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スーパーの冷凍庫に入る行為と刑事罰

1 先日、つぎのニュースが、話題となりました。

「スーパーの冷凍庫に客入り撮影 ツイッターに投稿」

http://www.47news.jp/CN/201308/CN2013082101001073.html

軽い気持ちでこのような行動に出たのでしょうが、場合によっては刑事罰を科せられる可能性があります。

 

2 まず、当初から、アイスケースに入る目的でスーパーに立ち入ったような場合は、住居侵入罪(刑法130条前段)が成立します。

(参考判例:最判昭和58年4月8日、刑集 37巻3号215頁)

「刑法一三〇条前段にいう「侵入シ」とは、他人の看守する建造物等に管理権者の意思に反して立ち入ることをいうと解すべきであるから、管理権者が予め立入り拒否の意思を積極的に明示していない場合であっても、該建造物の性質、使用目的、管理状況、管理権者の態度、立入りの目的などからみて、現に行われた立入り行為を管理権者が容認していないと合理的に判断されるときは、他に犯罪の成立を阻却すべき事情が認められない以上、同条の罪の成立を免れないというべきである。」

このような目的での立ち入りは、スーパーの管理権者が容認していないといえるからです。

住居侵入罪の罪責は、「3年以下の懲役又は10万円以下の罰金」です。

なお、買物目的でスーパーに来店し、アイスケースを見て犯行を思い立ったような場合には、住居侵入罪は成立しません。

 

3 つぎに、アイスケースに入っていたアイスについて、器物損壊罪が成立しえます。

器物損壊罪(刑法261条)における「損壊」とは、物の効用を害する一切の行為を指します。

(参考判例:最決昭和35年12月27日、刑集14巻14号2229頁)

「校庭に「アパート建築現場」と墨書した立札を掲げ巾六間長さ二〇間の範囲で二箇所にわたり地中に杭を打込み板付けをして、もって保健体育の授業その他生徒の課外活動に支障を生ぜしめたときは、該物件の効用を害するから器物損壊罪を構成するものと解するを相当とする。」

他人が寝転んだアイスを購入したいと考える人は通常いないので、当該アイスをアイスとして売却することは、事実上不可能であり、物の効用を害する行為といえます。

過去の判例では、食器に放尿する行為が「損壊」にあたるとされています(大判明治42年4月16日、刑録 15輯452頁)。

器物損壊罪の罪責は、「3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料」です。

 

4 最後に、アイスケースに入る行為につき、スーパーに対する威力業務妨害罪が成立する可能性があります。

威力業務妨害罪(刑法234条)における「威力」とは、人の自由意思を制圧するに足る勢力の使用をいいます。

(参考判例:最判昭和28年1月30日、刑集 7巻1号128頁)

「「威力」とは犯人の威勢、人数及び四囲の状勢よりみて、被害者の自由意思を制圧するに足る犯人側の勢力と解するを相当とするものであり、且つ右勢力は客観的にみて被害者の自由意思を制圧するに足るものであればよいのであって、現実に被害者が自由意思を制圧されたことを要するものではないと解すべきものである。」

本件では、客がスーパーの売り場にあるアイスケースに入ることによって、必然的にアイスを販売するという業務の執行を中止または制限せざるを得ない状況になります。

そのため、当該行為自体が、業務主催者に心理的威圧を加えるものとして、「威力」に該当すると考えることができます。

過去の裁判例では、大阪万博の展示館「太陽の塔」の地上60メートルの右眼孔部に入り込む行為が「威力」にあたるとされています(大阪地判昭和47年2月17日、刑事裁判月報4巻2号394頁)。

威力業務妨害罪の罪責は、「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」です。

 

5 以上のとおり、スーパーの冷凍庫に入る行為は、住居侵入罪、器物損壊罪および威力業務妨害罪の罪責を負う可能性があります。

また、民事上多額の損害賠償を負担しなければならない可能性もあります。

このように軽い気持ちで行った行為によって、思わぬ刑罰・損害賠償責任を負担することがありますので、十分注意してください。

(弁護士 國安耕太)

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