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交通事故をめぐる法律関係3 消極損害の種類
第3回のテーマは、消極損害の種類です。
被害者が自己に遭わなければ得られたであろうと考えられる利益を失ったことによる損害を、「消極損害」といい、具体的には休業損害や死亡による逸失利益がこれにあたります。
休業損害は、交通事故により受けた傷害の治療のため休業を余儀なくされ、その間収入を得ることができなかったことによる損害をいいます。
休業損害は、交通事故前の収入を基礎として、1日の基礎収入に休業日数を乗じて計算します。
給与取得者の場合、勤務先が発行する休業損害証明書や源泉徴収票等により、基礎収入と休業日数を立証することになります。
事業所得者の場合、前年度の所得税確定申告書により、基礎収入と休業日数を立証することになりますが、業績に変動がある場合には、数年間の実績を平均して計算することもあります。
主婦等の家事従事者の場合、収入はありませんが、家事労働も財産的評価が可能であるため、受傷のため家事に従事することができなかった期間について、休業損害を請求することができます。
この場合、基礎収入は、賃金センサス(厚生労働省が毎年発表している賃金構造基本統計調査)の女子労働者の全年齢平均賃金によって計算します。
失業者の場合、原則として休業損害は認められませんが、就職が内定している場合や治療期間中に就職の可能性があれば休業損害が認められます。
就職が内定している場合は、就職したときに得られる見込みであった給与が基礎収入になります。
一方で、それ以外の場合は失業前の収入を参考として賃金センサスの平均賃金またはこれを下回る額が基礎収入とされることが多いといえます。
一方で、死亡事案においては、以下の計算式により算出します。
基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能期間の年数に対応する中間利息の控除に関するライプニッツ係数
次回は、「慰謝料」についてご紹介します。
(弁護士 松村 彩)
交通事故をめぐる法律関係2 積極損害の種類
第2回のテーマは、積極損害の種類です。
前回ご紹介したとおり、人身事故の場合、被害者は「積極損害」と「消極損害」の賠償を加害者に請求することができます。
被害者が交通事故のために出費を余儀なくされたことによる損害を、「積極損害」といい、具体的には①治療費、②付添費用、③交通費、④葬儀費用等がこれにあたります。
①治療費については、診察料や検査料、入院料、手術料等が含まれますが、治療のために必要かつ相当なものであれば、原則として実費の全額を加害者に請求することができます。
ただし、按摩や鍼灸、マッサージ等の東洋医学による施術については、医師が治療上必要と認めて指示した場合は基本的には全額請求することが認められますが、医師の指示がない場合には治療上有効であっても実費から減額された額しか認められない傾向にあります。
②付添費用については、医師の指示がある場合または被害者の受傷の程度や年齢等から付添看護を必要とする場合には、入院や通院の付添費用を請求することができます。
裁判例では、1日あたり5500円~7000円程度の近親者の付添費用が認められています。
③交通費については、被害者本人の入退院および通院のために公共交通機関を利用した場合には、現実に支出した額を加害者に請求することができます。
タクシーやハイヤー等を利用した場合は、歩行が困難な事情があるときや公共交通機関の便がないとき等、タクシー等を利用せざるを得ない事情があるときのみ、タクシー等の代金を請求することができます。
④葬儀費用については、火葬・埋葬料、布施・供物料、花代、弔問客に対する饗応等は相当のものに限り加害者に請求することができます。
一方で、引出物代、香典返し等は加害者に請求することはできません。
いずれの請求についても、実際に加害者に損害賠償請求する場合には、領収証や支払明細等といった証拠を残しておくことが重要です。
次回は、「消極損害の種類」についてご紹介します。
(弁護士 松村 彩)
交通事故をめぐる法律関係1 交通事故の損害賠償責任
今回から、交通事故をめぐる法律関係について、ご紹介していきます。
第1回のテーマは、交通事故の損害賠償責任です。
交通事故の被害者は、直接の加害者である運転者に対して、不法行為に基づく損害賠償請求をすることができます(民法709条)。
被害者が請求することができる損害は、傷害または死亡による損害である「人身損害」と車両破壊による損害等の「物件損害」に大別することができ、「人身損害」は、さらに「財産的損害」と「精神的損害」に分けられます。
「財産的損害」とは、交通事故によって被害者に生じた財産的・経済的な不利益をいいます。
具体的には、治療費や通院交通費といった、被害者が交通事故のために出費を余儀なくされたことによる損害(積極損害)と休業損害といった、被害者が自己に遭わなければ得られたであろうと考えられる利益を失ったことによる損害(消極損害)がこれにあたります。
一方で、「精神的損害」とは、交通事故によって被害者が感じた苦痛や不快感等をいい、これを賠償するのが慰謝料にあたります。
従業員が業務中に交通事故を起こした場合には、会社も被害者に対して損害賠償責任を負うことになります。
また、従業員が無断で私用のために社用車を運転して交通事故を起こした場合であっても、当該従業員がどのような経緯で社用車を持ち出したのか、日常的に当該従業員が自動車を業務として運転していたのか、これまでも無断私用運転が行われてきたのか等といった事情を総合的に考慮し、当該運行が会社の支配下にあったと評価できる場合には、会社も被害者に対して損害賠償責任を負うことになります(大分地判平成5年10月20日交民26巻5号1299頁)。
もっとも、会社が被害者に対して損害賠償を支払ったときは、直接の加害者である従業員に対して、会社が被害者に支払った損害を求償することができます。
ただし、会社は従業員を使って利益をあげている以上、従業員を使うことによって生じた不利益も甘受すべきであるという報償責任の原則から、従業員に対する求償権が制限されることがあります。
次回は、「積極損害」についてご紹介します。
(弁護士 松村 彩)