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労働者災害補償保険法の「業務上の事由」の範囲
先日(平成28年7月8日)、ある交通事故が、労働者災害補償保険法(以下「労災法」)上の「業務上の事由*1」による事故といえるか、争われた事案に関し、最高裁判決が出されました*2。
具体的な事案としては、
ある労働者が、業務を一時中断して事業場外で行われた歓送迎会に途中参加した後、業務を再開するため自動車を運転して事業場に戻るついでに、参加者をその住居に送る途中で発生した交通事故により死亡した
というものです。
原審(東京高判平成26年9月10日)は、
歓送迎会は、親睦を深めることを目的として、会社の従業員有志によって開催された私的な会合であり、運転行為は、事業主の支配下にある状態でされたものとは認められない*3
として、当該労働者の死亡は、労災法上の「業務上の事由」によるものとはいえないと判断しました。
これに対し、最高裁は、
当該労働者が、歓送迎会に参加しないわけにはいかない状況に置かれ、その結果、歓送迎会の終了後に当該業務を再開するために事業場に戻ることを余儀なくされていたこと
歓送迎会が、会社の事業活動に密接に関連して行われたものといえるものであったこと
事業場と住居の位置関係に照らし、飲食店から事業場へ戻る経路から大きく逸脱するものではないこと
等の事情を総合すれば、歓送迎会が事業場外で開催され、アルコール飲料も供されたものであり、当該参加者を住居まで送ることについて明示的な指示を受けてされたものとはうかがわれないこと等を考慮しても、なお本件会社の支配下にあったというべき
として、当該労働者の死亡が労災法上の「業務上の事由」にあたるとしました。
本判決は、事例判断ですが、労災法の適用範囲を考えるにあたって参考になる事例といえるでしょう。
(弁護士 國安耕太)
*1
労災法は、「業務上の事由または通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に関して保険給付を行うほか、社会復帰促進等事業を行うことができる」(労災法2条の2)と定め、保険給付ができる場合を「業務上の事由」または「通勤」による災害に限定しています。
*2
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/000/086000_hanrei.pdf
*3
判例上「労働者災害補償保険法に基づく業務災害に関する保険給付の対象となるには、それが業務上の事由によるものであることを要するところ、そのための要件の一つとして、労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にある状態において当該災害が発生したことが必要である」とされています。
会社に損害を加えた従業員に対し、損害賠償請求できるか
従業員が、会社に損害を加えた場合、会社は、当該従業員に対し、損害賠償請求できるのでしょうか。
たとえば、従業員が、社用車を運転中、物損事故を起こした場合に、当該従業員に対し、その損害全額の賠償を求めることはできるのか、相談を受けることがあります。
従業員が会社に対し、損害を加えた場合、その損害を賠償する責任が生じます。
しかし、会社は、従業員の活動によって利益を得ていますから、従業員の活動によって被った損害についても、一定程度負担すべき、とするのが判例・通説の考え方です。
具体的には、最判昭和51年7月8日(民集第30巻7号689頁)は、
「使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償または求償の請求をすることができる」
と判示しています。
したがって、従業員が、社用車を運転中、物損事故を起こした場合であっても、会社が、当該従業員に対して請求できる損害賠償請求は、信義則上相当と認められる限度に制限されます。
なお、上記はあくまでも、会社と従業員間の内部分担の問題です。
会社は、物損事故の被害者に対して、直接責任を負います(民法715条1項、使用者責任)。
従業員が責任を負うことを理由に、第三者に対する賠償義務を免れることはできませんので注意が必要です。
(弁護士 國安耕太)
厚生労働省、長時間労働に関する行政指導で企業名を初めて公表
先日(平成28年5月19日)、厚生労働省が、長時間労働に関する行政指導で企業名を初めて公表したとの報道がありました*1。
千葉市にある棚卸し業務の代行会社「エイジス」が、従業員63人に対し、違法に月100時間を超える残業をさせていたとのことです。
昨年、厚生労働省は、過重労働対策強化のため、違法な長時間労働を行う事業所に対して監督指導を行う「過重労働撲滅特別対策班(通称「かとく」)」を、東京労働局と大阪労働局に新設し、社会的に影響力の大きい企業が、違法な長時間労働を繰り返している場合には、是正を指導した段階で公表するとの方針を発表していました*2。
なお、具体的には、
①複数の都道府県に事業場を有している企業であって、中小企業に該当しない企業であること
②㋐労働時間、休日、割増賃金に係る労働基準法違反が認められ、かつ㋑1か月当たりの時間外・休日労働時間が100時間を超えている違法な長時間労働を行わせていること
③1箇所の事業場において、10人以上の労働者または当該事業場の4分の1以上の労働者に違法な長時間労働を行わせていること
④上記①②のような実態が概ね1年程度の期間に3箇所以上の事業場で繰り返されていること
という要件を満たしている場合に、指導・公表の対象となります*3。
このように、近時は、従業員に違法な長時間労働を行わせることによって、従業員自身に健康障害が発生し、損害賠償請求を受けてしまうというリスクのみならず、公表されることによって、企業イメージや信用の低下というリスクも生じ得ます。
このような状況にかんがみて、企業にとっては、長時間労働の是正が喫緊の課題といえるでしょう。
(弁護士 國安耕太)
*セミナーを開催いたします。
『新入社員定着セミナー』
開催日時:5月26日(木)
セミナー 19~20時30分
懇親会 20時30分~
場所:株式会社アセットリード「セミナールーム」
東京都新宿区西新宿1-26-2 新宿野村ビル9F
お問合せ先:03-6453-8270
株式会社TGIインデペンデント(担当:小林)
参加資格:なし(経営者・人事担当者向けセミナーになります。)
講師:森 泰造(株式会社みらい創世社代表取締役)
村中幸代(ノースブルー社会保険労務士事務所代表)
定員:30名
受講料:5000円
*1
http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/ann?a=20160519-00000046-ann-soci
*2
*3
「長時間労働に係る労働基準法違反の防止を徹底し、企業における自主的な改善を促すため、社会的に影響力の大きい企業が違法な長時間労働を複数の事業場で繰り返している場合、都道府県労働局長が経営トップに対して、全社的な早期是正について指導するとともに、その事実を公表する。」
『勤務間インターバル制度』の導入と助成金
厚生労働省は、勤務間インターバル制度を就業規則に明記し、導入した企業に助成金を出す方針を固めたとの報道がありました(日本経済新聞 2016年5月4日掲載)。
勤務間インターバル制度とは、従業員が退社してから翌日に出社するまで一定時間を空けることを強制する制度で、たとえば、欧州連合(EU)では、1993年に法律を制定し、退社から出社までの休息時間を11時間確保したうえで、4か月平均で48時間以上は働かせてはならないと義務づけています。
我が国でも、労働基準法第32条で、休憩時間を除き1週間について40時間、1日について8時間を超えて、労働させてはならないという規制があります。
また、使用者と労働者(以下「労使間」という。)で、書面による協定をし、行政官庁に届け出ない場合には、労働時間を延長し、または休日に労働させることができない(いわゆる36協定)という規制もあります。
しかし、労使間で36協定を結んだ場合でも、特別条項を結べば月45時間以上の労働が可能となるため、実質的に労働時間に上限がない状態になってしまっています。すなわち、特別条項を結ぶ場合、延長できる時間についての上限時間は定められておらず、できる限り延長時間を短くするよう努めることという努力義務が定められているにとどまります(「労働時間の延長の限度等に関する基準(第3条第2項)」)。
実際、同記事に記載されていた統計でも、週49時間以上働く人が約22%で、欧米の10~15%と比べて多いとされています。
このため、我が国では、長時間労働の解消が喫緊の課題となっており、厚生労働省はその解消方法を検討していました。
なお、厚生労働省は、今のところ、勤務間インターバル制度を義務化するのではなく助成金を交付することで自主的に導入を促し、長時間労働の解消を進めていく方針です。
具体的には、長時間労働の解消に取り組む中小企業を対象とする「職場意識改善助成金」に勤務間インターバル制度に関する項目を加え、労務管理用のソフトウェアの購入費や生産性を高めるための設備や機器の導入費用などを支援します。
現時点では、インターバルの時間や支給額等の詳細は未定ですが、早ければ2017年度から最大100万円の支給があるかもしれません。
今後の動向に注目です。
なお、助成金申請は、手続きが複雑で、必要な書類も多いです。
自社での対応も不可能ではありませんが、事前に一度社会保険労務士に相談してみることをお勧めします。
(弁護士 國安耕太、社会保険労務士 村中幸代)
有期労働契約の無期転換ルールにご注意を!
労働契約法18条1項は、有期労働契約の無期転換ルールを定めています。
*労働契約法18条1項
「同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除く。以下この条において同じ。)の契約期間を通算した期間(次項において「通算契約期間」という。)が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。」
この規定は、要するに、
①同一の使用者との間で、
②有期労働契約が通算で5年を超える労働者は、
③現に締結している有期労働契約の期間満了までに、
④使用者に申し込むことにより、
無期労働契約に転換することができる、というものです。
これだけを読むと、有期労働契約の期間が、単に5年を超えなければ、無期転換権は生じないように読めます。
たしかに、1年の有期労働契約の場合、その通算期間が5年を「超える」のは、5回目の更新時、すなわち、有期労働契約が6年目に入った時点ですから、5回目の更新をしなければ、無期転換権は生じないことになります*1。
他方、3年の有期労働契約の場合は、1回更新しただけで、その通算期間が5年を超えてしまいます。
そのため、1回目の更新時、すなわち、4年目に入った時点で、無期転換権が生じることになります。
「5年経過していないから、大丈夫!」と思っていると思わぬ痛手を被ることになりかねません。
有期労働契約の無期転換ルールを正確に理解しておきましょう。
(弁護士 國安耕太)
*1
ただし、労働契約法19条によって、更新拒絶(雇止め)が無効となる場合があります。
パワハラにご注意を!
