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昨年(平成27年)3月26日、札幌地裁で、観客が、打者の打ったファウルボールで失明した事故に関し、球団や球場等に損害賠償責任を認める判決が出され、本ブログでも、紹介しました*1。
この判決については、球団および球場が札幌高裁に控訴していましたが、先日(平成28年5月20日)、控訴審の判決が出されました*2。
控訴審判決は、一審判決と異なり、工作物責任ないし営造物責任上の瑕疵を否定しました。
すなわち、一審判決は、「座席付近の観客席の前のフェンスの高さが、ファウルボールの飛来を遮断できるものではなかったこと」を主たる理由として、安全設備等の内容が通常有すべき安全性を欠いていており、工作物責任ないし営造物責任上の瑕疵があったと判断しました。
他方、控訴審判決は、本件ドームにおける内野フェンスの高さは、公益財団法人日本体育施設協会が作成した「屋外体育施設の建設指針」(平成24年改訂版)および他のプロ野球の球場におけるフェンス等と比較しても特に低かったわけではないことや他の安全対策を考慮すれば、「通常の観客を前提とした場合に、観客の安全性を確保するための相応の合理性を有しており、社会通念上プロ野球の球場が通常有すべき安全性を欠いていたとはいえない。」と判断しています。
控訴審判決も指摘していますが*3、過度な安全設備を要求することは、プロ野球観戦の娯楽としての価値を著しく損なうものとなりかねませんから、妥当な判断ではないかと思います。
なお、上記のとおり、控訴審判決は工作物責任ないし営造物責任上の瑕疵を否定しましたが、野球観戦契約に信義則上付随する安全配慮義務違反を根拠に、球団に被害者に対する損害賠償金の支払を命じており、被害者の一定の救済を図っています。
野球観戦をする際には、打球の行方に十分注意してください。
(弁護士 國安耕太)
*1
*2
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/916/085916_hanrei.pdf
*3
「危険がほとんどないような徹底した安全設備を設けることを法律上要求することは、プロ野球観戦の娯楽としての本質的な要請に反する面があり、相当とはいえない」