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セクハラ発言と懲戒処分
昨日(平成27年2月26日)、最高裁で、職場における性的な発言等のセクシュアル・ハラスメント等を理由としてされた懲戒処分(出勤停止30日等)を有効とする判決が出されました。
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/883/084883_hanrei.pdf
原審は、被害者が明白な拒否の姿勢を示しておらず、加害者である上司が性的な言動も被害者から許されていると誤信していたこと等を、加害者に有利な事情として取扱いました。
これに対し、最高裁は、「職場におけるセクハラ行為については、被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも、職場の人間関係の悪化等を懸念して、加害者に対する抗議や抵抗ないし会社に対する被害の申告を差し控えたりちゅうちょしたりすることが少なくないと考えられること」や性的な言動の内容等に照らせば、加害者に有利な事情として取り扱うことはできないと判断しています。
また、原審は、懲戒を受ける前にセクハラに対する懲戒に関す会社の具体的な方針を認識する機会がなく、事前に会社から警告や注意等を受けていなかったことを加害者に有利な事情として取扱いましたが、最高裁は、これらについても加害者に有利な事情として取り扱うことはできないと判断しています。
本件の特色は、主として、
①性的な発言を理由に出勤停止という懲戒処分を行い、これが懲戒権の濫用にはあたらないと判断されたこと
②加害者側の認識がどのようなものであったのかを加味せず、加害者の行為を中心に判断していること
にあります。
本件は、あくまでも事例判断ですが、最高裁が、セクハラに関する厳しい処分を有効としたことをうけ、今後は、雇用主である会社に、より一層積極的な対応が求められるでしょう。
(弁護士 國安耕太)
[雑感]ダルビッシュ投手と300日問題
先日(平成27年2月22日)、元レスリング世界王者山本聖子さんが妊娠しており、父親はメジャーリーガーであるダルビッシュ投手であるとの報道がありました。
その中で、ある報道では「300日問題」は大丈夫か?との懸念が示されていました。
「300日問題」とは、母が、元夫との離婚後300日以内に子を出産した場合、その子は民法上元夫の子と推定されるため(民法772条2項)、子の血縁上の父と元夫とが異なるときであっても、原則として、元夫を父とする出生の届出しか受理されず、戸籍上も元夫の子として扱われることになってしまうというものです。
(なぜ、このような制度になっているかは、法務省のホームページに詳しく記載されています。*1)
詳細な事実は報道されていませんが、山本聖子さんが離婚したのが平成26年9月で、現在妊娠6か月であるとすると、離婚後300日以内に出産する、という事態も確かに考えられるとことです。
このように、民法772条2項により、離婚後300日以内に出産した場合は、原則として、元夫の子として取り扱われることになります。
そして、この場合に、元夫との親子関係を争う方法は、①嫡出否認、②親子関係不存在、③強制認知のいずれかの方法をとるしかありません。
ただし、②親子関係不存在および③強制認知の手続を取るためには、嫡出推定が及ばない事情、すなわち「妻がその子を懐胎すべき時期に、既に夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われ、又は遠隔地に居住して、夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかであるなどの事情が存在する場合」であることが要件とされています(最判平成26年7月17日、平成25(受)233参照*2)。
また、上記最高裁判決では、「夫と子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかであり、かつ、子が、現時点において夫の下で監護されておらず、妻及び生物学上の父の下で順調に成長しているという事情があっても、子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではないから、上記の事情が存在するからといって、同条による嫡出の推定が及ばなくなるものとはいえず、親子関係不存在確認の訴えをもって当該父子関係の存否を争うことはできない」と判示されていますから、最高裁は、②親子関係不存在および③強制認知の手続をとることができる場合を、相当限定して考えているといえます。
以上を踏まえれば、元妻が離婚後300日以内に出産した場合に、生まれた子どもと元夫との親子関係を争うのであれば、速やかに①嫡出否認の手続をとる、ということになるでしょう。
ダルビッシュ投手と山本聖子さんの場合も、注意が必要かもしれません。
(弁護士 國安耕太)
*1 http://www.moj.go.jp/MINJI/minji175.html#q1-1