近年、職場のパワーハラスメントに関する都道府県労働局や労働基準監督書等への相談件数が、増加しています。
パワーハラスメントとは、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」をいいます。
上司から部下に対する行為が典型例ですが、同僚間、さらには部下から上司に対して行われるものも含まれます。
また、つぎの6つ行為が、パワーハラスメントの典型的な行為とされています(なお、これ以外は問題ないということではありません。)。
(1)身体的な攻撃・・・暴行、傷害など
(2)精神的な攻撃・・・脅迫、名誉棄損、ひどい暴言など
(3)人間関係からの切り離し・・・隔離、仲間外し、無視など
(4)過大な要求・・・業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害など
(5)過小な要求・・・業務上の合理性がなく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じる、仕事を与えないなど
(6)個の侵害・・・私的なことに過度に立ち入るなど
このうち、(1)については、どのような場合であっても許容されるものではなく、身体的な攻撃=パワーハラスメントと認定されるのが通常です。
また、(2)および(3)についても、通常、業務遂行に必要な行為であるとはいえないことから、原則として「業務の適正な範囲」を超えるもの、すなわちパワーハラスメントと認定される可能性が極めて高いといえます。
したがって、自社内で、(1)~(3)に該当する行為がなされているのを見掛けたら、即座に是正する必要があります。
つぎに、(4)~(6)の類型ですが、これらについては、程度問題ということもあり、パワーハラスメントかどうかが個別具体的に検討されることになります。
部下を熱心に教育していたつもりが、ある日突然パワーハラスメントだと訴えられる。
そういったことがないよう十分ご注意ください。
(弁護士 國安耕太)
定年を66歳以上に引き上げた企業に、約65万円の助成金が支払われます!
厚生労働省は、高齢者雇用を促進するため、今年4月から定年年齢を「66歳以上」に引き上げた企業に対する助成金を厚くする制度を始めました*1。
同省は、これまで、定年を「70歳以上」とした場合、実際にかかった費用にかかわらず上限額の約65万円を支給してきました。4月からはこの年齢をさらに広げ、定年を66歳以上に引き上げた企業に上限額を助成するとしています。
『高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)』では、65歳未満の定年を定めている事業主に対し、(1)定年の引上げ、(2)基準を廃止して希望者全員を65歳まで継続雇用する継続雇用制度の導入、(3)定年の定めの廃止のいずれかの措置を講じることを義務付けています。
今回の助成金制度は、(1)定年を66歳以上に引き上げ、(2)66歳以上の継続雇用制度の導入(この場合において、定年は65歳以上)、(3)定年の定めの廃止のいずれかの措置を実施した場合に、一定金額(上限が約65万円)を助成するというもので、『高年齢者雇用安定法』の定めを超えて、高齢者の活用を推進しようとする意図があるといえます。
高齢者を積極的に活用しようとしている企業にとっては、この制度を利用し、社内規程を整備できる等の利点があります。
また、中高年を積極的に活用したい事業主には、つぎのような新制度の利用も可能です。
たとえば、キャリア希望実現支援助成金は、65歳を超える社員を雇っている企業が、40歳から65歳未満の転職希望者を移籍により受け入れると1人について、40万円の助成が受けられます。
また、契約社員を期間の定めのない契約に転換した中小企業の事業主に対して、転換した者1人について、30万円助成されるキャリアアップ助成金がありますが、
新制度の高年齢者無期雇用転換コースでは、50歳以上定年年齢未満の契約社員を期間の定めのない契約に転換した中小企業の事業主に対して、転換した者1人について50万円が助成されます。
このように今年度は、高齢者および中高年の雇用に対する助成金がこれまでより、さらに拡大されています。
ぜひ企業の発展に、助成金制度の利用を検討してみてください。
(弁護士 國安耕太、社会保険労務士 村中幸代)
*1
雇用保険二事業助成金 平成28年度予算の整理表(案)5頁
*2
弁護士ドットコムに取材を受けました。こちらもご覧ください。
https://www.bengo4.com/c_5/c_1099/n_4509/
社員の金銭的不正行為への対応2
先週に引き続き、従業員の金銭的不正行為への対応です。
従業員の金銭的不正行為が発覚した場合、会社は、事実確認を入念に行ったうえで、
①懲戒処分(懲戒解雇)をするか否か
②損害の賠償を請求するか否か
③刑事告訴をするか否か
を検討することになります。
それでは、前回の続きです。
②損害の賠償を請求するか否かについて
①の懲戒処分とは別に、金銭的不正行為をした従業員に対しては、損害賠償請求または不当利得返還請求をすることができます。
ただし、一方的に給与や退職金と相殺することはできないので、注意が必要です(労働基準法24条1項本文*1、賃金全額払いの原則)。
そのため、退職金と相殺したり、退職金を放棄させるのであれば、従業員の同意が必要となります。
過去の判例でも、労働者の自由な意思に基づいてなされた退職金債権放棄の意思表示が有効と判断されています(最判昭和48年1月19日、民集27巻1号27頁、シンガー・ソーイング・メシーン事件*2)。
③刑事告訴をするか否かについて
刑事告訴を行ったとしても、会社が被った損害が回復されるわけではありません。
むしろ刑事告訴をすることによって、会社が悪い意味で話題になってしまう可能性もあります。
また、刑事告訴は、義務でもありません。
ただ、金額が大きかったり、態様が悪質であったような場合、会社として放置できないということもあるでしょう。
また、他の従業員との関係を考慮して、厳しい姿勢で臨む必要がある場合もあります。
それゆえ、刑事告訴をする場合には、これによって生じるメリットとデメリットを十分検討することが重要です。
なお、証拠がないにもかかわらず、従業員を告訴したような場合、会社の側に名誉毀損が成立することもあるので、注意が必要です。
(弁護士 國安耕太)
*1
労働基準法24条1項本文
「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」
*2
最判昭和48年1月19日
「全額払の原則の趣旨とするところは、使用者が一方的に賃金を控除することを禁止し、もつて労働者に賃金の全額を確実に受領させ、労働者の経済生活をおびやかすことのないようにしてその保護をはかろうとするものというべきであるから、本件のように、労働者たる上告人が退職に際しみずから賃金に該当する本件退職金債権を放棄する旨の意思表示をした場合に、右全額払の原則が右意思表示の効力を否定する趣旨のものであるとまで解することはできない。」
社員の金銭的不正行為への対応1
最近、従業員の金銭的不正行為(窃盗、横領、詐欺等)への対応についてアドバイスを求められることが多くなっています。
従業員の金銭的不正行為が発覚した場合、会社は、事実確認を入念に行ったうえで、
①懲戒処分(懲戒解雇)をするか否か
②損害の賠償を請求するか否か
③刑事告訴をするか否か
を検討することになります。
以下、個別にみていきましょう。
①懲戒処分(懲戒解雇)をするか否かについて
まず、現在の我が国の法制度は、解雇権濫用の法理*1*2を採用しており、労働者を手厚く保護しています。
そのため、懲戒処分の中でも懲戒解雇については、慎重な判断が求められることが多いです(すなわち、懲戒解雇が無効となることが多々あります。)。
しかし、従業員の金銭的不正行為に関しては、過去の裁判例では、その額や回数を問わず、有効とされる傾向にあります。
そのため、従業員の金銭的不正行為に関し、懲戒解雇を行っても、後に無効とされる可能性は低いといえます。
ただし、あくまでも懲戒事由に該当する事実を証明できる場合であることが必要です。
過去の裁判例では、従業員が、使途不明金の一部を着服した旨の自認書および念書を書いていた事案において、事実に即して書かれたとはいい難く、これによって着服の事実を基礎づけることはできないとされたものがあります*3。
それゆえ、本人が認めているだけでなく、客観的な資料に基づいて事実を証明できるようにしておかなければなりません。
また、実務上は、懲戒解雇事由に該当する事実を証明できる場合であっても、懲戒解雇とせずに諭旨解雇や普通解雇、自主退職にとどめるということもありえます。
このあたりは、金銭的不正行為の額、被害弁償の有無、これまでの処分事例との均衡等を考慮して、判断していくことになります。
なお、②損害の賠償を請求するか否か、③刑事告訴をするか否かについては、次回解説します。
(弁護士 國安耕太)
*1
労働契約法16条
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」
*2
最判昭和50年4月25日(労判227-32、日本食塩製造事件)
「使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になると解するのが相当である。」
*3
東京地八王子支判平成15年6月9日(労判861号56頁、京王電鉄府中営業所事件)
キャリアアップ助成金が拡充されました。
先日(平成28年2月10日)、キャリアアップ助成金のうち、①正規雇用等転換コース、②多様な正社員コースおよび③人材育成コースが、一部拡充されました*。
①正規雇用等転換コース
正規雇用等転換コースは、転換制度を就業規則に規定し、アルバイトや契約社員等を正社員等に転換した企業に助成金が支給されます。
たとえば、期間の定めのあるアルバイトや契約社員を、2月10日以降に正社員に転換した場合、中小企業では、1人あたり60万円(改正前より10万円アップ)が助成されることになりました。
事業所が東京都にある場合は更に、東京都からも50万円が助成されますので、合わせて110万円の助成となります。
②多様な正社員コース
また、今回の改正では、新たに、多様な正社員(勤務地・職務限定正社員、短時間正社員)を正社員に転換した企業に助成金が支給されることになりました。
たとえば、職務限定正社員を、2月10日以降に通常の正社員に転換した場合、中小企業では、1人あたり20万円が助成されます。
③人材育成コース
さらに、今回の改正では、有期実習型訓練修了後、対象者を正規雇⽤労働者等に転換した場合、OFF-JTにかかる経費助成の上限額が引き上げられました。
具体的には、訓練計画提出の日が2月10以降のものについて、
・100h未満=1人当たり15万円(改正前10万円)
・100h以上200h未満=1人当たり30万円(改正前20万円)
・200h以上=1人当たり50万円(改正前30万円)
と変更されています。
ぜひ会社の発展に、助成金を活用していただければと思います。
なお、助成金を申請するための手続きは複雑で、必要な書類も多くなります。
ご自身の会社で手続きをすることが難しい場合には、専門家である社会保険労務士にぜひご相談ください。
(社会保険労務士 村中幸代)
*
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11650000-Shokugyouanteikyokuhakenyukiroudoutaisakubu/0000112383.pdf
偽装請負に注意しましょう 3
先週、先々週と、労働者派遣と請負の区別に関する厚生労働省の告示をご紹介してきました。
本日は、その3回目です。
(1)自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用していること、および(2)請け負った業務を自己の業務として独立して処理することという2つの要件を満たしていない限り、たとえ請負契約(業務委託契約)としていたとしても、労働者派遣事業を行う事業主、すなわち偽装請負とされてしまいます*1。
では、(2)請け負った業務を自己の業務として独立して処理している、といえるかどうかは、どのように判断されるのでしょうか。
厚労省の告示では、つぎの3つの要件をいずれも満たしていることが必要であるとされています。
(ア)業務の処理に要する資金につき、すべて自らの責任の下に調達し、かつ、支弁すること。
(イ)業務の処理について、民法、商法その他の法律に規定された事業主としてのすべての責任を負うこと。
(ウ)①自己の責任と負担で準備し、調達する機械、設備若しくは器材(業務上必要な簡易な工具を除く)又は材料若しくは資材により、業務を処理しているか、または、②労自ら行う企画又は自己の有する専門的な技術若しくは経験に基づいて、業務を処理すること、のいずれかに該当するものであって、単に肉体的な労働力を提供するものでないこと。
