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企業の倒産処理手続11(私的整理3)
前回に引き続き、準則型の私的整理についてです。
次に、中小企業再生支援協議会(以下「協議会」といいます。)による再生支援事業についてです。
協議会は、中小企業の事業再生に向けた取り組みを支援する「国の公的機関」(経済産業省委託事業)として47都道府県に設置されており、商工会議所等が受託・運営しています。
協議会による再生支援事業は、中小企業再生支援協議会事業実施基本要領というルールに基づき協議会の関与の下、行われます。
まず、協議会の統括責任者等と企業の代表者等との間で事業の再生に向けた取り組みに関する相談が行われ、統括責任者等が企業の財務状況等を把握した上で、課題解決に向けた助言、支援施策・支援機関の紹介を行います(第一次対応)。
また、企業が再生計画策定支援(第二次対応)を希望する場合は、統括責任者等は、事業価値があり関係者の支援により再生が可能であるか等の観点から、これを行うことが適当であるかを判断します。
再生計画策定支援を行うことが適当であると判断された場合、統括責任者は、企業の承諾を得たうえで、主要債権者に対し、企業の財務状況や再生可能性を説明し、主要債権者の意向を確認します。
主要債権者が反対しないときは、統括責任者は、再生計画の策定を支援することを決定し、企業の再生を支援する外部専門家で構成される個別支援チームを編成し、対象債権者(主要債権者や金融機関等の債権者)に、事業の再生への協力を要請します。
その後、個別支援チームが財務および事業のデューデリジェンスを実施し、企業は、個別支援チームの支援を受けて、再生計画案を作成します*。
再生計画案が作成された後、債権者会議を開催し、対象債権者に対し、再生計画案の説明等が行われ、対象債権者全員の同意が得られた場合には、再生計画が成立します。
再生計画成立後は、協議会のフォローアップを受けながら、再生計画に基づいて、事業を再生していくことになります。
(弁護士 國安耕太)
*
企業が、手続外において、会計士を選任して、自らデューデリジェンスを実施した上で、再生計画案を作成し、それを協議会が検証する方法(検証型)もあります。
企業の倒産処理手続10(私的整理2)
前回は、準則型ではない私的整理の一般的な流れについて解説しましたが、今回は、準則型の私的整理についてです。
準則型の私的整理は、一定のルールに基づく私的整理です。準則型の私的整理は、企業の再建が目的であり、清算を目的としていません。
準則型の私的整理の代表的なものとしては、私的整理に関するガイドライン(以下「ガイドライン」といいます。)によるものや中小企業再生支援協議会による再生支援事業によるものなど*1があります。
まず、ガイドラインによる私的整理についてです。
ガイドラインによる私的整理は、会社更生法や民事再生法などの手続によらずに、債権者と債務者の合意に基づき、債務(主として金融債務)について猶予・減免などをすることにより、経営困難な状況にある企業の再建を図るものです。
ガイドラインでは、おおよそつぎの流れで手続きが進んでいきます。
(1)債務者である企業が、主要債権者(主にメインバンク)に対して、ガイドラインによる私的整理を申し出たうえで、主要債権者が、企業の作成した再建計画案の実行可能性などを検討し、私的整理を進めるのが相当か判断します。
(2)相当と判断したときは、主要債権者と企業が連名で、一時停止通知*2を発し、これにより手続きが開始されます。
(3)手続開始から2週間以内に、同じく企業と主要債権者の連名で、第1回債権者会議に対象債権者を招集し、企業の財務内容や再建計画案の内容等の説明、意見の交換が行われ、再建計画案の実行可能性や企業の財務内容を調査検証する専門家の必要性を検討し、必要な場合には選任が行われます。
(4)第2回債権者会議では、第1回債権者会議後の調査結果の説明、意見交換が行われた上で、再建計画案についての同意期限が定められ、期限までに対象債権者全員の同意が得られれば、再建計画が実行されます*3。
(弁護士 國安耕太)
*1
他には、主に大規模な企業に関し、国から認証を受けた中立的な第三者機関が関与する「事業再生ADR」や、コロナなどの自然災害によって生活や事業が成り立たなくなった個人(個人事業主を含む)に関し、中立的な専門家が関与して私的整理を行う「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」、整理回収機構が関与する「企業再生スキーム」などもあります。
*2
