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インターネット上の名誉棄損7
さて、前回は(1)加害者に対して(ア)損害賠償をすることについて、解説しました。
今回は、(1)加害者に対し(イ)謝罪広告を求めることおよび(2)サイト管理者等に対し、削除請求を行うことについて、その概略をご紹介します。
(1)(ア)謝罪広告が認められるには
(a)故意または過失があること
(b)違法性が特に強い悪質な行為であること
(c)特定個人の名誉権を侵害したこと
(d)謝罪広告等が名誉回復のために、相当であること
という要件を満たす必要があります。
裁判では、(b)と(d)はまとめて検討されることが多く、(b)と(d)が認められるかは、名誉侵害の内容・程度、指摘された事実の公共性の程度、金銭賠償・書き込み削除の有無などを総合的にみて判断されます。
次に、(2)サイト管理者等に対する削除請求についてです。
管理者等に対する削除請求が認められるには、
(a)名誉権が現在も侵害されていること
(b)内容が事実でないか、公益目的でないことが明らかであること
(c)金銭による損害賠償では、損害の補填が不十分であること
という要件を満たす必要があります。
なお、削除請求をする場合、通常の訴訟だけでなく、より迅速な判断を得られる仮処分という方法が用いられることも多いです。
この場合は、(a)(b)(c)に加えて、さらに
(d)保全の必要性(名誉侵害の程度が大きいことや、書き込みを放置しておくと、さらに多くの人がアクセスして、名誉侵害の被害が拡大することなど)。
を裁判官に説明(疎明)する必要があります。
インターネット上の名誉棄損6
さて、前回までご紹介した手続を経て、ようやく加害者を特定することができるわけですが、そこで終わりではありません。
むしろ、これまでの手続はあくまでも前哨戦で、ここからが本戦といってもいいくらいです。
加害者を特定できたとしても、被害回復がなされるわけではありませんから、被害回復の手続を別途取らなければならないからです。
被害回復の手段としては、(1)加害者に対し、(ア)損害賠償や(イ)謝罪広告を求めること、また、(2)サイト管理者等に対し、書き込みの削除請求を行うことが考えられます。
任意の交渉で応じてもらえればよいですが、応じてもらえなかった場合、訴訟を提起して解決することを検討することになります。
まず、(1)加害者に対し、(ア)損害賠償請求をする場合を検討してみましょう。
損害賠償請求が認められるためには、(ア)故意または過失があること(イ)違法な行為であること(ウ)特定個人の名誉権を侵害したこと(エ)損害が発生したことという要件を満たす必要があります。
このうち、特に問題となるのが(イ)です。
実は、大前提として、指摘した事実が真実であったとしても、原則として、名誉権の侵害となり、損害賠償義務を負うことになります。
ただ、真実を指摘した場合に、常に損害賠償義務を負わなければならないとすると、憲法上の権利である表現の自由(21条)が著しく損なわれることになります。
そこで、
(a)名誉棄損の対象が公共の利害に関することであること
(b)公益を図る目的があること
(c)指摘された事実が真実であることまたは(d)加害者が書き込みをするにあたり、相当な調査をし、指摘した事実が真実だと信じたこと
という要件を満たしている場合には、(イ)違法な行為とはいえない、として損害賠償義務を免れることできるとされています。
そのため、実際の訴訟では、加害者の行為が(イ)違法な行為といえるか、について熾烈な争いとなることが多いです。
なお、名誉権とは、人の品性、名誉、信用といった客観的な社会的評価のことをいい、「バカ」や「アホ」といった具体的な事実を伴わない侮辱的な書き込みでは、名誉権侵害は認められません。
また、「特定個人」の名誉を侵害するものでなければなりませんから、たとえば、「日本の飲食店では、諸外国に比べて、コロナ対策が不十分である」といった抽象的な書き込みは、名誉権侵害として認められないということになります。
インターネット上の名誉棄損5
さて、前回は(β)IPアドレス等のISPを特定するための情報を得る手段である1段階目の手続について説明しました。
今回は、(β)の手続きにより得たIPアドレス等を利用し、(γ)ISPを特定したうえで、ISPから加害者情報を得る2段階目の手続について解説していきます。
手続としては、(1)加害者の利用したISPの特定+ログの保存、(2)ISPに対し、加害者の契約者情報の開示を行います。
まず、(1)加害者の利用したISPの特定についてですが、これはインターネットで「IPアドレス ISP 特定」などと検索すれば、IPアドレスを入力しただけでISPを特定してくれるサイトが見つかりますので、それを利用します。
なお、ISPを特定した段階で行っておくべきことがあります。
それは、ログの保存です。
ログの保存方法としては、裁判外でISPにログ保存の要求をする方法と裁判上の手続による方法がありますが、要求をすればログを保存してくれるISPが多いので、裁判上の手続までは必要ないことが多いです。
ログの保存後、(2)ISPに対し、加害者の契約者情報の開示を求めていくことになります。
こちらも、裁判外による方法と裁判上の手続による方法があります。
裁判外による方法として、テレコムサービス協会の書式を利用する手段があります。
ただ、契約者情報は、顧客の個人情報であるため、裁判外で開示される可能性は低く、あまり効果的な方法ではありません。