なお、厚生労働省から、労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(37号告示)に関する疑義応答集も公表されていますので、こちらも参考にしてみてください*2。
(弁護士 國安耕太)
*1
労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(昭和61年労働省告示第37号)
http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/dl/h241218-01.pdf
*2
http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/dl/haken-shoukai03.pdf
http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/dl/haken-shoukai03_02.pdf
偽装請負に注意しましょう 2
先週、労働者派遣と請負の区別に関する厚生労働省の告示をご紹介しました。
本日は、その続きです。
(1)自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用していること、および(2)請け負った業務を自己の業務として独立して処理することという2つの要件を満たしていない限り、たとえ請負契約(業務委託契約)としていたとしても、労働者派遣事業を行う事業主、すなわち偽装請負とされてしまいます*。
では、(1)自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用している、といえるかどうかは、どのように判断されるのでしょうか。
厚労省の告示では、つぎの3つの要件をいずれも満たしていることが必要であるとされています。
(ア)①労働者に対する業務の遂行方法に関する指示その他の管理を自ら行い、また、②労働者の業務の遂行に関する評価等に係る指示その他の管理を自ら行うことにより、「業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行う」ものであること。
(イ)①労働者の始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等に関する指示その他の管理(これらの単なる把握を除く)を自ら行い、また、②労働者の労働時間を延長する場合又は労働者を休日に労働させる場合における指示その他の管理(これらの場合における労働時間等の単なる把握を除く)を自ら行うことにより、「労働時間等に関する指示その他の管理を自ら行う」ものであること。
(ウ)①労働者の服務上の規律に関する事項についての指示その他の管理を自ら行い、また、②労働者の配置等の決定及び変更を自ら行うことにより、「企業における秩序の維持、確保等のための指示その他の管理を自ら行う」ものであること。
(ア)ないし(ウ)のいずれも、種々の事情を総合的に勘案して判断されることになりますが、大雑把に言えば、業務遂行・労働時間等・企業秩序等に関し、受託者が、自己の従業員(労働者)を自ら指揮命令監督をしていなければならない、ということを意味しています。
なお、(2)請け負った業務を自己の業務として独立して処理することについては、次週解説していきたいと思います。
(弁護士 國安耕太)
*労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(昭和61年労働省告示第37号)
http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/dl/h241218-01.pdf
偽装請負に注意しましょう 1
先日開催した第4回企業法務セミナー「契約書を学び、攻めの経営を!」*1でも少し触れましたが、請負契約や業務委託契約を締結するにあたっては、偽装請負とならないよう注意する必要があります。
偽装請負とは、実質は労働者派遣(場合によっては労働者供給)でありながら、請負契約や業務委託契約の形式で行う労務提供を指します。
実質的には労働者派遣であるにもかかわらず、形式的に請負契約(業務委託契約)とすることにより、派遣法により課された元事業主および派遣先事業主の義務を回避し、ひいては派遣労働者の保護という派遣法の趣旨を没却することが問題視されています。
そのため、偽装請負と判断されると、受託者は、派遣事業主と判断され、派遣法違反として罰則を受け、委託者も派遣法違反となり、行政処分の対象となります。
したがって、請負契約や業務委託契約を締結するにあたっては、偽装請負との指摘を受けないよう、注意する必要があります。
そして、労働者派遣と請負の区別に関しては、厚生労働省から基準が示されています*2。
具体的には、(1)自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用していること、および(2)請け負った業務を自己の業務として独立して処理することという2つの要件を満たしていない限り、たとえ請負契約(業務委託契約)としていたとしても、労働者派遣事業を行う事業主とされてしまいます。
すなわち、偽装請負と判断されてしまうことになります。
では、どうすれば、この(1)および(2)を満たしているといえるのか、については、次週解説することにします。
(弁護士 國安耕太)
*1
https://north-blue-law.com/blog-child/%e7%ac%ac%ef%bc%94%e5%9b%9e%e4%bc%81%e6%a5%ad%e6%b3%95%e5%8b%99%e3%82%bb%e3%83%9f%e3%83%8a%e3%83%bc%e3%82%92%e9%96%8b%e5%82%ac%e3%81%97%e3%88%be%e3%81%97%e3%81%9f%ef%bc%81/
*2
労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(昭和61年労働省告示第37号)
労働者派遣のルールが変わります!
先日(平成27年9月17日)、当事務所主催(共催)の第3回企業法務セミナーを開催しました。
当日は、生憎の天気でしたが、多数の方にご参加いただきました。ありがとうございます。
さて、その際、当事務所髙安弁護士が、「雇用と請負」の相違点、メリット・デメリット等を解説しましたが、この他、雇用との区別が問題となる契約形態として、「派遣」があります。
この派遣に関する法律(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律。以下「派遣法」)が改正され、今月30日から施行されます*。
今回の改正では、派遣労働は、 臨時的・一時的なものであることを原則とするという考え方のもと、派遣労働者の雇用の安定やキャリアアップを図ることを目的としています。
主な改正点は、つぎの4点です。
①労働者派遣事業を許可制に統一
②期間制限のルールの変更
③派遣元事業主の義務の強化
④労働契約申込みみなし制度の導入
まず、①についてですが、これまで、労働者派遣事業には、一般労働者派遣事業(許可制)と特定労働者派遣事業(届出制)の2種類が存在していました。
これが、許可制に一本化されます。
つぎに、②についてですが、これまで、特定の業務以外の業務に対する労働者派遣に関する派遣期間の上限は、原則1年(最長3年)とされていました。
これに対し、改正法では、つぎの2つのルールが設けられました。
㋐派遣先事業所単位の規制
一つの事業所において、労働者派遣の受入れを行うことができる期間が、原則3年以内となります。
㋑派遣労働者個人単位の規制
派遣先の事業所における同一の組織単位(課)において、同一の派遣労働者を受け入れることができる期間が、原則3年以内となります。
たとえば、甲社の人事課に派遣されていたAさんを、3年後に、同社の会計課に派遣することは可能です。
③については、派遣元事業主に、つぎの義務が課されました。
㋐雇用安定措置の実施
派遣元事業主は、同一の組織単位に継続して3年間派遣される見込みがある派遣労働者に対し、派遣終了後の雇用を継続させる措置(雇用安定措置)を講じる義務があります。
㋑キャリアアップ措置の実施
派遣元事業主は、雇用している派遣労働者のキャリアアップを図るため、
・段階的かつ体系的な教育訓練
・希望者に対するキャリア・コンサルティング
を実施する義務があります。
㋒均衡待遇の推進
派遣元事業主は、派遣労働者から求められたときは、賃金の決定、教育訓練の実施および福利厚生の実施について、派遣先の労働者と待遇の均衡を図るために考慮した内容を説明する義務があります。
最後に、④について、派遣先が違法派遣を受け入れた場合、その時点で、派遣先が派遣労働者に対して、その派遣労働者の派遣元における労働条件と 同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みをしたものとみなされます。
以上のとおり、派遣法の改正は、国が正規雇用をより推進していこうとしていることを明確に示しています。
派遣業を営んでいる方、派遣の利用を検討している方は、本改正と共に今後の動向にご注意ください。
(弁護士 國安耕太)
* http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000077386.html
リストラと解雇権濫用法理
本日、インターネット上に「東芝赤字転落 リストラ不可避」とのニュースが配信されていました*1。
使用者と労働者との労働契約を解消するためには、
①包括的同意(定年に達するなど一定の事由が発生すると当然に労働契約が終了するもの。「当然退職」)
②個別的同意(一般的に、労働者が退職を申込み、使用者が承諾する形で、双方の合意により労働契約を終了させるもの。「合意退職」)
③労働者の単独行為(労働者からの一方的な意思表示によって労働契約を終了させるもの。「辞職」)
といった方法がありますが、この他、
④使用者の単独行為(使用者からの一方的な意思表示によって労働契約を終了させるもの。「解雇」)
があります。
そして、リストラは、このうち④の「解雇」にあたります。
労働基準法上、この「解雇」は、自由に出来るのが原則です*2。
しかし、使用者からの一方的な意思表示による労働契約の解消である解雇は、従業員の生活に大きな影響を及ぼします。
そこで、裁判所は、「使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になる」として、実質的には解雇を制限してきました(「解雇権濫用の法理」)*3。
リストラ(整理解雇)も、解雇の一種ですから、原則的には自由であるものの、解雇権の濫用となるような場合は、無効となります。
そして、整理解雇の正当性を判断する際、多くの裁判例が、①人員削減の必要性、②整理解雇回避の努力の履行、③解雇対象者の人選の妥当性、④解雇手続の相当性の4つ要件を検討してきました。
したがって、本件でも、上記4つの要件を満たすよう慎重に手続を検討し、実行していくことになるでしょう。
(弁護士 國安耕太)
*1
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150914-00000112-mai-bus_all
*2
労基法19条は解雇制限、20条は解雇予告手当に関する条文ですが、いずれも時期・手当等の要件を満たせば、解雇は可能であることを前提としています。
*3
なお、現在では、労働契約法16条に同趣旨の規定がある。
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」
こころほっとライン
厚生労働省は、今月(2015年9月)1日から、電話相談窓口「こころほっとライン」を開設しています*1。
厚生労働省によれば、こころほっとラインでは、つぎような相談の対応をしているようです。
①働く人のメンタルヘルス不調
・こころの悩み
・人間関係の悩み
・仕事の悩みについて
②ストレスチェック制度
・ストレスチェックの受検
・ストレスチェック結果の評価とセルフケア
・医師による面接指導を受けることについての助言
・事業場内における情報管理とプライバシー保護
・ストレスチェックをめぐる不利益な取扱いなどについて
③過重労働による健康障害
・長時間労働による健康への影響
・事業場における健康管理の状況
・長時間労働の削減などの対策について
なお、ストレスチェックに関しては、「ストレスチェック実施促進のための助成金」も支給されるようですので、興味のある方は、チェックしてみてください(50人未満の事業所に限る等要件があります。)*2。
(弁護士 國安耕太)
*1
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000095839.html
*2
http://www.rofuku.go.jp/sangyouhoken/stresscheck/tabid/1006/Default.aspx
第3回企業法務セミナーを開催します!
