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取締役の責任

取締役の責任とは?7 取締役の刑事責任

犯罪行為に関しては、主として刑法に記載されていますが、会社法上取締役には、特別な刑罰が規定されています。

 

たとえば、取締役は、

①自己もしくは第三者の利益を図りまたは株式会社に損害を加える目的で、

②その任務に背く行為をし、当該株式会社に財産上の損害を加えたときは、

10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、またはその両方に処せられます(特別背任罪、会社法960条1項3号)。

これは、通常の刑法上の背任罪(247条)より重い刑罰を課すことで、株主や会社債権者等会社の利害関係者が、不測の損害を被ることのないよう、取締役の任務違背行為を抑止しようとするものです。

 

また、裁判所や株主総会等で、一定の事項について虚偽の申述を行い、または事実を隠ぺいしたときは、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、またはその両方に処せられます(会社財産を危うくする罪、会社法963条)。

これも会社の利害関係者が、不測の損害を被ることのないよう、取締役の任務違背行為を抑止しようとするものといえます。

 

このように、会社法上取締役には、特別な刑罰が規定されています。

もちろん、普通に業務を執行している限りは、このような刑罰を科されることはありません。

会社を経営していくにあたっては、取締役の責任の重さをきちんと理解し、適正な業務執行をしていくことが重要といえます。

(弁護士 國安 耕太)

 

 

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取締役の責任とは?6 株主代表訴訟

会社が取締役の責任を追及する場合、監査役が会社を代表するのが原則です。

株主は、監査役に対し、取締役の責任追及をするよう求めることができます。

 

しかし、取締役と監査役の馴れ合いによって、監査役が訴えを提起しない等、うまく機能しない場合があります。

 

そこで定められた制度が株主代表訴訟です。

 

上記のとおり、株主は、監査役に対し、取締役の責任追及をするよう求めることができますが、監査役がこの求めから3か月以内に訴えを提起しない場合は、株主自身が取締役の責任追及の訴えを提起することができます。

これが株主代表訴訟です。

 

なお、株主代表訴訟を提起できる株主は、原則として6か月前から引き続き株式を有する株主に限定されます(会社法847条1項)。

 

また、濫訴を防止するため、株主または第三者の不正な利益を図り、又は当該会社に損害を加えることを目的とする場合には、監査役に対する提訴請求自体ができません(会社法847条1項ただし書き)。

 

このように、不正な行為については、株主から直接責任追及される可能性があります。

(弁護士 國安耕太)

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取締役の責任とは?5 取締役の会社に対する賠償責任

取締役は、会社に対し、任務を怠った(任務懈怠)ことによって生じた損害を賠償する責任を負います(会社法423条1項*)。

 

任務懈怠は、取締役が、会社に対して負ってる善管注意義務(民法644条)および忠実義務(会社法355条)に違反した場合に認められます。

 

ただし、経営にはリスクがつきものであり、会社に損害が生じた場合に常に責任を問われるということになれば、取締役が委縮してしまい、会社にとって効果的な意思決定を行うことができなくなる可能性があります。

 

そこで、取締役の経営判断が会社に損害を与える結果になっても、かかる経営判断が特に不合理・不適切でなければ結果の責任を問われないという「経営判断の原則」が適用されるとされています。

 

具体的には、

①経営判断の基礎となる事実認識に重要かつ不注意な誤りがないこと

②経営判断の過程が合理的であること

③経営判断の内容が通常の企業経営者として明らかに不合理でないこと

という要件を満たしている場合は、会社に損害を与える結果になっても、取締役はかかる結果の責任を問われません。

 

実際、過去の裁判においても、取締役の経営判断に関し「その決定の過程、内容に著しく不合理な点がない限り、取締役としての善管注意義務に違反するものではない」(最判平成22年7月15日、集民第234号225頁)。

 

このように、取締役に任務懈怠がある場合は損害賠償義務を負いますが、それはあくまでも経営判断が不合理・不適切な場合に限られます。

(弁護士 國安耕太)

 

* 会社法423条1項

取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この節において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 

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取締役の責任とは?4 取締役の義務

取締役は、会社に対し、①善管注意義務、②忠実義務、③競業避止義務等の義務を負っています。

 

①善管注意義務

会社と取締役との関係には、民法の委任に関する規定が適用されます(会社法330条)*1。

そのため、取締役は、委任の本旨に従い、その地位にある者に通常期待される注意をもって、委任事務を処理する義務を負うことになります(民法644条)*2。

条文上「善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務」とされているので、これを一般的に善管注意義務と呼んでいます。

 

②忠実義務

会社法上、取締役は、「法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない。」(会社法355条)とされており、これを一般的に忠実義務と呼んでいます。