一時停止通知は、再建計画が成立した場合に権利変更されることになる対象債権者(主に銀行と大口の取引先)に対して、個別的な権利行使等を控えるように求める通知のことです。
*3
全員の同意が得られない場合、通常は、法的整理に移行することになります。
企業の倒産処理手続9(私的整理1)
これまでは、「法的整理」について、解説してきましたが、今回からは、「私的整理」について、解説していきます。
私的整理とは、裁判所が関与しない、債務者である企業と債権者などの利害関係人間の私的交渉によって行われる倒産処理手続です。
私的整理ガイドラインや事業再生ADRのように一定のルールに基づく準則型の私的整理もあれば、そのようなルールに基づかない私的整理もあります。
また、企業を解体する清算型の私的整理もあれば、企業を再生させる再建型の私的整理もあります。
さて、準則型でない私的整理については、特別なルールがあるわけではなく、関係者間の私的な交渉・合意によって行われるものであるため、その手続の進行、内容は千差万別です。
債権者が少数であれば、各債権者と個別に交渉して、私的整理が行われることも少なくありません。
他方で、複数のメインバンクや大口の取引先のある比較的規模の大きい中小企業では、つぎのような流れで私的整理が行われることもあるようです。
まず、債権者集会が招集されて、債務者である企業から倒産に至る経緯の報告、財務内容の説明、今後の方針の協議が行われます。
↓
それに応じて、大口債権者を中心に、数名の債権者委員が選任され、債権者委員会が組織されます。
↓
債権者委員会委員長が、管財人同様に企業の財産、帳簿等を占有、管理して財産状況の調査を行います。
↓
その後、清算型の場合、総債権者の同意の下、財産を換価して、配当を実施し、私的整理を終了させます。
これに対し、再建型の場合、再建計画が策定され、債権者集会に討議を付して、大方の債権者の同意を得られたならば、その再建計画に基づいて、企業の再建が行われることになります*。
次回は、準則型の私的整理について解説していきます。
(弁護士 國安耕太)
*
総債権者の同意がある場合は特に問題となりませんが、一部の債権者が不同意の場合、当該債権者から破産申立がなされる可能性があります。
また、後に破産手続きに移行した場合、再建計画に基づいて弁済していたとしても、当該弁済が偏波弁済とされる可能性もあります。
企業の倒産処理手続8(会社更生手続2)
企業の倒産処理手続8(会社更生手続2)
今回も引き続き、会社更生手続について、民事再生手続と比較しながら解説していきます。
民事再生手続と会社更生手続では、手続開始後の企業(債務者)の地位が異なります。
民事再生手続では、原則、企業は、財産の管理処分権および業務遂行権を失いません(民事再生法38条1項)。
これに対し、会社更生手続では、裁判所に選任された選任された管財人に財産の管理処分権が付与され、企業は財産の管理処分権を失います(会社更生法72条1項)。
また、これにあわせて、取締役の地位についても違いがあります。
民事再生手続では、原則としてその地位を失いませんが、会社更生手続では、更生計画認可の決定の時に原則退任することになります(会社更生法211条4項)。
最後に、株主の地位の違いについてです。
再生計画(民事再生手続)と更生計画(会社更生手続)において、株主の地位には大きな違いがあります。
再生計画において、株主の権利の変更は必ず記載しなければならない事項(必要的記載事項)ではなく、株主は議決権者でもないなど、株主は再生計画に取り込まれていません。
他方、更生計画において、株主の権利変更は必要的記載事項であり(会社更生法167条1項1号)、株主も原則として議決権者とされている(会社更生法166条1項)*など、株主は更生計画に取り込まれています。
これは、更生計画において募集株式の発行や組織変更など会社の組織再編に関する行為を行うことが予定されており、更生計画が株主に与える影響が大きいことから、株主に更生計画に関与する機会を与える趣旨とされています。
さて、これまで「法的整理」について解説してきましたが、次回からは、「私的整理」について解説していきます。
民事再生手続 | 会社更生手続 | |
根拠法令 | 民事再生法 | 会社更生法 |
手続の対象 | 原則限定なし | 株式会社 |
手続開始の原因 | 破産手続の原因となる事実の生ずるおそれなど | |
手続開始の申立人 | 企業(債務者) | 企業(債務者) |
債権者 | 一定の金額の債権者 | |
株主は不可 | 一定の議決権を持つ株主 | |
手続開始後の企業
(債務者)の地位 |
原則財産の管理処分権及び
業務遂行権を有する |
