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平成29年度上半期最高裁判例ダイジェスト④
平成29年度上半期(1月~6月)に出された最高裁判決の中から、特に気になった判決を4週連続で、紹介していく企画の最後4週目です。
4つめの最高裁判決は、平成29年2月28日に出された賃金請求事件( 平成27年(受)第1998号)です。
この事案は、タクシー乗務員が、歩合給の計算に当たり残業手当等に相当する金額を控除する旨を定める賃金規則上の定めが無効であり、会社は控除された残業手当等に相当する金額の賃金の支払義務を負うと主張して、会社に対し、未払賃金等の支払を求めたものです。
まず、本判決は、
「(労働基準法37条は、)労働基準法37条等に定められた方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまり、使用者に対し、労働契約における割増賃金の定めを労働基準法37条等に定められた算定方法と同一のものとし、これに基づいて割増賃金を支払うことを義務付けるものとは解されない。」とし、必ずしも労働基準法37条等に定められた方法で割増賃金を算定しなければならないわけではないことを明らかにしました。
また、本件事案での計算方法については、「労働契約において売上高等の一定割合に相当する金額から同条に定める割増賃金に相当する額を控除したものを通常の労働時間の賃金とする旨が定められていた場合に、当該定めに基づく割増賃金の支払が同条の定める割増賃金の支払といえるか否かは問題となり得るものの、当該定めが当然に同条の趣旨に反するものとして公序良俗に反し、無効であると解することはできない」と判示しました。
そのうえで、「本件賃金規則における賃金の定めにつき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができるか否か、また、そのような判別をすることができる場合に、本件賃金規則に基づいて割増賃金として支払われた金額が労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かについて審理判断」すべきとして、審理を高裁に差戻しました。
以上のとおり、本件事案で未払賃金等の支払が認められるのかは定かではありませんが、労働基準法37条の解釈について、興味深い判示をしているため、紹介する次第です。
高裁で、どのような判断がなされるのか、楽しみです。
(弁護士 國安耕太)
*
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/544/086544_hanrei.pdf
※下記の日程で経営者勉強会を開催いたします。定員少数のため満席の場合はご容赦ください。
第14回経営者勉強会
日時:平成29年8月8日午前11時30分~午後1時
定員:7名
テーマ:債権回収の基本を習得する。経営者の陥る3つの落とし穴編。(第13回と同内容となります。)
参加費(昼食代):1500円
平成29年度上半期最高裁判例ダイジェスト③
平成29年度上半期(1月~6月)に出された最高裁判決の中から、特に気になった判決を4週連続で、紹介していく企画の3週目です。
3つめの最高裁判決は、平成29年4月6日に出された預金返還等請求事件( 平成28年(受)第579号)です。
この事案は、共同相続された定期預金債権および定期積金債権が、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるかが争われた事案です。
最高裁は、「定期預金については、預入れ1口ごとに1個の預金契約が成立し、預金者は解約をしない限り払戻しをすることができないのであり、契約上その分割払戻しが制限されているものといえる。そして、定期預金の利率が普通預金のそれよりも高いことは公知の事実であるところ、上記の制限は、一定期間内には払戻しをしないという条件と共に定期預金の利率が高いことの前提となっており、単なる特約ではなく定期預金契約の要素というべきである。」として、「共同相続された定期預金債権及び定期積金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである。」と判示しました*1。
なお、共同相続された普通預金債権および通常貯金債権についても、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるとされている(最決平成28年12月19日判タ1433号44頁*2)。
(弁護士 國安耕太)
*1
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/670/086670_hanrei.pdf
*2
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/354/086354_hanrei.pdf
※下記の日程で経営者勉強会を開催いたします。定員少数のため満席の場合はご容赦ください。
第13回経営者勉強会
日時:平成29年7月25日午前11時30分~午後1時
定員:7名
テーマ:債権回収の基本を習得する。経営者の陥る3つの落とし穴編。
参加費(昼食代):1500円
第14回経営者勉強会
日時:平成29年8月8日午前11時30分~午後1時
定員:7名
テーマ:債権回収の基本を習得する。経営者の陥る3つの落とし穴編。(第13回と同内容となります。)
参加費(昼食代):1500円
平成29年度上半期最高裁判例ダイジェスト②
平成29年度上半期(1月~6月)に出された最高裁判決の中から、特に気になった判決を今週から4週連続で、紹介していく企画の2週目です。
2つめの最高裁判決(決定)は、1つ目の最高裁判決と同じ平成29年1月31日に出された投稿記事削除仮処分決定認可決定に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件(平成28年(許)第45号)です。