きたる9月17日(木)18時30分から、当事務所主催(共催)の第3回企業法務セミナー「キャリアアップ助成金(正規雇用等転換コース)についての説明会」を開催いたします*1。
キャリアアップ助成金(正規雇用等転換コース)は、平成25年5月からスタートした厚生労働省管轄の助成金で、契約社員やパート等のいわゆる正社員ではない労働者を、正社員にした場合に貰える助成金です。
たとえば、契約社員(有期雇用契約の労働者)を正社員にした場合、平成28年3月31日まで*1は、50万円が助成されます*2。
キャリアアップ助成金(正規雇用等転換コース)は、労働者が1人しかいない事業所でも助成金を受給できることから、比較的多くの事業所で利用されています。
ただし、もちろん必要な要件を満たしている必要があります。
たとえば、正社員に転換する有期雇用契約の労働者が、当該事業主に、①通算6か月以上雇用されていることや②過去3年以内に正社員として雇用されていないこと等の要件を満たす必要があります。
また、事業主に関しても、①労働協約または就業規則に転換に関する規定があることや②転換日の前日から起算して6か月前の日から1年を経過する日までの間に事業主都合で労働者を離職させていないこと等の要件を満たす必要があります。
このようにキャリアアップ助成金(正規雇用等転換コース)を受給するためには、様々な要件をクリアーする必要があります。
ご興味のある方は、ぜひセミナーにご参加ください。
(弁護士國安耕太、社会保険労務士村中幸代)
*1
[日時]:9月17日(木)18:30~21:00 (18:15開場)
[場所]:東京都新宿区西新宿7-4-7 イマス浜田ビル5階
[定員]:30名
[参加費]:3000円(税込)※当日会場にてお支払いください。
*2
現時点では、平成28年の4月以降の要件や助成額
*3
中小企業の場合。また、母子家庭等の場合助成額が加算されます。
最低賃金法の引き上げ
先日(平成27年7月30日)、厚生労働省中央最低賃金審議会は、最低賃金を全国で16~19円引き上げる旨の小委員会報告を公表しました*1。
これにより、たとえば、東京では、最低賃金が現在の888円から19円上昇し、907円となります。
現在は、アルバイトの時給を900円にしているところもよく見掛けますが、改定後は法律違反となってしまいますので注意が必要です。
実際、毎年のように、労働基準監督署が、最低賃金法違反容疑で検察庁に書類送検しています*2。
特に、平成27年3月には、居酒屋経営者が逮捕されるという事件も起きています*3。
この事案では、平成23年1月1日から平成25年8月16日までの間、当該居酒屋の元労働者から、勤務した最後の月の給料が支払われない旨の賃金不払に関する申告が4件あり、労働基準監督署が、この申告を受け、当該居酒屋に対し、不払賃金を支払うよう行政指導を行ったにもかかわらず、その行政指導に従わず、再三の出頭要求に応じなかったようです。
通常は、逮捕までされることはあまりありませんが、この事案では、行政指導に従わず、再三の出頭要求に応じなかったことから、非常に悪質であると判断されたものと思われます。
労働法の分野では、労災、解雇や未払残業代がフォーカスされることが多いですが、最低賃金法にも注意するようにしてください。
(弁護士 國安耕太)
*1
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11201250-Roudoukijunkyoku-Roudoujoukenseisakuka/0000092841.pdf
*2
http://tokyo-roudoukyoku.jsite.mhlw.go.jp/jirei_toukei/souken_jirei.html
*3
http://tokyo-roudoukyoku.jsite.mhlw.go.jp/jirei_toukei/souken_jirei/backnumber/_121377.html
ストレスチェック制度の義務化
本年(2015年)12月1日から、労働者を常時50人以上使用する事業場は、ストレスチェック制度が義務化されます(改正労働安全衛生法第66条の10・附則第4条)。
このストレスチェック制度に関し、本年7月22日、厚生労働省から、ストレスチェックの受検、結果の出力等を簡便に実施できるプログラムを開発しているとの発表がありました*1。
このプログラムには、つぎの機能の実装が予定されています。
① 労働者が画面でストレスチェックを受けることができる機能
② 労働者の受検状況を管理する機能
③ 労働者が入力した情報に基づき、あらかじめ設定した判定基準に基づき、自動的に高ストレス者を判定する機能
④ 個人のストレスチェック結果を出力する機能
⑤ あらかじめ設定した集団ごとに、ストレスチェック結果を集計・分析(仕事のストレス判定図の作成)する機能
⑥ 集団ごとの集計・分析結果を出力する機能
⑦ 労働基準監督署へ報告する情報を表示する機能
ただし、上記プログラムを使用する場合でも、社内規程を整備しておく必要がありますし、高ストレスと判定された者に対する面接指導等は、会社の側で準備・判断しておかなければなりませんので注意が必要です(詳細は、厚生労働省のストレスチェック制度実施マニュアルをご覧ください。*2)。
上記プログラムがどのようなものになるのか、まだ不透明な部分もありますが、上手に活用して、ストレスチェックの実施に備えてください。
なお、このストレスチェック制度の義務化に関し、来週8月6日木曜日、社会保険労務士・精神保健福祉士の田中豪先生に「企業のメンタルヘルス対策の最前線(仮)」についてご講演いただきます。
田中先生は、県警本部、大手家電量販店、大手不動産会社等にてメンタルヘルスケアサポートを手掛けた、企業のメンタルヘルス対策の専門家です。
非常に貴重な機会ですので、ぜひ参加をご検討ください。
【第7回JSHセミナー】
[日時]平成27年8月6日(木)19時~22時
[場所]フレンチバル&レストランジェイズ TEL 03-3365-0341
東京都新宿区歌舞伎町1-1-16 テイケイトレードビルB1
[定員]25名
[会費]事前申込5500円、当日6500円
(弁護士 國安耕太)
*1
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/pdf/150722-1.pdf
*2
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/pdf/150507-1.pdf
セクハラと会社の責任
昨日(平成27年7月21日)、上司によるセクハラ等が原因で自殺したとして、レストランチェーン「サイゼリヤ」の元店員の遺族が、会社等に対し、約9800万円の損害賠償を求める訴訟を提起したとのニュースがありました*1。
セクハラによって、従業員が自殺したり、うつ病等に罹患してしまった場合、セクハラに直接の責任がある者だけでなく、会社自体も損害賠償責任を負う可能性があります。
すなわち、セクハラをした本人は、不法行為に基づく損害賠償義務を負いますが(民法709条)、その使用者である会社も、民法の使用者責任の規定*2によって、不法行為に基づく損害賠償義務を負うことになります。
詳細な事実関係は今後明らかになると思いますが、セクハラで、会社が高額の賠償を命じられる、といった事態も十分考えられると思います。
なお、セクハラに関しては、厚生労働省が、職場におけるセクシュアルハラスメント防止のために講ずべき措置について資料を開示しています*3。
これらを参考にしたり、専門家である弁護士、社会保険労務士に相談する等して、職場環境をきちんと整えるようにしましょう。
(弁護士 國安耕太)
*1
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150721-00000130-jij-soci
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150721-00000075-mai-soci
*2 民法715条1項
「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。」
*3
http://www.positiveaction.jp/09/09_07.html
http://www.positiveaction.jp/09/09_08.html
精神障害と労災
厚生労働省は、毎年「過労死等の労災補償状況」を調査・公表していますが、先日(平成27年6月25日)、その平成26年度版が公表されました*1。
これによれば、精神障害を理由とする労災請求件数は1456件、支給決定件数は497件で、いずれも過去最多を記録したようです。
また、平成23年と少し古い情報ですが、厚生労働省「みんなのメンタルヘルス総合サイト」によれば、精神疾患により医療機関にかかっている患者数は、約320万人との統計が出されています*2。
このように現在の日本社会には、多くの精神疾患を有する患者を抱えており、どの会社においても、社員がうつ病等に罹患してしまうという危険を内包しているといえます。
そして、いったん社員が精神疾患に罹患してしまうと、当該社員のケア、業務の調整等、会社は多大なコストを投じなければならなくなります。
また、社員が亡くなってしまった場合には、数千万円から1億円超の損害賠償義務を負う可能性も十分あります。
このように企業においてメンタルヘルス対策をしておくことは、必要不可欠といえます。
なお、精神障害を理由とする労災と認定されるためには
①対象疾病を発病していること。
②対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること。
③業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと。
という3要件を満たしている必要があります*3。
ただ、現実の運用では、業務による心理的負荷が強いか否かにかかわらず、業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したと認められなければ、業務起因性が肯定されてしまう傾向にありますので、注意が必要です。
(弁護士 國安耕太)
*1
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000089447.html
*2
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/data.html
*3
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken04/dl/120118a.pdf
労災保険法に基づく療養補償給付等と労基法75条に定める療養補償の意義
昨日(平成27年6月8日)、最高裁は、労働者災害補償保険法(労災保険法)に基づく療養補償給付等が労働基準法(労基法)75条に定める療養補償に該当するか否かに関し、初めての判断を示しました* 1。
労基法は、労基法75条1項に定める療養補償を受ける労働者が、療養開始後3年を経過しても疾病等が治らない場合、使用者は、平均賃金の1200日分を支払えば、解雇できる旨規定しています(労基法81条、75条1項、19条1項*2*3*4)。
他方、労災保険法に基づく療養補償給付は、使用者が、労働者に対し、直接支払うものではないため、労災保険法に基づく療養補償給付を受ける労働者は、この労基法75条1項に定める療養補償を受ける労働者に該当しないのではないか、という点が問題となりました。
原審(東京高判平成25年7月10日)は、労基法81条・75条1項が、労災保険法に基づく療養補償給付及び休業補償給付を受けている労働者については何ら触れていないこと等から、労災保険法に基づく療養補償給付を受ける労働者は、この労基法75条1項に定める療養補償を受ける労働者に該当しないと判断しました。
これに対し、最高裁は、
①業務災害に関する労災保険制度は、労基法により使用者が負う災害補償義務の存在を前提として、その補償負担の緩和を図りつつ被災した労働者の迅速かつ公正な保護を確保するため、使用者による災害補償に代わる保険給付を行う制度である
②労災保険法に基づく保険給付の実質は、使用者の労働基準法上の災害補償義務を政府が保険給付の形式で行うものである
としたうえで、
③労災保険法に基づく、療養補償給付を受ける労働者は、解雇制限に関する労基法19条1項の適用に関しては、労基法81条・75条1項に定める療養補償を受ける労働者に含まれる
と判断しました。
本判決を受けて、労災による休業がしにくくなるのではないか、といった論調も見られますが、そもそも打切り補償による解雇は労基法上認められているものであり、また、労災保険分は、全額事業主負担であることを考えれば、妥当な判断ではないかと思います。
なお、打切り補償による解雇の場合であっても、解雇である以上、解雇権濫用*5にあたらないことが前提となります(本件も、この点をさらに審理するため、差し戻されています。)。
(弁護士 國安耕太)
*1
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/148/085148_hanrei.pdf
*2労基法81条
「第七十五条の規定によつて補償を受ける労働者が、療養開始後三年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合においては、使用者は、平均賃金の千二百日分の打切補償を行い、その後はこの法律の規定による補償を行わなくてもよい。」
*3労基法75条1項
「労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかつた場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。」
*4労基法19条1項
「使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。」
*5労働契約法16条
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」
パワーハラスメント対策していますか?