財産の管理処分権を失う |
取締役の地位 | 原則留任 | 原則退任 |
計画の名称 | 再生計画 | 更生計画 |
計画と株主 | 再生計画に取り込まれない | 更生計画に取り込まれる |
*
このように法律上は、原則、株主は議決権者であり、例外的に、債務超過の場合には、議決権を有しないとされています(会社更生法166条2項)。
ただし、会社更生手続の対象となる株式会社は、債務超過に陥っているケースが多く、株主が議決権を有しないケースも少なくないところです。
企業の倒産処理手続7(会社更生手続1)
前回まで、「法的整理かつ再建型」の代表的な手続である民事再生手続について解説してきました。
今回は、民事再生手続と同じ「法的整理かつ再建型」の手続である会社更生手続について、民事再生手続と比較しつつ、解説します。
会社更生手続とは、倒産またはそれに近い状態にある株式会社について、裁判所に選任された管財人に財産の管理処分権を付与し、更生債権者や更生担保権者等の多数の同意により可決された更生計画に基づいて、事業の再生を図る手続です。
本年(令和3年)3月24日、電力の小売り事業を行ういわゆる「新電力」の株式会社F-Powerが、この会社更生法の適用を東京地方裁判所に申請し受理されたと話題になったことをご存知の方もいらっしゃると思います*。
さて、民事再生手続と会社更生手続は、立案された計画に従って、債権者に弁済を行い、企業を再生させる手続である点では共通しており、同じ「法的整理かつ再建型」に分類されます。
他方で、根拠法令、手続の対象等において、違いがあります。
まず、民事再生手続の根拠が、民事再生法であるのに対し、会社更生手続の根拠は、会社更生法にあり、また、民事再生手続では、個人のほか、どのような法人でも対象となるのに対し、会社更生手続では、株式会社のみが対象となるという相違点があります。
つぎに、手続の開始原因については、両手続の開始原因が、(1)破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれがあるときおよび(2)事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することができないときであり、共通しています(民事再生法21条1項、会社更生法17条1項)。
これに対し、手続開始を申立てることができる者(申立人)の範囲は、異なっています。
民事再生手続では、債権者は、その債権額に関わりなく、手続開始を申立てることができます(民事再生法21条2項)。
一方、会社更生手続では、債権者のうち、当該株式会社の資本金の額の10分の1以上の金額の債権を有する者のみ、手続開始を申立てることができます。(会社更生法17条2項1号)。
また、民事再生手続では、株主が手続開始を申立てることはできませんが、会社更生手続では、総株主の議決権の10分の1以上を有する株主であれば、手続開始を申立てることができます(会社更生法17条2項2号)。
なお、企業(債務者)が、申立てることができることは共通しています。
次回も、引き続き、民事再生手続と会社更生手続の違いについて解説していきます。
(弁護士 國安耕太)
*
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210325/k10012935141000.html
企業の倒産処理手続6(民事再生手続2)
破産手続と民事再生手続では、手続開始後の企業(債務者)の地位も異なります。
破産手続では、裁判所によって必ず破産管財人が選任され、財産の管理処分権は破産管財人に委ねられ、企業は財産の管理処分権を失います。
他方、民事再生手続では、原則、企業は、財産の管理処分権および業務遂行権を失いません(民事再生法38条1項)。
これは、企業(実質的には企業の代表者等)の人脈や経験等を企業の再生に生かすためです。
ただし、企業には公平かつ誠実に再生手続を追行する義務が課されており(民事再生法38条2項)、また、裁判所の選任する監督委員によって監督されるため*1、必ずしも自由に財産を管理・処分できるというわけではありません。
また、企業の財産管理・処分が失当であるとき、その他再生債務者の事業の再生のために特に必要があると認められるときには、管財人が選任され(民事再生法64条1項)、財産の管理処分権等は管財人に委ねられることもあります(民事再生法66条)。
つぎに、債権者に対する弁済方法についても異なります。
破産手続では、破産企業の全ての財産を金銭に換えた上で、債権者に弁済または配当することになります。
