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最近、従業員の金銭的不正行為(窃盗、横領、詐欺等)への対応についてアドバイスを求められることが多くなっています。
従業員の金銭的不正行為が発覚した場合、会社は、事実確認を入念に行ったうえで、
①懲戒処分(懲戒解雇)をするか否か
②損害の賠償を請求するか否か
③刑事告訴をするか否か
を検討することになります。
以下、個別にみていきましょう。
①懲戒処分(懲戒解雇)をするか否かについて
まず、現在の我が国の法制度は、解雇権濫用の法理*1*2を採用しており、労働者を手厚く保護しています。
そのため、懲戒処分の中でも懲戒解雇については、慎重な判断が求められることが多いです(すなわち、懲戒解雇が無効となることが多々あります。)。
しかし、従業員の金銭的不正行為に関しては、過去の裁判例では、その額や回数を問わず、有効とされる傾向にあります。
そのため、従業員の金銭的不正行為に関し、懲戒解雇を行っても、後に無効とされる可能性は低いといえます。
ただし、あくまでも懲戒事由に該当する事実を証明できる場合であることが必要です。
過去の裁判例では、従業員が、使途不明金の一部を着服した旨の自認書および念書を書いていた事案において、事実に即して書かれたとはいい難く、これによって着服の事実を基礎づけることはできないとされたものがあります*3。
それゆえ、本人が認めているだけでなく、客観的な資料に基づいて事実を証明できるようにしておかなければなりません。
また、実務上は、懲戒解雇事由に該当する事実を証明できる場合であっても、懲戒解雇とせずに諭旨解雇や普通解雇、自主退職にとどめるということもありえます。
このあたりは、金銭的不正行為の額、被害弁償の有無、これまでの処分事例との均衡等を考慮して、判断していくことになります。
なお、②損害の賠償を請求するか否か、③刑事告訴をするか否かについては、次回解説します。
(弁護士 國安耕太)
*1
労働契約法16条
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」
*2
最判昭和50年4月25日(労判227-32、日本食塩製造事件)
「使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になると解するのが相当である。」
*3
東京地八王子支判平成15年6月9日(労判861号56頁、京王電鉄府中営業所事件)