なお、この善管注意義務と忠実義務との関係について、判例は「(忠実義務の規定は)善管義務を敷衍し、かつ一層明確にしたにとどまるのであつて、通常の委任関係に伴う善管義務とは別個の、高度な義務を規定したものとは解することができない。」としています(最判昭和45年6月24日、民集24巻6号625頁)。

 

③競業避止義務

取締役は、自己または第三者のために「会社の事業の部類に属する取引」を行うことが制限されています(会社法356条1項1号)。

これを競業避止義務と呼んでいます。

(弁護士)國安 耕太

 

*1 会社法330条

株式会社と役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う。

 

*2 民法644条

受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。

 

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取締役の責任とは?3 取締役の権限

取締役の権限は、会社の組織形態によって異なります。

すなわち、取締役会(または委員会)があるかないかによって、その権限は大きく異なります。

 

まず、取締役会を設置していない会社(取締役会非設置会社)で、取締役が1名の場合、当該取締役が業務の方針を決定し、業務を執行します(会社法348条1項)*1。

取締役が2名以上いる場合は、業務の方針は、取締役の過半数によって決定することになりますが(会社法348条2項)、各取締役は1人で業務の執行をすることができます。

ただし、代表取締役が選任されている場合は、代表取締役のみが会社を代表する権限を有します(会社法349条4項)。

 

これに対し、取締役会設置会社では、取締役会が業務の執行をします(会社法362条2項1号)。

すなわち、取締役会が代表取締役や業務執行取締役を選任し、同人に業務執行を委任したうえで、その業務執行を監督する(会社法362条2項2号)ことになります。

そのため、実際には、代表取締役や業務執行取締役が、業務執行の決定を行い、執行することになります。

ただし、重要な業務執行の決定については、取締役会で決定しなければならず、代表取締役や業務執行取締役に委任することはできないとされています(会社法362条4項)*4。

 

このように、会社の組織形態によって、取締役の権限は大きく異なってきます。

(弁護士)國安 耕太

 

*1 会社法348条1項

「取締役は、定款に別段の定めがある場合を除き、株式会社(取締役会設置会社を除く。以下この条において同じ。)の業務を執行する。」

 

*2 会社法348条2項

「取締役が二人以上ある場合には、株式会社の業務は、定款に別段の定めがある場合を除き、取締役の過半数をもって決定する。」

 

*3 会社法349条4項

「代表取締役は、株式会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。」

 

*4 会社法362条4項

「取締役会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができない。

一 重要な財産の処分及び譲受け

二 多額の借財

三 支配人その他の重要な使用人の選任及び解任

四 支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止

五 第六百七十六条第一号に掲げる事項その他の社債を引き受ける者の募集に関する重要な事項として法務省令で定める事項

六 取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備

七 第四百二十六条第一項の規定による定款の定めに基づく第四百二十三条第一項の責任の免除」

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取締役の責任とは?2 取締役の法的性質

取締役は、会社との間で、報酬や任期等について合意した会社の経営に関する委任契約を締結し(会社法330条)、業務執行を行います。

この委任契約は、同じく会社の業務を行う従業員が会社との間で締結している労働契約(雇用契約)とは、大きく異なっています。

 

まず、委任契約は、いつでも解除することができます(民法651条)。

そのため、取締役についても、「いつでも株主総会の決議によって解任することができる」(会社法339条1項)とされています。

これは、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」(労働契約法16条)とされ、契約の解除が制限されている雇用契約との大きな違いです。

 

また、取締役は、業務執行の対価として会社から報酬を受領しますが、会社の業績が悪いと、報酬を大幅に減額される可能性があります。

他方、労働契約では、賃金全額払いの原則が定められている(「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」労働契約法24条1項本文)とされています。

 

さらに、取締役の任期は、原則として2年とされており(会社法332条1項)、伸長した場合でも最大で10年です(同2項)。

これに対し、労働契約は、定年までの労働契約を締結することができます。

 

このように、取締役の委任契約は、労働者の労働契約とは大きく異なっていることに留意が必要です。

(弁護士 國安耕太)

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取締役の責任とは?1 総論

2017年版「中小企業白書」には、総務省「就業構造基本調査」を活用した、起業を希望する起業希望者や実際に起業した起業家といった起業の担い手の実態や経年推移等が記載されています*。

 

さて、起業する場合、個人事業主として起業するほか、会社を設立して起業するということも可能です。

会社を設立して起業する場合、みなさんは、(代表)取締役になることになりますが、会社法上、取締役には、取締役固有の責任が定められています。

 

これから取締役になる方は、ぜひ取締役の責任について、きちんと理解してから取締役に就任して欲しいと思います。

 

また、すでに取締役となっている方は、取締役がどのような責任を負っているのかについて改めて確認し、そのリスク管理をしていただければと思います。

(弁護士 國安耕太)

 

*https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H29/PDF/h29_pdf_mokujityuu.html

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パワハラにご注意を!

