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相続をめぐる法律関係4 相続財産管理人
第4回のテーマは、相続財産管理人です。
例えば、被相続人の生前にお金を貸していた人が、被相続人の遺産(相続財産)からお金を返してもらうためにはどうしたらよいでしょうか。
相続人が存在するならば、相続人に対して請求をすることができますが、相続人が存在しない場合はどうしたらよいでしょうか。
相続人がいない相続財産を管理、処分してもらいたいときには、相続財産管理人の選任を家庭裁判所に申し立てることができます。
この相続財産管理人の選任の申立をすることができるのは、検察官または利害関係人です(民法952条1項)。
前述の例ですと、相続財産からお金を返してもらいたいと考えている人は、利害関係人にあたるといえます。
家庭裁判所に対して、相続財産管理人の選任の申立てがされると、家庭裁判所は、被相続人の戸籍等といった資料を確認した上で、相続財産管理人を選任します。
一般的には、弁護士や司法書士が相続財産管理人に選任されることが多いといえます。
相続財産管理人は、被相続人の債権者等がいるのかどうかを確定するため、被相続人に対して債権を有している者等は申し出てくるよう官報に公告します。
また、相続人を捜索するため、相続人がいるならば名乗り出るよう官報に公告します。
もし、官報に公告してから6か月以上経過しても、相続人が出現しなければ、相続人が不存在であることが確定します。
その後、相続財産管理人は、被相続人の債権者等に対して相続財産から債務の弁済を行うことになります。
なお、相続人捜索のための官報掲載費用や相続財産管理人の報酬のため、相続財産管理人選任の申立てに当たっては裁判所に予納金を納める必要があります。
事案により異なりますが、50万円から100万円ほどの予納金が必要になることが多いため、相続財産管理人の選任の申立を行う際には、費用対効果をよく考えて行うようにしてください。
次回は、「相続の承認と放棄」についてご紹介します。
(弁護士 松村 彩)
相続をめぐる法律関係3 相続人の廃除
第3回のテーマは、相続人の廃除です。
民法に規定されている相続人の欠格事由に該当しない場合であっても、家庭裁判所に対する申立により、推定相続人から相続権を奪うことができる制度があります(民法892条)。
これを「相続人の廃除」といいます。
相続人の廃除が認められるためには、以下の廃除事由が存在することを申立書に記載した上で、家庭裁判所に推定相続人廃除の審判の申立を行い、家庭裁判所に廃除の決定を出してもらわなければなりません。
民法で規定されている廃除事由としては、以下の2つがあります。
①被相続人に対して虐待したとき、もしくは重大な侮辱を加えたとき
②推定相続人にその他の著しい非行があったとき
相続人の廃除は、推定相続人の相続権を裁判所に対する申立により奪う制度ですから、被相続人の主観的、恣意的な廃除は認められません。
そのため、廃除事由としての「虐待」や「侮辱」、「著しい非行」は、相続的共同関係を破壊する程度に客観的に重大なものでなければなりません。
例えば、以下の事例では廃除の申立が認められました。
父の金員を無断で費消したり、多額の物品購入代金の支払いを父に負担させた上、これを注意した父に暴力を振るい、その後家出して行方不明となっている長男に対する父からの推定相続人廃除の申立てを認めた事例(岡山家審平成2年8月10日家月43巻1号138頁)
なお、廃除により相続権がはく奪された場合であっても、代襲相続が可能です。
そのため、上記の裁判例において、相続権を廃除された長男に子(廃除の申立をした父からみて孫にあたる)がいた場合には、孫が代襲相続することができることになります。
次回は、「相続財産管理人」についてご紹介します。
(弁護士 松村 彩)
相続をめぐる法律関係2 相続人の欠格
第2回のテーマは、相続人の欠格です。
前回ご紹介したとおり、誰が相続人になることができるのかは、民法により規定されています。
ただし、民法が規定する一定の事由がある場合には、相続人から当然に除かれます(民法891条)。
この相続人から当然に除かれる事由のことを「欠格事由」といいます。
民法が規定する欠格事由は以下のとおりです。
①故意に被相続人または先順位もしくは同順位の相続人を死亡するに至らせ、または至らせようとしたために、刑に処せられた者
②被相続人が殺害されたことを知っていながら告訴、告発をしなかった者
