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感染症と労務管理7
さて、今般の新型コロナの流行にかんがみて、テレワーク・リモートワーク・在宅勤務(以下、総称して「テレワーク等」といいます。)を導入したり、導入を検討したりする企業が増えています。
では、テレワーク等を実施するにあたり、どのような点に注意すればよいのでしょうか。
まず、テレワーク等を実施するため、許認可等の特別な法的手続きが求められるわけではありません。
ただ、従業員の職場環境や労働条件に関係するため、就業規則を整備しておくことが望ましいといえます。
また、会社は、労働契約を締結する際、従業員に対し、賃金や労働時間のほかに、就業の場所に関する事項等を明示しなければならないとされていますので(労働基準法第15条1項*1、労働基準法施行規則5条1項1号の3*2)、就業の場所としてテレワークを行う場所を明示する必要があります。
つぎに、テレワーク等を行う場合においても、会社は、その労働者の労働時間について適正に把握する責務を有しています(労働安全衛生法66条の8の3*3)。
テレワーク等の場合、会社(上司)が、直接視認して確認することは難しいと思いますので、タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録することで対応するのが原則になると思います。
(弁護士 國安耕太)
*1 労働契約法15条1項
使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
*2 労働基準法施行規則5条1項1号の3
使用者が法第十五条第一項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件は、次に掲げるものとする。
一の三 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
*3 労働安全衛生法66条の8の3
事業者は、第六十六条の八第一項又は前条第一項の規定による面接指導を実施する ため、厚生労働省令で定める方法により、労働者(次条第一項に規定する者を除く。)の労働時間の状況を把握しなければならない。
感染症と労務管理6
さて、先週、会社が新型コロナに関する感染防止策を実施していたにもかかわらず、従業員が新型コロナに罹患してしまった場合、労災保険給付の対象となりうるという話をしました。
では、会社の安全配慮義務違反に基づく損害賠償と労災保険給付はどのような関係にあるのでしょうか。
この点、労基法84条*1には、労災保険給付がなされた場合、使用者は補償義務を負わないことが明記されています。
では、なぜ、使用者である会社の賠償義務が問題となるのでしょうか。
実は、これは労災保険の性質に基づきます。
すなわち、労災保険は、あくまでも「業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行」うものにすぎません*2。
そのため、労災保険給付は、必ずしも損害を完全に賠償するものではないのです。
(弁護士 國安耕太)
*1 労働基準法84条
1 この法律に規定する災害補償の事由について、労働者災害補償保険法 (昭和二十二年法律第五十号)又は厚生労働省令で指定する法令に基づいてこの法律の災害補償に相当する給付が行なわれるべきものである場合においては、使用者は、補償の責を免れる。
2 使用者は、この法律による補償を行つた場合においては、同一の事由 については、その価額の限度において民法による損害賠償の責を免れる。
*2 労働者災害補償保険法1条
労働者災害補償保険は、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行い、あわせて、業務上の事由又は通勤により負傷し、又は疾病にかかつた労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族の援護、労働者の安全及び衛生の確保等を図り、もつて労働者の福祉の増進に寄与することを目的とする。
感染症と労務管理5
さて、先週、会社が、新型コロナに関する感染防止策を怠っていた場合、安全配慮義務違反を問われる可能性がある、という話をしました。
では、会社が新型コロナに関する感染防止策を実施していたにもかかわらず、従業員が新型コロナに罹患してしまった場合、当該従業員は何の補償も受けられないのでしょうか。
まず、考えられるのは、労災保険に基づく補償です。
新型コロナに罹患したことが労災保険給付の対象となるのかについて厚生労働省は、「業務に起因して感染したものであると認められる場合には、労災保険給付の対象となります。」としています(新型コロナウイルスに関するQ&A(労働者の方向け)5労災補償 問1)。
では、つぎに、どのような場合であれば「業務に起因して感染したものである」とされるのでしょうか。
この点に関し、令和2年2月3日に出された厚生労働省の基補発0203第1号「新型コロナウイルス感染症に係る労災補償業務の留意点について」との通達では、
(1)業務または通勤における感染機会や感染経路が明確に特定され、
(2)感染から発症までの潜伏期間や症状等に医学的な矛盾がなく、
(3)業務以外の感染源や感染機会が認められない場合
に該当するか否か等について個別の事案ごとに判断するとされています。
そのうえで、「接客などの対人業務において、新型コロナウイルスの感染者等と濃厚接触し、業務以外に感染者等との接触や感染機会が認められず発症」したような場合は、「業務上と考えられる」旨記載されています。
このことからすれば、上記(1)ないし(3)の要件を満たしているような場合には、「業務に起因して感染したものである」と認められる可能性が高いといえるでしょう。
(弁護士 國安耕太)