先日(平成27年5月15日)、厚生労働省から「パワーハラスメントスメント導入マニュアル」*1が公表されました。
近年、職場のパワーハラスメントスメントに関する都道府県労働局や労働基準監督書等への相談件数が、増加しています。
しかし、厚生労働省の調査では、従業員数1000人以上の会社の76%強がパワーハラスメントスメント対策を実施しているのに対し、従業員数99人以下の会社では18%強しか実施していないとされています。
そのため、従業員規模が小さい会社ほど、パワーハラスメント対策が進んでおらず、企業リスクが高いと言えます。
また、平成24年度 厚生労働省「職場のパワーハラスメントスメントに関する実態調査」*2によると、過去3年以内に
①パワーハラスメントをしたと感じたり、パワーハラスメントをしたと指摘されたことがあると回答した従業員は7.3%
であるのに対し、
②勤務先で、パワーハラスメントを見たり、相談を受けたことがあると回答した従業員は、28.2%
③パワーハラスメントを受けたことがあると回答した従業員は、25.3%
とされています。
この統計をみる限り、パワーハラスメントの加害者は、自分の行為がパワーハラスメントにあたると認識しておらず、知らず知らずのうちにパワーハラスメントを行っている可能性があるといえます。
すなわち、部下を熱心に教育していたつもりが、ある日突然パワーハラスメントだと訴えられる、そういったリスクがあるということです。
まさか自分の会社でパワーハラスメントなんて起きるわけがない、と思っていませんか?
ぜひ一度、パワーハラスメント対策について、厚生労働省のマニュアルで概要を確認してください。
また、不明な点がある場合は、社会保険労務士や弁護士等の専門家に相談することをお勧めします。
(社会保険労務士村中幸代 弁護士國安耕太)
*1
http://www.no-pawahara.mhlw.go.jp/pdf/pwhr2014_manual.pdf
*2
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002qx6t-att/2r9852000002qx9f.pdf
付加金と印紙代
労働基準法は、付加金の制度を設けています。
付加金とは、解雇予告手当(20条)、休業手当(26条)または割増賃金(37条)等を支払わない使用者に対し、裁判所が、労働者の請求に基づき、これら未払金に加えて支払いを命ずる金銭をいいます*1。
大雑把にいえば、会社が、200万円の残業代(割増賃金)を未払いであった場合、これに加えてさらに200万円の付加金の支払いが命じられ、合計400万円の支払義務が生じることになります。
この規定を見ただけで、労働基準法がいかに労働者を保護しており、割増賃金等の未払いがいかに会社にリスクをもたらすかがよくわかると思います。
さて、この付加金の請求に関し、付加金の請求の価額に相当する印紙代も支払う義務があるのかが争われ、先日(平成27年5月19日)、この点に関する最高裁の判断が示されました*2.
最高裁は、「未払金の請求に係る訴訟において同請求とともにされるときは、民訴法9条2項にいう訴訟の附帯の目的である損害賠償又は違約金の請求に含まれる」として、割増賃金等の請求と共に付加金の請求をするときは、付加金の価額に相当する印紙代の支払義務はないとしました*3。
この結果、例えば、200万円の残業代に加え、同額の付加金を請求した場合、2万5千円ではなく、1万5千円の印紙代で足りることになります。
額としては1万円の差ですが、手続費用の負担が低くなることは、訴訟提起の心理的ハードルが下がることにつながる可能性があります。
いずれにしても、付加金という制度によって、自社に大きなリスクが生じないよう、労務管理には細心の注意を払うようにしてください。
(弁護士 國安耕太)
*1
労働基準法114条
裁判所は、第二十条、第二十六条若しくは第三十七条の規定に違反した使用者又は第三十九条第七項の規定による賃金を支払わなかつた使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。ただし、この請求は、違反のあつた時から二年以内にしなければならない。
*2
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/112/085112_hanrei.pdf
*3
なお、付加金の規定について、「労働者の保護の観点から、割増賃金等の支払義務を履行しない使用者に対し一種の制裁として経済的な不利益を課すこととし、その支払義務の履行を促すことにより上記各規定の実効性を高めようとするもの」としています。
助成金活用のススメ
先日、東京都が、国のキャリアアップ助成金(正規雇用等転換コース)に上乗せして助成金を支給するとの報道がありましたが、その支給要件等が公表されました*1。
主な支給要件は、
(1)東京労働局管内に事業所があること
(2)国のキャリアアップ助成金(正規雇用等転換コース)の支給決定を受けること
です。
つまり、いまなら、契約社員を正規雇用(正社員)に転換した場合、
国のキャリアアップ助成金(1人当たり50万円)に加えて、東京都正規雇用転換促進助成金(1人当たり50万円)の合計100万円(中小企業の場合)の助成金の支給を受けることができる可能性があるということになります。
なお、国のキャリアアップ助成金(正規雇用等転換コース)は、正規雇用等転換制度を就業規則に規定し、アルバイトや契約社員等を正規雇用等に転換した事業所に助成されます*2。
ただし、
・転換日前後6か月に事業主都合の解雇等がある
・時間給が最低賃金を下回っている
・残業等の未払いがある
等の場合は、支給を受けることができませんので、注意が必要です。
助成金を申請するためには、揃えなければならない必要書類が多く、手続きも複雑です。
助成金の申請を検討する場合には、まずは、社会保険労務士等の専門家に相談してみることをお勧めします。
(弁護士 國安耕太、社会保険労務士 村中幸代)
*1
http://www.hataraku.metro.tokyo.jp/koyo/hiseiki/tenkan/index.html
*2
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/part_haken/jigyounushi/career.html
ストレスチェック制度の義務化(省令、告示、指針の公表)
繰り返しお伝えしているところですが、本年12月1日から、労働者を常時50人以上使用する事業場は、ストレスチェック制度が義務化されます(改正労働安全衛生法第66条の10・附則第4条)*1*2。
ストレスチェック制度とは、従業員の心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)や、検査結果に基づく医師による面接指導の実施等を事業者に義務付ける制度です。
このストレスチェック制度に関し、先日(平成27年4月15日)、厚生労働省から具体的な運用方法を定めた省令、告示、指針が公表されました*3。
詳細は、厚生労働省のホームページでご確認いただければと思いますが、検査の実施については、つぎのとおり規定されています。
・①職場におけるストレスの原因に関する項目、②ストレスによる心身の自覚症状に関する項目、③職場における他の労働者による支援に関する項目について、毎年1回定期的に検査を行わなければならない。
・検査の実施者は、医師または保健師のほか、厚生労働大臣が定める一定の研修を修了した看護師または精神保健福祉士とする。
・検査を受ける労働者について、解雇などの直接的な人事権を持つ監督者は、検査の実施の事務に従事してはならない。
・事業者は、労働者の同意を得て、検査の結果を把握した場合、この結果の記録を作成し、5年間保存しなければならない。
・検査結果は、検査の実施者から、遅滞なく労働者に通知しなければならない。
・検査の実施者が、検査結果を事業者に提供することについて、労働者から同意を取得する場合は、書面または電磁的記録によるものでなければならない。
このように検査の実施だけをみても、会社は多くの規定事項を踏まえて実施いなければなりません。
そのため、多くの会社では、独自でシステムを構築するのではなく、EAP(Employee Assistance Program:メンタル面から従業員を支援するプログラム)を提供する専門会社の支援を受けることになると思います。
ただ、EAP会社の質や料金には、かなり差がありますので、導入の際には注意深く検討するようにしてください。
(社会保険労務士 村中幸代、弁護士 國安耕太)
*1
*3
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000082587.html
無期転換の例外
今月1日から、専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法(有期雇用特別措置法)が施行されています(*1)。
これは、同一の使用者との間で有期労働契約が繰り返し更新されて通算5年を超えた場合は、労働者の申込により、無期労働契約に転換されるという労働契約法18条(*2)の例外を定めたものです。
特例の対象者は、
①「5年を超える一定の期間内に完了することが予定されている業務」に就く専門的知識等を有する有期雇用労働者(有期雇用特別措置法2条3項1号)
および
②定年後に有期契約で継続雇用される高齢者(有期雇用特別措置法2条3項2号)
です。
つぎに、特例の効果は、つぎの各期間、無期転換申込権が発生しないというものです(有期雇用特別措置法8条)。
①専門的知識等を有する有期雇用労働者については、一定の期間内に完了することが予定されている業務に就く期間(ただし、上限10年)
②定年後に有期契約で継続雇用される高齢者については、定年後引き続き雇用されている期間
ただし、いずれも、雇用管理に関する措置についての計画を作成し、これを厚生労働大臣に提出して、当該計画が適当である旨の認定を受けていることが条件となります。
また、専門的知識等を有する有期雇用労働者には、博士の学位を有する者や弁護士・税理士等の士業の他、大学卒で5年以上の実務経験を有するシステムエンジニア等も含まれています。
ただ、年収1075万円以上との要件も課されていますので、対象は相当限定されると思われます。
以上のとおり、無期転換の例外は、かなり範囲を限定されています。
システムエンジニアだから、技術者だから、という理由で無期転換を拒むことはできませんので、ご注意ください。
(弁護士 國安耕太)
*1
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000075676.pdf
http://hyogo-roudoukyoku.jsite.mhlw.go.jp/hourei_seido_tetsuzuki/roudoukijun_keiyaku/roudoukeiyakuhou/yuukitokusohou.html
*2
労働契約法18条1項