近年、職場のパワーハラスメントに関する都道府県労働局や労働基準監督書等への相談件数が、増加しています。

 

パワーハラスメントとは、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」をいいます。

 

上司から部下に対する行為が典型例ですが、同僚間、さらには部下から上司に対して行われるものも含まれます。

 

また、つぎの6つ行為が、パワーハラスメントの典型的な行為とされています(なお、これ以外は問題ないということではありません。)。

(1)身体的な攻撃・・・暴行、傷害など

(2)精神的な攻撃・・・脅迫、名誉棄損、ひどい暴言など

(3)人間関係からの切り離し・・・隔離、仲間外し、無視など

(4)過大な要求・・・業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害など

(5)過小な要求・・・業務上の合理性がなく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じる、仕事を与えないなど

(6)個の侵害・・・私的なことに過度に立ち入るなど

 

このうち、(1)については、どのような場合であっても許容されるものではなく、身体的な攻撃=パワーハラスメントと認定されるのが通常です。

また、(2)および(3)についても、通常、業務遂行に必要な行為であるとはいえないことから、原則として「業務の適正な範囲」を超えるもの、すなわちパワーハラスメントと認定される可能性が極めて高いといえます。

 

したがって、自社内で、(1)~(3)に該当する行為がなされているのを見掛けたら、即座に是正する必要があります。

 

つぎに、(4)~(6)の類型ですが、これらについては、程度問題ということもあり、パワーハラスメントかどうかが個別具体的に検討されることになります。

 

部下を熱心に教育していたつもりが、ある日突然パワーハラスメントだと訴えられる。

そういったことがないよう十分ご注意ください。

(弁護士 國安耕太)

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会社の労務管理と取締役の責任

1 10月30日(水)午後6時30分から東京都港区新橋1-18-19キムラヤオオツカビル7階JWAグループセミナールームにて、第3回労務管理セミナー『社長さん必見!会社を守るための「健康管理と労災補償・損害賠償の実務」』を開催いたします。

残席にまだ余裕がありますので、お時間のある方は、お誘い合わせのうえ、ぜひご参加ください。

 

2 さて、上記セミナーでも取り上げますが、先日、居酒屋チェーンの男性従業員(当時24歳)が死亡したのは過労が原因であるとして、当該従業員の遺族が、T社および役員個人に対し、損害賠償を求めた事案に関し、最高裁はT社らの上告を棄却する判決を下しました(平成25年9月24日)。

これにより、T社に対して合計約7800万円の支払いを命じた京都地裁判決(平成22.5.25、労判1011号35頁)、大阪高裁判決(平成23.5.25、労判1033号24頁)が確定しました。

 

3 過重労働が原因で、従業員が死傷した場合、従業員ないしその家族は、会社に対し、不法行為を理由とする損害賠償請求(民法709条)をすることができます。

また、債務不履行(安全配慮義務違反)を理由とする損害賠償請求(民法415条)をすることもできます。安全配慮義務とは、判例上、「労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命および身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務」(最判昭和59.4.10、民集38-6-557、川義事件)とされてきたもので、現在では、労働契約法5条に「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と定められています。

本件でも、原告となった従業員の遺族は、不法行為および債務不履行(安全配慮義務違反)を根拠に損害賠償を求めていましたが、京都地裁は、「被告会社は、労働者であるAを雇用し、自らの管理下におき、a駅店での業務に従事させていたのであるから、Aの生命・健康を損なうことがないよう配慮すべき義務を負っていたといえる。具体的には、Aの労働時間を把握し、長時間労働とならないような体制をとり、一時、やむを得ず長時間労働となる期間があったとしても、それが恒常的にならないよう調整するなどし、労働時間、休憩時間及び休日等が適正になるよう注意すべき義務があった。」としたうえで、「給与体系において、本来なら基本給ともいうべき最低支給額に、80時間の時間外労働を前提として組み込んでいた」、「三六協定においては1か月100時間を6か月を限度とする時間外労働を許容しており、実際、特段の繁忙期でもない4月から7月までの時期においても、100時間を超えるあるいはそれに近い時間外労働がなされており、労働者の労働時間について配慮していたものとは全く認められない」等の事実を認定し、「被告会社が、Aの生命、健康を損なうことがないよう配慮すべき義務を怠り、不法行為上の責任を負うべきであることは明らかである。」として、不法行為を理由とする損害賠償請求を認めました(大阪高裁、最高裁もかかる判断を支持しています。)。

 

