の基準額よりも増額される傾向にあります。
他方で、被害者が傷害を受けた場合には、入通院期間を基礎として、赤い本に記載されている慰謝料算定表を元に算出します。
例えば、通院1ヶ月入院0日の場合には慰謝料額は28万円、通院0日入院1ヶ月の場合には慰謝料額は53万円が基準額となります。
また、交通事故により後遺症が残った場合、第1級から第14級までの等級に応じて慰謝料額が決まります。
例えば、一番重い第1級の場合には2800万円、一番軽い第14級の場合には110万円が基準とされています。
なお、第14級に相当するとはいえないものの、後遺症があると認められた場合には一定額の慰謝料が認められることもあります。
次回は、「物的損害」についてご紹介します。
(弁護士 松村 彩)
*公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部発行「民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準」