「同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除く。以下この条において同じ。)の契約期間を通算した期間(次項において「通算契約期間」という。)が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。この場合において、当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件(当該労働条件(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とする。」
メンタルヘルス対策の重要性
労働安全衛生法が改正され、今年12月1日より従業員の医師・保健師などによるストレスチェックが義務化されることに伴い、従業員のメンタルヘルス対策が脚光を浴びています。
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/kouhousanpo/
パワハラによって、従業員のメンタルヘルスに問題が生じると、うつ病に罹患したり、最悪の場合自殺を図るなどの重大な結果が生じることさえあります。
このような場合、パワハラに直接の責任がある上司等だけでなく、会社自体も損害賠償責任を負う可能性があります。
これは、労働契約法5条において「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。 」と定められていることなどから、会社は従業員が心身ともに安全に仕事ができる環境を整える義務があるとされていることによります。
そのため、パワハラ事案では、会社側が高額の賠償を命じられる事例も相次いでいます。
平成27年3月18日、病院に勤務する医師に対するパワハラによる自殺が問題となった事件において広島高等裁判所松江支部は、病院の運営者に約1億円の支払を命じました。
http://www.nnn.co.jp/news/150319/20150319008.html
また、平成27年1月13日、金融機関に勤務する営業担当職員に対するパワハラによる自殺が問題となった事件において甲府地方裁判所は、金融機関に対し約3480万円の支払を命じています。
http://www.47news.jp/CN/201501/CN2015011301002529.html
今年の12月以降、同種の裁判では、会社側が法令に従ったメンタルヘルス対策をきちんと実行していたかも大きな争点となるでしょう。メンタルヘルス対策の強化は、従業員の生命・健康を守るという観点からだけでなく、多額の損害賠償請求を回避するという観点からもますます重要性が増しているといえます。
(弁護士南部弘樹)
暴力団排除条例と賃貸借契約
東京でも桜が満開ですね。
当事務所の目の前は防衛省なのですが、ここの桜も綺麗に咲いています。
さて、当職は、平成25年12月11日に、DIAMOND online 「知らなきゃマズい!法律知識の新常識」に、「マンションのお隣さんが“反社”だったら?正当な賃貸契約解除方法と距離の置き方」を寄稿しました*1。
*1 http://diamond.jp/articles/-/45797
この中で、「特段問題行動がなく平穏に住居として使用している場合、暴力団員であるというだけで、賃貸借契約を解消することは困難」であり、そのためにも「賃貸借契約書には、必ず暴力団排除条項を設け、相手方が暴力団員等である場合は、そのことだけで契約を解除できるようにしておくことが重要」であると解説しました。
そして、実際に先日(平成27年3月27日)、最高裁は、賃貸人が「暴力団員であることが判明したとき(同居者が該当する場合を含む。)。」には、「住宅の明渡しを請求することができる。」との条項を根拠に、賃借人である暴力団員に対し、賃貸借契約の解除および建物の明渡しを求めた事案において、賃貸人の請求を認める判断をしました*2。
*2 http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/994/084994_hanrei.pdf
本件は、賃貸人が地方公共団体であり、契約ではなく条例に基づいて賃貸されていたという特殊な事情はありますが、暴力団員であることのみを理由として賃貸借契約の解除が認められた事案として、一定の意義を有するといえます。
(なお、この事案で、賃借人側は、①本件規定は合理的な理由のないまま暴力団員を不利に扱うものであるから、憲法14条1項に違反する、②本件規定は必要な限度を超えて居住の自由を制限するものであるから、憲法22条1項に違反する等の主張をしていましたが、いずれも否定されています。)
賃貸借契約を締結する際は、暴力団排除条項を忘れずに規定するようにしてください。
(弁護士 國安耕太)
過労死と脳・心臓疾患の認定基準
先日(2015年3月4日)、2011年に26歳で亡くなった堺市の市立中学校の教諭が、公務災害(労災)による死亡と認定されたとの報道がありました。
*http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150304-00000024-asahi-soci
報道では、『同僚教員の証言などを元に推計した前田さんの死亡直前3カ月の校内での残業時間は月61~71時間だった。国の過労死認定基準(2カ月以上にわたり月平均80時間以上)を下回る数値だったが、残された授業や部活の資料などから、「(一人暮らしの)自宅でも相当量の残業をこなしていた」と判断し』過労死と認定されたとされています。
では、「国の過労死認定基準」とは、どのようなものなのでしょうか。
過労死の労災認定について、国(厚生労働省)は、「脳・心臓疾患の認定基準」を公表し、これに基づいて判断しています。
*http://www.mhlw.go.jp/houdou/0112/h1212-1.html
具体的には、
次の(1)、(2)又は(3)の業務による明らかな過重負荷を受けたことにより発症した脳・心臓疾患は、労基則別表第1の2第9号に該当する疾病として取り扱う。
(1)発症直前から前日までの間において、発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇したこと(異常な出来事)。
(2)発症に近接した時期において、特に過重な業務に就労したこと(短期間の過重業務)。
(3)発症前の長期間にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと(長期間の過重業務)。
とされています。
そして(3)長期間の過重業務については、
業務量、業務内容、作業環境等を考慮し、同僚等にとっても、特に過重な身体的、精神的負荷と認められるか否かという観点から、客観的かつ総合的に判断すること。
としたうえで、特に労働時間について、
①発症前1か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は、業務と発症との関連性が弱いが、おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できること
②発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できることを踏まえて判断すること。
としています。
そうすると、報道では、『死亡直前3カ月の校内での残業時間は月61~71時間」で、「国の過労死認定基準(2カ月以上にわたり月平均80時間以上)を下回る数値だったが、残された授業や部活の資料などから、「(一人暮らしの)自宅でも相当量の残業をこなしていた」』とされ、あたかも月61~71時間の残業に加え、相当量の残業をしていたことを根拠に特別に労災認定されたかのように読めますが、実際には、むしろ忠実に認定基準に沿って判断されたということが分かります。
以上のとおり、脳・心臓疾患の労災認定は、あくまでも総合判断です。
1か月あたり45時間を超える時間外労働が認められない場合であっても、異常な出来事や短期間の過重業務があれば、労災認定される可能性もあります。
1か月あたりの時間外労働が45時間以上とならないよう注意することは、もちろん重要ですが、これだけにとらわれず、職場環境の改善に努めるようにしてください。
(弁護士 國安耕太)
労災と遺族補償給付(続報)
先日(平成27年2月5日)、労災と遺族補償給付との相殺の方法に関し、近日中に最高裁の判断が示される旨をブログに掲載しました(*1)。
この件に関し、昨日(平成27年3月4日)、最高裁は、「被害者が不法行為によって死亡した場合において、その損害賠償請求権を取得した相続人が遺族補償年金の支給を受け、又は支給を受けることが確定したときは、損害賠償額を算定するに当たり、上記の遺族補償年金につき、その塡補の対象となる被扶養利益の喪失による損害と同性質であり、かつ、相互補完性を有する逸失利益等の消極損害の元本との間で、損益相殺的な調整を行うべきものと解するのが相当である。」との判断を示し、従来の最高裁判例を変更しました(*2)。
この事案では、地裁判決は、賠償額にかかる遅延損害金から遺族補償給付を差し引くという処理をしましたが、二審の高裁判決では、元本から遺族補償給付を差し引くという処理をしました。
遅延損害金は、元本の額によって大きく増減するため、遅延損害金と元本のいずれから差し引くのかによって、被害者が受領できる金銭の額に大きな差異が生じます。
本判決は、その意味で実務上非常に大きな意味を持つものといえます。
なお、本判決は、上記損益相殺の対象に関する判断の他、「被害者が不法行為によって死亡した場合において、その損害賠償請求権を取得した相続人が遺族補償年金の支給を受け、又は支給を受けることが確定したときは、制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り、その塡補の対象となる損害は不法行為の時に塡補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整をすることが公平の見地からみて相当であるというべきである」との判断も示しています。
遺族補償給付は、元本から差し引くものであるとしても、不法行為(事故)の発生と実際に遺族補償給付がなされるまでにはタイムラグがあります。
そして、「不法行為による損害賠償債務は、不法行為の時に発生し、かつ、何らの催告を要することなく遅滞に陥る」(最判昭和37年9月4日民集16巻9号1834頁)とされています。
そのため、不法行為の発生と現実に遺族補償給付を受けられるまでの間は、遅延損害金が発生するのではないか、との疑問が生じます。
そこで、最高裁は、この点について「不法行為の時に塡補された」ものと評価する旨を明確にしました。
今後、様々なところで詳細な分析がなされると思いますが、実務上重要な意義を持つ判決ですので、ご紹介いたします。
*1
https://north-blue-law.com/blog-child/%e5%8a%b4%e7%81%bd%e3%81%a8%e9%81%ba%e6%97%8f%e8%a3%9c%e5%84%9f%e7%b5%a6%e4%bb%98%e3%81%a8%e3%81%ae%e7%9b%b8%e6%ae%ba%e3%81%ae%e6%96%b9%e6%b3%95/
*2
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/909/084909_hanrei.pdf