そこで、主たる手段は、裁判上の手続による方法になります。
この場合、第1段階の場合と違い、アクセスログが短期で抹消されるといった緊急性を基礎づける事情がないため、仮処分ではなく、通常の訴訟になります。
この訴訟では、発信者情報開示請求権があることを証明する必要があります。
発信者情報開示請求権が認められるためには、前回も説明しましたが、(ア)特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたこと、(イ)特定電気通信役務提供者に対する請求であること、(ウ)権利侵害の明白性、(エ)開示を受けるべき正当な理由が必要です。
以上の2段階の手続によって、インターネットに書き込みをした加害者を特定することができます。
加害者を特定できれば、損害賠償や謝罪広告等の命令に関する訴訟を提起することができるようになります。
インターネット上の名誉棄損4
さて、前回、書き込みをした加害者を特定するには、2つの段階を踏む必要がある、という話をしました。
今回は、(β)コンテンツプロバイダに対し、加害者の利用していたIPアドレス等の開示を求め、その情報を得るという1段階目の手続について、解説していきたいと思います*1。
コンテンツプロバイダからISPを特定するための情報であるIPアドレス等を入手する方法としては、裁判外による方法と裁判上の手続による方法という2つの手段があります。
まず、裁判外による方法については、テレコムサービス協会の「発信者情報開示請求書」という書式にしたがって、印鑑証明書や身分証の写しと共に、コンテンツプロバイダに対し郵送するのが一般的です。
つぎに、裁判上の手続としては、仮処分の申立てを用いるのが一般的です。
この手続では、(1)発信者情報開示請求権があること、および(2)IPアドレス等を早急に開示してもらう必要性を裁判官に説明(疎明)する必要があります。
(1)発信者情報開示請求権があることという要件が認められるには、
・特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたこと
・特定電気通信役務提供者に対する請求であること
・権利侵害の明白性
・開示を受けるべき正当な理由
が必要です(プロバイダ責任制限法4条1項*2)。
(2)IPアドレス等を早急に開示してもらう必要性については、加害者を特定するには、アクセスログという通信履歴が必要ですが、一般に3か月ほどで削除されてしまうので、削除までの期間が経過していなければ、緊急性があるとされることがほとんどです。
以上を経て、(β)コンテンツプロバイダに対し、加害者の利用していたIPアドレス等の開示を求め、その情報を得ます。
そして、ここで得たIPアドレス等を利用し、(γ)ISPを特定したうえで、ISPから加害者情報を得るという2段階目の手続を行っていくことになります。
次回は、この2段階目の手続について解説していきます。
*1 現在、発信者情報開示請求について、手続きの迅速化に向けて改正案が作成されていると報道されています(産経新聞2021年1月9日「【SNSの罠】ネット被害、裁判迅速化へ 地方の負担軽減は不透明」等)。
そのため、手続が大幅に変更となる可能性があります。
*3 プロバイダ責任制限法第4条第1項
「特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときに限り、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し、当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の開示を請求することができる。
一 侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
二 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損 害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。」
インターネット上の名誉棄損3
さて、今回は、インターネット上の名誉棄損の加害者に対し、各種請求等を行いたいにもかかわらず、加害者が誰かわからない、という場合に、どのような手続きを取れば、加害者を特定できるのでしょうか。
まず、最初に、インターネットを利用する一般的な仕組みを簡単に説明します。
(a)加害者の利用したパソコン・スマホ
↓
(b)インターネットの接続窓口であるISP*1(NTTドコモなど)のサーバーに接続
↓
(c)SNSや動画サイトを提供するコンテンツプロバイダ*2のサーバーに接続、という流れになります。
そこで、加害者を特定するためには、この流れをさかのぼっていく必要がある、ということになります。
まず、(α)書き込みを見て、書き込みがされたSNSや動画サイトのコンテンツプロバイダがどれかを確認します。
つぎに、(β)コンテンツプロバイダに対し、加害者が利用したISPを特定するために必要な情報であるIPアドレス等の開示を求めます。
そして、明らかになったIPアドレス等を基に、(γ)加害者の利用したISPを特定した上で、そのISPに加害者が誰かであるかの情報の開示を求めていきます。
以上のように、加害者を明らかにするには、(β)コンテンツプロバイダに対し、加害者の利用していたIPアドレス等の開示を求め、その情報を得た上で、(γ)加害者の利用していたISPから情報を得て加害者を明らかにする、という2つの段階を踏む必要があります。
