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6月1日、長い間確立した判例がなかった「異議を留めない承諾」(民法468条1項)について最高裁の判断が示されましたので、ご紹介します。
民法467条1項は、「指名債権の譲渡は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。」と定めています。
そして民法468条1項は、「債務者が異議をとどめないで前条の承諾をしたときは、譲渡人に対抗することができた事由があっても、これをもって譲受人に対抗することができない。 」と定めています。
平たく言いますと
「AさんがB社から300万円を借りた。その後、AさんはB社に200万円を返済した。ところがその後B社からAさんに対し、「あなたに対する債権をC社に譲渡した。承諾書を同封したからからサインし、印鑑を押して返送してくれ。」との連絡があった。承諾書には簡単に「私はB社の私に対する下記債権を、B社がC社に譲渡することについて、承諾します。」などと書かれていただけだった。Aさんは深く考えずに言われるままに承諾書にサインし、印鑑を押して返送してしまった。」
という場合、C社はAさんに対して残りの100万円ではなく300万円全部を請求でき、AさんはC社に対し300万円を払わなければいけない、ということなのです。
つまり、AさんはB社にすでに払っていた200万円分はなかったものとしてC社に300万円を払わなければいけません。Aさんにとっては大事ですね。
もしAさんが200万円をすでに払っているということを主張したかったら、Aさんは「200万円をすでに払っています。」と主張すべきでした(これを「異議」といいます。)。
もちろん、AさんはB社に対しすでに払った200万円を返すよう請求できます。しかし、B社が素直に返すとは限りませんし、連絡が取れなくなったり倒産している可能性もあるでしょう。
また、C社が200万円はすでに返済されているという事情を知っていた場合には、Aさんは法律上C社に対して残りの100万円しか返済する義務はありません。しかし、これを立証するのは簡単とは限りません。
このような場合に、C社が事情を知らなくとも知らなかったことに過失があったとき、Aさんは300万円全額を払わなければいけないのか、残りの100万円で済むのか、長いこと見解が分かれていました。
この点について最高裁は、残りの100万円でよいとの判断を示しました。
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/133/085133_hanrei.pdf
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/134/085134_hanrei.pdf
ただ、この過失があったことをどうやって立証するかということについてはまだ問題が残されています。
内容がよく分からない書面には、安易にサインをしたり、印鑑を押さないということがまずは大切でしょう。
なお、民法468条1項は改正が議論されています。こちらの行方も注目されるところです。