これに対し、民事再生手続では、再生計画に基づいて、将来の収益から、債権者に弁済または配当が行われます。
さらに、破産手続では、破産手続が終了した場合、企業は消滅することになります。
他方、民事再生手続では、企業の再生を目的とした手続であることから、当然のことながら、通常は、手続が終了したとしても企業が消滅することはありません*2。
次回は、民事再生手続と同じ「法的整理かつ再建型」の手続である会社更生手続について、民事再生手続と比較しつつ、解説します。
(弁護士 國安耕太)
破産手続 | 民事再生手続 | |
根拠法 | 破産法 | 民事再生法 |
手続開始の原因 | 債務超過・支払不能 | 破産手続の原因となる事実の生ずるおそれなど |
手続開始の申立人 | 債権者・債務者 | |
取締役個人も可 | 取締役個人は不可 | |
手続開始後の企業(債務者)の地位 | 財産の管理処分権を失う | 原則:財産の管理処分権及び業務遂行権を有する |
弁済方法 | 全財産を金銭化して配当 | 再生計画に従い将来の収益から弁済 |
手続終了後 | 企業は消滅 | 企業は存続 |
*1
法律上、監督委員は必ず選任されるものではなく「必要があると認められるとき」に選任されることになっているが(民事再生法54条1項)、実務上、管財人が選任されない場合、監督委員が選任されることが多いです。
*2
ただし、再生計画が遂行される見込みがないことが明らかになったときは、手続の廃止決定がなされ、民事再生手続は終了します(民事再生法194条)。この場合、裁判所は、職権で破産手続開始決定をするのが通常です。
企業の倒産処理手続5(民事再生手続1)
これまで「法的整理かつ清算型」の手続について解説してきました。
今回は「法的整理かつ再建型」の代表的な手続である民事再生手続について、破産手続と比較しつつ解説していきます。
民事再生手続とは、倒産またはそれに近い状態にある企業(債務者)が、原則、業務の遂行および財産の管理処分を継続しながら、再生計画を立案し、債権者の多数の同意により可決された再生計画に基づいて、事業や経済生活の再生を図る手続です。
民事再生手続と破産手続は、裁判所が継続的に関与する手続である点は共通しており、その点で、両手続は同じ「法的整理」に分類されます。
他方、破産手続では、企業の解体を目的としている「清算型」の手続であったのに対し、民事再生手続では、企業の再生を目的としている「再建型」の手続であることから、様々な違いがあります。
まず、当然のことですが、根拠法令が異なります。
破産手続の根拠が、破産法にあるのに対し、民事再生手続の根拠は、民事再生法にあります。
つぎに、手続きの開始原因にも違いがあります。
破産手続では、支払不能*1である場合か債務超過*2である場合に手続が開始されましたが、民事再生手続では、破産手続の開始原因となる支払不能または債務超過を生じる「おそれ」がある段階で、手続が開始されます(民事再生法21条1項前段)。
これは、企業の再生を図るには、支払不能や債務超過に至る前に、手続を開始し、手を打つ必要があるためです。
また、この企業の再生を図るという目的から、支払不能または債務超過のおそれがなくても、「債務者が事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することができないとき」にも手続きを開始することができます(民事再生法21条1項後段)。
なお、両手続ともに、債権者および債務者(企業自身)が手続開始を申立てることができます。
他方で、破産手続では、取締役個人が申立てをすることができるのに対し、民事再生手続では、できません。
次回も、引き続き、破産手続と民事再生手続の違いについて解説していきます。
(弁護士 國安耕太)
*1
支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態(破産法2条11項)
*2
その債務につき、その財産をもって完済することができない状態(破産法16条)
企業の倒産処理手続4(特別清算手続2)
前回お伝えしたとおり、破産手続と特別清算手続は、同じ「法的整理かつ清算型」に分類されますが、根拠法令、手続の対象、手続開始の原因等において違いがあります。
まず、破産手続の根拠が、破産法にあるのに対し、特別清算手続の根拠は、会社法です。
つぎに、破産手続が、個人・法人問わず、どのような法人でも対象となるのに対し、特別清算手続は、原則として解散後清算中の株式会社のみが対象となります。
また、破産手続では、債務超過が手続の開始原因とされていますが、特別清算手続では債務超過の疑いがあれば、手続の開始原因と認められます(会社法510条)*1。