セクハラ発言と懲戒処分
昨日(平成27年2月26日)、最高裁で、職場における性的な発言等のセクシュアル・ハラスメント等を理由としてされた懲戒処分(出勤停止30日等)を有効とする判決が出されました。
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/883/084883_hanrei.pdf
原審は、被害者が明白な拒否の姿勢を示しておらず、加害者である上司が性的な言動も被害者から許されていると誤信していたこと等を、加害者に有利な事情として取扱いました。
これに対し、最高裁は、「職場におけるセクハラ行為については、被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも、職場の人間関係の悪化等を懸念して、加害者に対する抗議や抵抗ないし会社に対する被害の申告を差し控えたりちゅうちょしたりすることが少なくないと考えられること」や性的な言動の内容等に照らせば、加害者に有利な事情として取り扱うことはできないと判断しています。
また、原審は、懲戒を受ける前にセクハラに対する懲戒に関す会社の具体的な方針を認識する機会がなく、事前に会社から警告や注意等を受けていなかったことを加害者に有利な事情として取扱いましたが、最高裁は、これらについても加害者に有利な事情として取り扱うことはできないと判断しています。
本件の特色は、主として、
①性的な発言を理由に出勤停止という懲戒処分を行い、これが懲戒権の濫用にはあたらないと判断されたこと
②加害者側の認識がどのようなものであったのかを加味せず、加害者の行為を中心に判断していること
にあります。
本件は、あくまでも事例判断ですが、最高裁が、セクハラに関する厳しい処分を有効としたことをうけ、今後は、雇用主である会社に、より一層積極的な対応が求められるでしょう。
(弁護士 國安耕太)
労災と遺族補償給付との相殺の方法
昨日(平成27年2月4日)、日経新聞につぎの記事が掲載されていました。
「労災で損害賠償が認められた場合に、別に支払われる遺族補償給付との相殺の方法が問題になった訴訟の上告審で、最高裁大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)は4日、当事者双方の意見を聞く弁論を開いた。相殺方法次第で総受取額が変わるが、過去の最高裁判決は割れており、大法廷が統一判断を示す見通し。判決期日は後日指定される。」
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG04HA7_U5A200C1CR8000/
実は、この事件、地裁判決は、賠償額にかかる遅延損害金から遺族補償給付を差し引くという処理をしましたが、二審の高裁判決では、元本から遺族補償給付を差し引くという処理をしました。
これによって、生じる遅延損害金の額が大きく異なってきます(後者の場合、前者よりも約1600万円少なくなります。)。
そのため、いずれの計算式が適用されるのかは、実務的に大きな意味を持ちます。
最高裁の判断が楽しみです。
(弁護士 南部弘樹)
トイレの設置義務?!
みなさん。
みなさんの会社では、男性用のトイレと女性用のトイレを、きちんと分けていますか?
実は、厚生労働省令(労働安全衛生規則628条および事務所衛生基準規則17条)では、トイレの設置基準が定められています*。
これらの規定では、男性用のトイレと女性用のトイレを区別することや、雇用する労働者の数に応じて、一定の個数を設けること等が定められています。
具体的には、
①男性用と女性用に区別すること(1号)
②男性用大便所の便房の数は、同時に就業する男性労働者60人以内ごとに1個以上とすること(2号)
③男性用小便所の箇所数は、同時に就業する男性労働者30人以内ごとに1個以上とすること(3号)
④女性用便所の便房の数は、女性労働者20人以内ごとに1個以上とすること(4号)
とされています。
つまり、女性労働者20人以内ごとに1個とされていますので、40人でも2個でよいことになります(絶対に足りないと思いますが・・・。)。
労働者のトイレ環境を整えることまで義務付けられるのは、大変とは思いますが、 貴社の事務所が基準を満たしているか、一度確認してみてください。
(社会保険労務士 村中幸代)
*事務所衛生基準規則は、事務作業に従事する労働者が主として使用する事務所に適用され、それ以外の事務所については、労働安全衛生規則が適用されます(事務所衛生基準規則1条)。
妊娠による降格の可否(続報)
昨年10月(平成26年10月23日)、妊娠による降格に関し、最高裁判決が出されました。
詳細は、過去ブログ(https://north-blue-law.com/blog-child/%e5%a6%8a%e5%a8%a0%e3%81%ab%e3%82%88%e3%82%8b%e9%99%8d%e6%a0%bc%e3%81%ae%e5%8f%af%e5%90%a6/)をご覧いただければと思いますが、同判決は、妊娠による降格を原則として無効とし、例外的に有効となる一般的な基準を示した点で、非常に大きな意義を有する判決でした。
そして、今般、同判決を受けて、厚生労働省が、妊娠・出産、育児休業等を理由とする不利益取扱いに関する解釈通達(平成27年1月23日付け)を発出しています(http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou
_roudou/koyoukintou/danjokintou/index.html)。
厚生労働省の発表によれば、上記解釈通達は、同判決に沿って、妊娠・出産、育児休業等を「契機として」なされた不利益取扱いは、原則として法が禁止する妊娠・出産、育児休業等を「理由として」行った不利益取扱いと解されるということを明確化したものとされています。
また、例外的に、不利益取扱いにあたらない場合も明記されています。
例外1:①円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障があるため当該不利益取扱いを行わざるを得ない場合において、②その業務上の必要性の内容や程度が、法第九条第三項の趣旨に実質的に反しないものと認められるほどに、当該不利益取扱いにより受ける影響の内容や程度を上回ると認められる特段の事情が存在すると認められるとき
例外2:①契機とした事由又は当該取扱いにより受ける有利な影響が存在し、かつ、当該労働者が当該取扱いに同意している場合において、
②当該事由及び当該取扱いにより受ける有利な影響の内容や程度が当該取扱いにより受ける不利な影響の内容や程度を上回り、当該取扱いについて事業主から労働者に対して適切に説明がなされる等、一般的な労働者であれば当該取扱いについて同意するような合理的な理由が客観的に存在するとき
ポイントは、
・業務上の必要性から不利益取扱いを行わざるを得ないこと、および不利益取扱いをすべき特段の事情が存すること(例外1)
・労働者が不利益取扱いに同意していること、および当該同意に、合理的な理由が客観的に存在すること(例外2)
です。
今後は、上記基準を十分に理解し、考慮したうえで、人事規定を運用するようにしてください。
(弁護士 國安耕太)
本年12月からストレスチェックが義務化されます!
本年12月から、労働者を常時50人以上使用する事業場は、ストレスチェックの実施が義務となります(改正労働安全衛生法第66条の10・附則第4条)。
では、正社員以外の契約社員についてもストレスチェックを実施する義務があるのでしょうか。
また、週に1日しか働かないようなアルバイトやパートについてはどうでしょうか?
昨年12月17日に発表された厚生労働省労働基準局安全衛生部の検討会報告書によれば、ストレスチェックの対象となる労働者の範囲は、現行の一般定期健康診断の対象者の取扱いを参考とし、これと同様とすることが適当とされています。(http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000069013.html)
すなわち、現行の一般定期健康診断は、
① 期間の定めのない契約により使用される者(期間の定めのある契約により使用される者の場合は、1年以上使用されることが予定されている者及び更新により1年以上使用されている者)であって、その者の1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上の者は義務の対象となる。
② 1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の概ね2分の1以上の者についても、対象とすることが望ましい。
とされています。
そこで、これを元にストレスチェック義務の有無を考えれば、
契約社員の場合は、
㋐1年以上使用されることが予定されている者または更新により1年以上使用されている者
であって、
㋑通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上労働している者
であれば、対象となります。
アルバイトの場合は、
㋑通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上労働している者
であれば、対象となります。
よって、週に1日しか働かないようなアルバイトやパートについては、ストレスチェックを実施する義務がないことになります。
ストレスチェックの義務化について、質問・疑問等ございましたら、お気軽にご相談ください。
(社会保険労務士 村中幸代、弁護士 國安耕太)
「雇用契約書」を作成しよう!
皆様の会社は、「雇用契約書」を作成していますか?
労働契約は、口頭でも成立します。
しかし、労働基準法上、労働者を採用するときは、賃金や労働時間等の労働条件を、書面で明示することが求められています(法15条1項、労働基準法施行規則5条3項)。
法律上は、あくまでも書面で明示することが求められているだけですが、労働者が労働条件の明示を受けたことを明確にするためにも、雇用契約書を作成するようにしてください。
また、すでに「雇用契約書」を作成している事業主さんは、つぎの項目が「雇用契約書」に記載されているかチェックしてみて下さい。
①労働契約の期間に関する事項
②就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
③始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、並びに労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
④賃金の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締めきり及び支払いの時期に関する事項
⑤退職に関する事項(解雇の事由を含む)
もし、1つでも記載が漏れていましたら、労働基準法違反です。
30万円以下の罰金という刑事罰も定められていますし(法120条1号、15条1項)、労働者とトラブルとなる可能性を高めることになりますので、速やかに修正するようにしてください。
(社会保険労務士 村中幸代)
助成金の活用をしよう!