次回は、この1段階目の手続である、(β)コンテンツプロバイダに対し、加害者の利用していたIPアドレス等の開示を求め、その情報を得るための具体的な方法や要件について、詳しく見ていきます。
*1 ISPは、インターネットサービスプロバイダの略称であり、「インターネット通信に接続するサービスを提供している主体」のことです。一般にプロバイダーと呼ばれます。代表的な企業としてはNTTドコモやソフトバンクなどがあります。
*2 コンテンツプロバイダとは、「コンテンツを提供する事業者」のことであり、SNSや動画サイト、ショッピングサイトなどが、代表例です。
インターネット上の名誉棄損2
さて、前回、インターネット上の書き込みにより被害が起きてしまった場合、会社は、(1)情報が書き込まれたサイトの管理者等に対し、(ア)削除要請や(イ)削除請求を行う、(2)加害者本人に対し、(ウ)書き込みの削除要求や(エ)被害の回復を求めるためα損害賠償・β謝罪広告等を強制する命令に関する訴訟を提起することが考えられる、という話をしました。
では、具体的に、どのような要件を満たせば、上記各手段を取ることができるのでしょうか。
まず、(1)情報が書き込まれたサイトの管理者等に対し、(ア)削除要請する場合は、サイト上のオンラインフォームを利用する方法やプロバイダ責任制限法*1のガイドラインの書式に従った送信防止措置依頼の方法*2があります。
いずれの方法も、書き込みが掲載されている場所、掲載されている情報、侵害された権利、なぜ自分の権利が侵害されたと言えるかといったことを、サイト管理者等に説明する必要があります。
つぎに、裁判上の手続きである(イ)削除請求を行う場合には
(a)名誉権(人の品性、名誉、信用といった客観的な社会的評価のこと)が現在も侵害されていること
(b)内容が事実でないか公益目的でないことが明白であること
(c)金銭による損害賠償では、損害の補填が不十分であること
が必要になります*3。
(2)加害者本人に対し、(ウ)書き込みの削除要求する場合も、やはり、任意の交渉ですので、定まった要件というものはありませんが、書き込みが違法であることや名誉権を侵害していることなどを説明し、説得することになります。
さらに、被害回復の(エ)α損害賠償に関する訴訟を提起する場合は、
(a)故意または過失があること
(b)違法な行為であること
(c)特定個人の名誉権を侵害したこと
(d)損害が発生したこと
が必要になります。
同じく、β謝罪広告等を強制する命令に関する訴訟を提起する場合は、
(a)故意または過失があること
(b)違法性が特に強い悪質な行為であること
(c)特定個人の名誉権を侵害したこと
(d)謝罪広告等が名誉回復のために、相当であること
が必要になります。
このような各要件を満たせば、形式的には、加害者本人に対して、削除要求や各種訴訟を提起することができる、ということになります。
ただ、実際の事案では、匿名で書き込み等がなされており、そもそも誰が加害者かわからない、ということが往々にしてあります。
そこで、次回以降は、加害者が誰かわからない場合に、どのような手続きを取れば加害者を特定できるのか、について解説していきます。
*1 正式名称「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」
*2 プロバイダ責任制限法のガイドラインでは、どのような送信防止措置(書き込みの削除)の依頼があった場合に、送信防止措置を行うべきかが解説されており、送信防止措置請求に関する書式が公開されています。
このガイドラインに従わない場合、サイト管理者等は、損害賠償責任を負う可能性が出てきますので、サイトのフォームを利用するときよりも、事実上の強制力が高い手段といえます。
*3 なお、削除請求の要件についての見解は別れており、上記の要件でなくとも、削除請求が認められる場合もありえます。
インターネット上の名誉棄損1
2021年1月8日、再び非常事態宣言が発令されることになりました。本年も、新型コロナウィルス(以下「コロナ」)の問題は長引きそうです。
このような状況の中、心配されるのは、クラスター(コロナの感染者集団)の発生の有無やコロナ対策の実施などについてインターネットで虚偽の情報を書き込まれることです。
例えば、とあるレストランで、クラスターが発生したと虚偽の情報がインターネット上に書き込まれた場合、そのレストランの社会からの信頼や評価が低下し、来店客や売上の減少という損害が発生してしまう可能性があります。
また被害者がもう少し広い例としては、ある市町村で、居酒屋のコロナ対策が十分にされていないと虚偽の情報がインターネット上に書き込まれ、その市町村のとある居酒屋が被害を受けるという場合も考えられます。
では、上記のような被害が起こってしまった場合、会社はどのような対応ができるのでしょうか。
まず、考えられるのは、
(1)情報が書き込まれたサイトの管理者等に対し、(ア)削除要請や(イ)削除請求を行う
ということです。
つぎに、(2)加害者本人に対し、
(ウ)書き込みの削除要求
(エ)被害の回復を求めるため
㋐損害賠償
㋑謝罪広告等を強制する命令
に関する訴訟を提起すること
等が考えられます。
もっとも、あらゆる書き込みに対して、上記の手段を行使出来るわけではありません。
次回は、どのような要件を満たせば、上記各手段を取ることができるのか、検討していきたいと思います。