*2 http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/344/084344_hanrei.pdf
著作権侵害と親告罪
昨日(2015年2月11日)、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)の交渉で、著作権侵害を非親告罪とする方向で協議がされている旨の報道がありました。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150211/k10015379371000.html
現在の著作権法では、著作権侵害があったとしても、作者等の著作権者等が、告訴しなければ、起訴することはできません(著作権法123条1項)。
これを、著作権者等の告訴がなくても、起訴できるようにする、すなわち、非親告罪とする、という改正をするということのようです。
*著作権法123条1項
「第百十九条、第百二十条の二第三号及び第四号、第百二十一条の二並びに前条第一項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。」
報道を見る限り、すべての著作権侵害を非親告罪とする、というわけではなく、営利目的等の場合に限っているようです。
確かに、違法にコピーしたDVDを大量に頒布する等の行為は、いわゆる暴力団等の反社会的勢力の資金源となっているような場合もあり、迅速に捜査・起訴する必要がある、ということは理解できます。
一方で、非親告罪とすることによって、表現の萎縮効果が生じることも危惧されます。
今後は、どのような場合には非親告罪となるのか、どこで親告罪と非親告罪線引きをするのか、検討していくことになるでしょう。
議論がどのように進展するのか、注目です。
(弁護士 國安耕太)
労災と遺族補償給付との相殺の方法
昨日(平成27年2月4日)、日経新聞につぎの記事が掲載されていました。
「労災で損害賠償が認められた場合に、別に支払われる遺族補償給付との相殺の方法が問題になった訴訟の上告審で、最高裁大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)は4日、当事者双方の意見を聞く弁論を開いた。相殺方法次第で総受取額が変わるが、過去の最高裁判決は割れており、大法廷が統一判断を示す見通し。判決期日は後日指定される。」
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG04HA7_U5A200C1CR8000/
実は、この事件、地裁判決は、賠償額にかかる遅延損害金から遺族補償給付を差し引くという処理をしましたが、二審の高裁判決では、元本から遺族補償給付を差し引くという処理をしました。
これによって、生じる遅延損害金の額が大きく異なってきます(後者の場合、前者よりも約1600万円少なくなります。)。
そのため、いずれの計算式が適用されるのかは、実務的に大きな意味を持ちます。
最高裁の判断が楽しみです。
(弁護士 南部弘樹)
土地の所有権と地下利用
先日、国土交通省が、リニア中央新幹線東京(品川)―名古屋間が2027年に開業すれば、国内総生産(GDP)を年間約5100億円押し上げる経済効果があるとの試算をしたとのニュースが報道されていました。
http://www.yomiuri.co.jp/economy/20150120-OYT1T50014.html
さて、このリニア中央新幹線、首都圏等の大都市圏内の区間では、地下トンネルを通行することになるようですが、線路用地はどのように確保しているのでしょうか。
民法上、土地の所有権は、「法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ。」(民法207条)とされています。
このため、本来であれば、リニア中央新幹線が地下を通行する区間についても、土地所有者から個別に使用の許諾を得なければならないことになります。
しかし、実は、大深度地下(40m以下)の使用については、「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法」という法律があります。
この法律に定める要件に従い、国土交通大臣等の使用の認可を受ければ、事業者(リニア中央新幹線の場合は、JR東海)は、対象地域において、当該事業者が施行する事業のために大深度地下を使用することができます(法10条)。
リニア中央新幹線については、平成26年3月に、事業概要書が提出されていますから、数年以内に、使用認可申請書が提出されるものと思われます*。
なお、土地の「上」については、航空法に基づき、使用が制限される場合があります(同法49条)。
(弁護士 國安耕太)
*近時では、平成26年3月に、東京外かく環状道路(関越道~東名高速)について国土交通大臣が使用を認可しています(事業概要書の提出は、平成19年1月、使用認可申請書の提出は、平成25年11月)。