③詐欺または強迫によって被相続人に相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、変更することを妨げた者
④詐欺または強迫によって被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、変更させた者
⑤相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、隠匿した者
①については、刑事裁判で刑が確定することで、欠格が証明されます。
②~⑤については、欠格事由の有無について相続人間で争いがある場合には、民事訴訟を提起し、判決によって欠格事由の有無を確定することになります。
次回は、「相続人の廃除」についてご紹介します。
(弁護士 松村 彩)
相続をめぐる法律関係1 相続人の範囲
今回から、相続をめぐる法律関係について、ご紹介していきます。
第1回のテーマは、相続人の範囲です。
相続とは、死亡した人の財産や権利義務を包括的に引き継ぐことをいいます。
死亡により財産等を引き継がれる人を「被相続人」といい、死亡した人の財産等を引き継ぐ人を「相続人」といいます。
誰が相続人になることができるのかは、民法に規定されています。
まず、配偶者(夫や妻)は常に相続人になります(民法890条)。
配偶者以外に親族がいる場合には、以下の順位で配偶者と共に相続人になることができます(民法887条1項、889条1項)。
第1順位:被相続人の子
第2順位:被相続人の直系尊属(被相続人の父母等)
第3順位:被相続人の兄弟姉妹
例えば、ある男性が死亡し、残された家族には、妻と子ども1人、男性の両親がいる場合には、妻(配偶者)と子ども(第1順位)が相続人になります。
男性の子どもが第1順位の相続人であるため、第2順位である男性の両親は相続人にはなれません。
また、上記の事例で、残された家族に、妻と孫1人(子どもの子ども)、男性の両親がいて、男性よりも先に子どもが死亡していた場合はどうでしょうか。
男性の子どもが相続開始前よりも死亡していた場合には、孫(子どもの子ども)が子どもに代わって相続人になることができます。
これを「代襲相続」といいます(民法887条2項)。
そのため、この事例では、妻(配偶者)と子どもを代襲相続した孫(第1順位)の2人が相続人になります。
相続人がいるかどうかについては、被相続人の戸籍謄本等を取得して調査することができます。
次回は、「相続人の欠格」についてご紹介します。
(弁護士 松村 彩)
交通事故をめぐる法律関係8
第8回のテーマは、損害賠償請求の流れについてです。
交通事故の被害者になった場合、損害を賠償してもらう流れとしては基本的には以下のとおりです。
まずは、自賠責保険会社に対して、損害賠償額の支払請求をすることができます。
具体的には、自賠責保険会社等の窓口に備え付けられた所定の請求用紙に必要事項を記入して、必要書類(交通事故証明や診断書等)を添付して支払を請求することになります。
ただし、前回ご紹介したとおり、自賠責保険では物損事故の損害賠償は対象外であり、仮に人身事故であったとしても支払限度額が設定されています。
そのため、自賠責保険だけでは全ての損害をカバーできるとは限らず、加害者の任意保険で不足分をカバーしてもらうことになります。
もし交通事故の加害者が自賠責保険にしか入っておらず、任意保険に入っていない場合、被害者はどうすればよいのでしょうか。
自賠責の上限を超える損害については、まずは加害者等に直接、損害賠償請求をすることが考えられます。
例えば、加害者が仕事中に起こした事故の場合には雇用主に対して損害賠償請求をする余地もありますので、直接の加害者以外の者にも請求することができないかを検討することになります。
交渉段階で加害者等が任意で支払ってくれれば問題ありませんが、任意で支払ってくれない場合には、訴訟提起をして加害者の財産を差し押さえて強制的に回収することになります。
ただし、加害者に資産がない場合や加害者の資産がどこにあるのか分からない場合には、訴訟で勝訴しても実際に債権を回収することは難しいでしょう。
そこで、被害者自身が加入している任意保険を使って、自賠責保険を超える部分の損害を補填することが考えられます。
ただし、被害者自身が加入している保険の内容によって、保険金が支払われる条件や金額が異なりますので、注意してください。
(弁護士 松村 彩)