特別清算手続において、破産手続よりも緩やかに、手続開始の原因が認められているのは、既に解散し、清算手続に入っている株式会社を対象としていることに基づきます。
なお、両手続ともに、債権者は、手続開始を申立てることができます。
他方で、破産手続では、債務者(会社)自身*2や取締役個人が申立てをすることができるのに対し、特別清算手続では、できません(ただし、清算人や監査役、株主が申立てできます。会社法511条1項)。
さらに、手続開始後、破産手続では、裁判所によって必ず破産管財人が選任され、財産の管理処分権を委ねられた破産管財人が清算事務を行うことになります。
他方で、特別清算手続では、原則として従来からの清算人が清算事務を行うことになります(会社法523条)。
もちろん、清算人は、自由に清算事務を行えるものではなく、債権者及び清算株式会社、株主に対する公平かつ誠実に清算事務を行う義務が課されています。
最後に、弁済についてです。
破産手続は、破産企業の財産が金銭化され、法律の定めに従って、債権者に配当されるという厳格な手続です。
これに対して、特別清算手続では、債権者の多数決によって定められる協定(会社法563条以下)に基づいて弁済します。
原則として債権者を平等に取り扱う必要がありますが、不利益を受ける債権者の同意がある場合や債権者間の衡平を害さない内容であれば、ある程度自由に協定の内容を定めることもできるなど(会社法565条)、破産手続に比べると、柔軟な対応が可能です。
破産手続 | 特別清算手続 | |
根拠法 | 破産法 | 会社法 |
手続の対象 | 原則限定なし | 解散後清算中の株式会社等 |
手続開始の原因 | 債務超過・支払不能 | 債務超過の疑いなど |
手続開始の申立人 | 債権者・債務者・取締役 | 債権者・清算人・監査役・株主 |
清算事務を行う者 | 破産管財人 | 清算人 |
弁済の手続 | 法律の定めに基づく配当 | 債権者の多数決による協定 |
さて、これまで「法的整理かつ清算型」の手続を解説してきましたが、次回は、「法的整理かつ再建型」の代表的な手続である民事再生手続について解説したいと思います。
(弁護士 國安耕太)
*1
清算の遂行に著しい支障を来すべき事情がある場合にも手続開始の原因が認められるが、他方、支払不能は、手続開始の原因とされていない(会社法510条1号)。
*2
代表取締役が、取締役会の決議を得て、株式会社の名前で申立てることになる。
企業の倒産処理手続3(特別清算手続1)
前回は最も代表的な倒産処理手続である破産手続について、解説しました。
今回は破産手続と同じく「法的整理かつ清算型」の手続である特別清算手続について、破産手続と比較しつつ解説していきます。
特別清算手続とは、裁判所の後見的な監督の下、清算人が解散後清算中の株式会社等*を消滅させるための手続です。
会社を閉鎖しようと思った場合、会社を解散することになりますが、実は、これだけでは会社は消滅しません。
会社を消滅させるためには、清算(現務の結了、債権の取立ておよび債務の弁済、残余財産の分配。会社法481条)を完了しなければなりません。
このとき、会社の財産で、すべての債務の弁済ができる場合は、債務の弁済をし、残余財産を株主に分配して、清算手続は完了します(通常清算)。
これに対し、会社の財産で、すべての債務の弁済ができない場合であっても、裁判所の監督の下、債務の処理方法について債権者と集団的に和解するために作成された協定を、債権者が多数決で可決し、清算中の会社がこの協定を実行したときは、清算手続は完了します。
これが特別清算手続です。
あくまでも、協定が債権者の多数決で可決され、協定が実行される必要があるので、多数決で可決される見込みのない場合や協定が実行される見込みのない場合は、破産手続に移行することになります(会社法574条)。
破産手続と特別清算手続は、破産管財人または特別清算人が、裁判所の関与の下、会社の財産を処分して、これによって得た金銭を債権者に弁済する手続である点は共通しており、同じ「法的整理かつ清算型」に分類されます。
他方で、根拠法令、手続の対象、手続開始の原因等において違いがあります。
次回は、この違いについて、解説していきます。
(弁護士 國安耕太)
*
例えば、保険業法によって、相互会社にも特別清算手続の規定が準用され、相互会社も特別清算手続の対象となる(保険業法184条)。
企業の倒産処理手続2
さて、前回、倒産処理手続きには、(1)裁判所が継続的に関与する倒産処理手続である法的整理と、(2)裁判所が関与しない倒産処理手続である私的整理があり、この法的整理および私的整理は、それぞれ(ア)企業を解体する清算型と、(イ)企業を再生させる再建型(再生型)に分かれる、ということをお伝えしました。