助成金を申請してみませんか?
今、中小企業に人気の助成金が「キャリアアップ助成金」です。
例えば、期間を定めて雇用している労働者を、正社員に転換させた場合、1人あたり50万円(大企業は40万円)が国から助成されます(1年度1事業所当たり15人まで。)。
労働者が1人しかいない会社や個人事業主でも、条件にあてはまれば助成金を貰える可能性があります。
また、交付された助成金は、会社が自由に利用することができます。
従業員の福利厚生、営業活動、修繕費等用途は問いません。
ぜひ、助成金の活用を検討してみてください。
なお、助成金の申請は、要件が複雑で、そもそも対象となっているのかが分からないこともあります。
また、必要書類が多く、手続きが複雑な場合もあります。
「助成金を申請してみたいけど、どうすればいいかわからない。」「手続が面倒」と思われる方は、当職が申請を代行することも可能ですので、ぜひ一度当職までお問い合わせ下さい。
(社会保険労務士 村中幸代)
妊娠による降格の可否
すでにニュース等になっていますが、昨日(平成26年10月23日)、妊娠による降格に関し、最高高裁判決が出されました。
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/577/084577_hanrei.pdf
判決の枠組みはつぎのとおりです。
①女性労働者につき妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は、原則として違法
⇒
「一般に降格は労働者に不利な影響をもたらす処遇であるところ、上記のような均等法1条及び2条の規定する同法の目的及び基本的理念やこれらに基づいて同法9条3項の規制が設けられた趣旨及び目的に照らせば、女性労働者につき妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は、原則として同項の禁止する取扱いに当たる」
②例外的に、㋐当該労働者が、真に降格を承諾したとき、および㋑特段の事情が存在するときは、例外的に適法
⇒
㋐「当該労働者が軽易業務への転換及び上記措置により受ける有利な影響並びに上記措置により受ける不利な影響の内容や程度、上記措置に係る事業主による説明の内容その他の経緯や当該労働者の意向等に照らして、当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき」
㋑「事業主において当該労働者につき降格の措置を執ることなく軽易業務 への転換をさせることに円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障がある場合であって、その業務上の必要性の内容や程度及び上記の有利又は不利な影響の内容や程度に照らして、上記措置につき同項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するとき」
は、同項の禁止する取扱いに当たらない
今後、様々な方が、詳細な分析をされると思いますが、妊娠による降格を原則として無効とし、例外的に有効となる一般的な基準を示した点で、非常に大きな意義を有する判決であるといえます。
みなさまの会社におかれましても、これを機に社内の人事規定について見直しをしてみることをお勧めいたします。
(弁護士 國安耕太)
会社の労務管理と取締役の責任
1 10月30日(水)午後6時30分から東京都港区新橋1-18-19キムラヤオオツカビル7階JWAグループセミナールームにて、第3回労務管理セミナー『社長さん必見!会社を守るための「健康管理と労災補償・損害賠償の実務」』を開催いたします。
残席にまだ余裕がありますので、お時間のある方は、お誘い合わせのうえ、ぜひご参加ください。
2 さて、上記セミナーでも取り上げますが、先日、居酒屋チェーンの男性従業員(当時24歳)が死亡したのは過労が原因であるとして、当該従業員の遺族が、T社および役員個人に対し、損害賠償を求めた事案に関し、最高裁はT社らの上告を棄却する判決を下しました(平成25年9月24日)。
これにより、T社に対して合計約7800万円の支払いを命じた京都地裁判決(平成22.5.25、労判1011号35頁)、大阪高裁判決(平成23.5.25、労判1033号24頁)が確定しました。
3 過重労働が原因で、従業員が死傷した場合、従業員ないしその家族は、会社に対し、不法行為を理由とする損害賠償請求(民法709条)をすることができます。
また、債務不履行(安全配慮義務違反)を理由とする損害賠償請求(民法415条)をすることもできます。安全配慮義務とは、判例上、「労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命および身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務」(最判昭和59.4.10、民集38-6-557、川義事件)とされてきたもので、現在では、労働契約法5条に「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と定められています。
本件でも、原告となった従業員の遺族は、不法行為および債務不履行(安全配慮義務違反)を根拠に損害賠償を求めていましたが、京都地裁は、「被告会社は、労働者であるAを雇用し、自らの管理下におき、a駅店での業務に従事させていたのであるから、Aの生命・健康を損なうことがないよう配慮すべき義務を負っていたといえる。具体的には、Aの労働時間を把握し、長時間労働とならないような体制をとり、一時、やむを得ず長時間労働となる期間があったとしても、それが恒常的にならないよう調整するなどし、労働時間、休憩時間及び休日等が適正になるよう注意すべき義務があった。」としたうえで、「給与体系において、本来なら基本給ともいうべき最低支給額に、80時間の時間外労働を前提として組み込んでいた」、「三六協定においては1か月100時間を6か月を限度とする時間外労働を許容しており、実際、特段の繁忙期でもない4月から7月までの時期においても、100時間を超えるあるいはそれに近い時間外労働がなされており、労働者の労働時間について配慮していたものとは全く認められない」等の事実を認定し、「被告会社が、Aの生命、健康を損なうことがないよう配慮すべき義務を怠り、不法行為上の責任を負うべきであることは明らかである。」として、不法行為を理由とする損害賠償請求を認めました(大阪高裁、最高裁もかかる判断を支持しています。)。
4 さらに、本件訴訟では、上記のとおり、T社のみならず、T社の役員個人に対しても、会社法429条1項に基づく損害賠償義務を認めました。
会社法429条1項は「役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。」と規定していますが、過重労働によって従業員が死亡した事案に関し、取締役の個人責任が認められるのは、非常に珍しいといえます。
ただ、本件では、上述のとおり、給与体系において、最低支給額に80時間の時間外労働を前提として組み込んでいたり、三六協定においては1か月100時間を6か月を限度とする時間外労働を許容している等、労務管理の制度設計からして不備があるとされても仕方がないような体制を取っていました。
そうであるからこそ、京都地裁も、「被告取締役らにおいて、労働時間が過重にならないよう適切な体制をとらなかっただけでなく・・・一見して不合理であることが明らかな体制をとっていたのであり、それに基づいて労働者が就労していることを十分に認識し得たのであるから、被告取締役らは、悪意又は重大な過失により、そのような体制をとっていたということができ、任務懈怠があったことは明らかである。」として、取締役個人の責任を認めたものと考えられます。
5 このように、昨今では、会社だけでなく、取締役等の役員個人に対する損害賠償訴訟も提起されるようになってきました。そして、実際に損害賠償請求が認められる事案も出てきています。
会社にとって、事前に専門家によるチェックを受け、適正な労務管理を行うことは喫緊の課題ですが、会社のみならず、取締役個人にとっても、適正な労務管理を行うことが直接的かつ重要な意味を持つ時代となったといえるでしょう。
(弁護士 國安耕太)
ブラック企業と経営者
先日、「ブラック企業大賞2013」の授賞式が開催され、大賞は大手居酒屋チェーンを経営するW社が受賞したようです。
ブラック企業について、明確に定義されているわけではありませんが、ウィキペディアでは、「広義には入社を勧められない労働搾取企業を指す。すなわち、労働法やその他の法令に抵触し、またはその可能性があるグレーゾーンな条件での労働を、意図的・恣意的に従業員に強いたり、関係諸法に抵触する可能性がある営業行為や従業員の健康面を無視した極端な長時間労働(サービス残業)を従業員に強いたりする、もしくはパワーハラスメントという暴力的強制を常套手段としながら本来の業務とは無関係な部分で非合理的負担を与える労働を従業員に強いる体質を持つ企業や法人(学校法人、社会福祉法人、官公庁や公営企業、医療機関なども含む)のことを指す」とされています。
私たち外部の人間には、ブラック企業大賞を受賞したW社が本当にブラック企業かどうかはわかりません。
しかし、仮に使用者である企業が、長時間のサービス残業を従業員に強いているとすれば、未払残業代(労基法37条1項)や付加金(労基法114条)を請求することができますし、長時間労働により身体に異常が生じたような場合には、安全配慮義務違反を根拠に損害賠償請求(民法709条)をすることができます。
また、サービス残業については「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」が労働基準局長通達(平成13年4月6日基発339号)として出されています。この通達では労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置として、始業・終業時刻の確認及び記録等が挙げられています。これに関連して、タイムカードによる労働時間の記録がある場合には、使用者による適切な反証がない限り、その記録に従って時間外労働の時間を算定するとの裁判例(丸栄西野事件、大阪地判平成20・1・11、労判957-5)もあります。サービス残業に対する裁判所の姿勢は近年厳しくなっているといえましょう。
さらには、悪質なサービス残業の事例では、労働基準監督署の立入検査や是正勧告を受けている場合もあります。
また、刑罰の対象にもなりえます。たとえば、残業代不払いの場合は、労基法24条に違反し、30万円以下の罰金となり(労基法120条)、36協定の締結がないのに時間外労働をさせた場合には、労働基準法32条に違反し、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金となります(労基法119条)。
昨今では、ひとたびニュースとなれば半永久的にネットに残り続けますから、万一これらの処分を受けて公表されると、企業にとって大きなダメージとなります。
さらに、パワーハラスメントについては、加害者である上司や同僚に対する慰謝料請求(民法709条)だけでなく、労働契約上の安全配慮義務違反を根拠に、企業に対し、損害賠償請求することも考えられます。現に川崎市水道局事件(東京高判平成15・3・25、労判849-87)では、使用者である川崎市に、安全配慮義務違反を理由とした国家賠償法上の責任が認められました。
このように、現代社会においては、昔と同じように従業員に働いてもらっていたにもかかわらず、突然ネット上でブラック企業であると批判されたり、現実に従業員から訴訟を提起されることも珍しくありません。
そして、企業にとっては、このような批判をされたり、訴訟を提起されること自体がリスクとなり得ます。
企業の経営者としては、このような批判や訴訟を防止するため、事前に専門家によるチェックを受けることが必要不可欠な時代となったといえるでしょう。
(弁護士 國安耕太)