最新の記事
アーカイブ
カテゴリー
先日(平成28年3月4日)、デイサービスの利用者(以下「A」)が送迎車から降車し着地する際に負傷したという事故(以下「本件事故」)が、自動車保険契約の搭乗者傷害特約(以下「本件特約」)における車両の運行に起因するものとはいえないとして、保険会社の、入通院保険金受領者(その後、Aが死亡したため、Aの遺族)に対する不当利得返還請求を認める判決が出されました*。
本件の事案はつぎのとおりです。
・本件特約は、車両の運行に起因する事故により、その搭乗者が身体に傷害を被り、入通院した場合に入通院保険金等を支払う旨が定められている。
・Aの年齢および身体の状況に鑑み、通常、Aが降車する際には、職員がAを介助のうえ、車両の床ステップと地面との間に高さ約17㎝の踏み台を置いてこれを使用させていた。
・本件事故の際、踏み台を使用しなかったところ、Aが降車する際に右大腿骨頚部骨折の傷害を負った。
・Aは、本件特約に基づき、保険金50万円を受領した。
・Aの遺族が、保険会社に対し、後遺障害保険金の支払を求めたところ、保険会社が、Aの遺族に対し、入通院保険金の返還(不当利得返還請求)を求め反訴した。
これに対し、最高裁は、「本件事故は、本件車両の運行が本来的に有する危険が顕在化したものであるということはできないので、本件事故が本件車両の運行に起因するものとはいえない」として、保険会社の、Aの遺族に対する不当利得返還請求を認めました。
被害者救済という観点からは、保険会社の請求を認めるべきではないとの判断もあり得ます。
しかし、上記のとおり、あくまでも本件特約は「車両の運行に起因する事故」とされており、最高裁としては、やはり車両の運行とは無関係なところで保険金支払義務を負わせるのは、無理があると判断したものと思われます。
なお、最高裁も被害者救済に関し、「Aの降車の際には本件センターの職員の介助のみでなく、踏み台を使用することが安全な着地のために必要であり、上記職員がその点を予見すべき状況にあったといえる場合には、本件センターに対する安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求等の可否が問題となる余地が生ずるが、このことは、本件における運行起因性の有無とは別途検討されるべき事柄である。」としています。
(弁護士 國安耕太)
*http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/726/085726_hanrei.pdf