4 さらに、本件訴訟では、上記のとおり、T社のみならず、T社の役員個人に対しても、会社法429条1項に基づく損害賠償義務を認めました。

会社法429条1項は「役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。」と規定していますが、過重労働によって従業員が死亡した事案に関し、取締役の個人責任が認められるのは、非常に珍しいといえます。

ただ、本件では、上述のとおり、給与体系において、最低支給額に80時間の時間外労働を前提として組み込んでいたり、三六協定においては1か月100時間を6か月を限度とする時間外労働を許容している等、労務管理の制度設計からして不備があるとされても仕方がないような体制を取っていました。

そうであるからこそ、京都地裁も、「被告取締役らにおいて、労働時間が過重にならないよう適切な体制をとらなかっただけでなく・・・一見して不合理であることが明らかな体制をとっていたのであり、それに基づいて労働者が就労していることを十分に認識し得たのであるから、被告取締役らは、悪意又は重大な過失により、そのような体制をとっていたということができ、任務懈怠があったことは明らかである。」として、取締役個人の責任を認めたものと考えられます。

 

5 このように、昨今では、会社だけでなく、取締役等の役員個人に対する損害賠償訴訟も提起されるようになってきました。そして、実際に損害賠償請求が認められる事案も出てきています。

会社にとって、事前に専門家によるチェックを受け、適正な労務管理を行うことは喫緊の課題ですが、会社のみならず、取締役個人にとっても、適正な労務管理を行うことが直接的かつ重要な意味を持つ時代となったといえるでしょう。

(弁護士 國安耕太)

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ブラック企業と経営者

先日、「ブラック企業大賞2013」の授賞式が開催され、大賞は大手居酒屋チェーンを経営するW社が受賞したようです。

ブラック企業について、明確に定義されているわけではありませんが、ウィキペディアでは、「広義には入社を勧められない労働搾取企業を指す。すなわち、労働法やその他の法令に抵触し、またはその可能性があるグレーゾーンな条件での労働を、意図的・恣意的に従業員に強いたり、関係諸法に抵触する可能性がある営業行為や従業員の健康面を無視した極端な長時間労働(サービス残業)を従業員に強いたりする、もしくはパワーハラスメントという暴力的強制を常套手段としながら本来の業務とは無関係な部分で非合理的負担を与える労働を従業員に強いる体質を持つ企業や法人(学校法人、社会福祉法人、官公庁や公営企業、医療機関なども含む)のことを指す」とされています。

私たち外部の人間には、ブラック企業大賞を受賞したW社が本当にブラック企業かどうかはわかりません。

しかし、仮に使用者である企業が、長時間のサービス残業を従業員に強いているとすれば、未払残業代(労基法37条1項)や付加金(労基法114条)を請求することができますし、長時間労働により身体に異常が生じたような場合には、安全配慮義務違反を根拠に損害賠償請求(民法709条)をすることができます。

また、サービス残業については「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」が労働基準局長通達(平成13年4月6日基発339号)として出されています。この通達では労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置として、始業・終業時刻の確認及び記録等が挙げられています。これに関連して、タイムカードによる労働時間の記録がある場合には、使用者による適切な反証がない限り、その記録に従って時間外労働の時間を算定するとの裁判例(丸栄西野事件、大阪地判平成20・1・11、労判957-5)もあります。サービス残業に対する裁判所の姿勢は近年厳しくなっているといえましょう。

さらには、悪質なサービス残業の事例では、労働基準監督署の立入検査や是正勧告を受けている場合もあります。

また、刑罰の対象にもなりえます。たとえば、残業代不払いの場合は、労基法24条に違反し、30万円以下の罰金となり(労基法120条)、36協定の締結がないのに時間外労働をさせた場合には、労働基準法32条に違反し、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金となります(労基法119条)。

昨今では、ひとたびニュースとなれば半永久的にネットに残り続けますから、万一これらの処分を受けて公表されると、企業にとって大きなダメージとなります。

さらに、パワーハラスメントについては、加害者である上司や同僚に対する慰謝料請求(民法709条)だけでなく、労働契約上の安全配慮義務違反を根拠に、企業に対し、損害賠償請求することも考えられます。現に川崎市水道局事件(東京高判平成15・3・25、労判849-87)では、使用者である川崎市に、安全配慮義務違反を理由とした国家賠償法上の責任が認められました。

このように、現代社会においては、昔と同じように従業員に働いてもらっていたにもかかわらず、突然ネット上でブラック企業であると批判されたり、現実に従業員から訴訟を提起されることも珍しくありません。

そして、企業にとっては、このような批判をされたり、訴訟を提起されること自体がリスクとなり得ます。

企業の経営者としては、このような批判や訴訟を防止するため、事前に専門家によるチェックを受けることが必要不可欠な時代となったといえるでしょう。

(弁護士 國安耕太)

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