今回は、その中でも最も代表的な手続きである、破産手続(法的整理かつ清算型)について、解説していきます。
破産手続は、裁判所が破産手続の開始を決定し、破産管財人を選任し、その破産管財人が破産する企業(債務者)の財産を調査・管理・換価処分して、債権者に弁済または配当する手続です。
破産の申立て(裁判所に対し、破産手続の開始決定を出すよう申し立てること)は、破産しようとする企業のみならず、その債権者も行うことができます。
もちろん、申立てがされれば無条件に、手続が開始されるというものではなく、手続開始の実態的要件として、破産手続開始の原因(破産原因)が必要です。
個人の場合は、支払能力を欠く*ために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態(支払不能。破産法2条11項)のみが破産原因となります(破産法15条)。
これに対し、企業等の法人(合名会社および合資会社を除く)においては、支払不能である場合のみならず、その債務につき、その財産をもって完済することができない状態(債務超過)である場合も、破産原因となります(破産法16条)。
そして、裁判所が破産手続の開始を決定すると、財産の管理処分権は、破産管財人に移行し、破産する企業は、財産の管理処分権を失うことになり、破産管財人が、破産手続開始の決定時点の破産企業の全ての財産を金銭に換えた上で、法律の定めに従って、弁済または配当することになります。
配当が完了した場合、破産手続は終了し、企業も消滅することになります(破産手続の終結。破産法202条)。
配当する財産がないことが判明した場合は、その時点で破産手続は終了し、企業は消滅します(異時廃止。破産法217条)。
なお、一定金額以下の資産しか保有していない個人が破産する場合、この破産管財人が選任されないで、手続が終了することもあります(同時廃止。破産法216条)。
以上のように、破産手続は、裁判所の関与の下、財産も債務もすべて清算され、当該企業は消滅することになるので、「法的整理かつ清算型」の手続となります。
次回は、同じ「法的整理かつ清算型」の手続である特別清算手続を、破産手続と比較しつつ、解説します。
(弁護士 國安耕太)
*
弁済能力の欠乏は、財産、信用あるいは労務による収入のいずれをとっても、債務を支払う能力がないことを意味し、たとえ、財産があっても、その換価が困難であれば、支払不能とされる。他方で、財産がなくとも、信用や収入にもとづく弁済能力があれば、支払不能とはされない。
企業の倒産処理手続1
現在、新型コロナウイルス(以下「コロナ」といいます。)の影響で、全世界的に経済活動が低下しています。
各種補助金・助成金の給付や、借入の支払猶予等で、この危機を一時的に乗り越えることができた企業も、今後は事業の統廃合を進めていかなければならなくなっていく可能性が高いのではないかと思います。
ところで、「企業の倒産処理手続」と聞くと、事業継続が困難になったため、裁判所の関与の下、企業が取り潰される、そんなイメージを持たれるかもしれません。
たしかに、そのイメージ通りの手続(いわゆる破産手続)もあります。
しかし、倒産処理手続には、裁判所の関与の下、事業継続が困難になった企業を再生させる手続や、裁判所が関与しないで弁護士や大口債権者などの主導の下で行うタイプの手続など、さまざまな手続があります。
具体的に見ていきましょう。
まず、大きく分けると、
(1)裁判所が継続的に関与する倒産処理手続である法的整理
(2)裁判所が関与しない倒産処理手続である私的整理
の2つに分けることができます。
また、この私的整理および法的整理は、それぞれ
(ア)企業を解体する清算型
(イ)企業を再生させる再建型(再生型)
に分かれます。
さらに、(1)(ア)法的整理の清算型手続は、破産手続、特別清算手続の2種類に、(1)(イ)再建型手続も、民事再生手続、会社更生手続の2種類に分かれます。
(2)(イ)私的整理の再建型手続も、一定のルールに基づく準則型私的整理(事業再生ADRや私的整理ガイドラインなど)と準則型でない私的整理(以下「純粋な私的整理」といいます。)などに分けることができます。
(ア)清算型 (イ)再建型(再生型)
(1)法的整理 破産 民事再生
特別清算 会社更生
(2)私的整理 清算型私的整理 準則型私的整理
純粋な私的整理
以上の通り、倒産処理手続と一口に言っても、さまざまなタイプの手続があります。
そこで、次回以降、各手続の概要について、解説していきたいと思います。
(弁護士 國安耕太)