この事案は、児童買春法*1違反で、罰金刑に処せられた者が、人格権ないし人格的利益に基づき、検索事業者に対し、自己のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURLならびに当該ウェブサイトの表題および抜粋を検索結果から削除することを求めたものです。
最高裁は、「個人のプライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益は、法的保護の対象となるというべきである」とする一方で、
「検索結果の提供は検索事業者自身による表現行為という側面を有する。」「検索事業者による検索結果の提供は、現代社会においてインターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果たしている。」とし、
「検索事業者による特定の検索結果の提供行為が違法とされ、その削除を余儀なくされるということは、上記方針に沿った一貫性を有する表現行為の制約であることはもとより、検索結果の提供を通じて果たされている上記役割に対する制約でもあるといえる。」ことから、
「検索事業者が、ある者に関する条件による検索の求めに応じ、その者のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等情報を検索結果の一部として提供する行為が違法となるか否かは、当該事実の性質及び内容、当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度、その者の社会的地位や影響力、上記記事等の目的や意義、上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化、上記記事等において当該事実を記載する必要性など、当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので、その結果、当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には、検索事業者に対し、当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当である。」と判示しました*2。
これまでもプライバシーの保護と表現の自由との衝突場面が争点となった事案がありますが、本件もその1つのメルクマールとなるといえます。
(弁護士 國安耕太)
*1
児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰および児童の保護等に関する法律
*2
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/482/086482_hanrei.pdf
平成29年度上半期最高裁判例ダイジェスト①
平成29年度上半期(1月~6月)に出された最高裁判決の中から、特に気になった判決を今週から4週連続で、紹介していこうと思います。
初めの最高裁判決は、平成29年1月31日に出された養子縁組無効確認請求事件(平成28(受)第1255号)です。
この事案は、A、X1、X2という3人の子供がいる甲が、Aの子どもであるY(甲からみれば孫。X1およびX2からみれば甥)と養子縁組をしたところ、X1およびX2が、本件養子縁組は、専ら相続税の節税のために行われたものであって、縁組をする意思を欠くものであると主張して、その無効確認を求めた事案です。
原審は、本件養子縁組は専ら相続税の節税のためにされたものであるとした上で、かかる場合は民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとして、X1らの請求を認容しました。
これに対し、最高裁は、
「養子縁組は、嫡出親子関係を創設するものであり、養子は養親の相続人となるところ、養子縁組をすることによる相続税の節税効果は、相続人の数が増加することに伴い、遺産に係る基礎控除額を相続人の数に応じて算出するものとするなどの相続税法の規定によって発生し得るものである。相続税の節税のために養子縁組をすることは、このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず、相続税の節税の動機と縁組をする意思とは、併存し得るものである。」
とし、
「専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。」
と判示しました*。
これまで実務で行われていた相続税の節税のために養子縁組をし、節税効果を発生させるというスキームが適法であることを追認するものにすぎませんが、適法であることが明確になったことで、今後このスキームを利用しようとするケースが増えてくるかもしれません。
ただ、養子縁組の効果は、相続税の節税にとどまらないため、きちんと専門家に相談し、そのメリット、デメリットを検討することをお勧めします。
(弁護士 國安耕太)
*
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/480/086480_hanrei.pdf
※下記の日程で経営者勉強会を開催いたします。定員少数のため満席の場合はご容赦ください。
第12回経営者勉強会
日時:平成29年7月11日午前11時30分~午後1時
定員:7名
テーマ:インターネットと特定商取引法等(第11回と同内容です。)
参加費(昼食代):1500円
【雑感】2つの最高裁判決
先日(平成27年12月16日)、最高裁で、2つの判決が出されました。
1つは、女性にのみ再婚禁止期間を設けている民法733条1項に関し、100日を超える部分が、憲法14条1項および24条2項に違反するというものです*1。
もう1つは、婚姻の際は、夫または妻の氏を称しなければならないとする民法750条が、憲法13条、14条1項および24条に違反しないとするものです*2。
判決の内容の詳細につきましては、様々な方が評釈等をしていますので、割愛しますが、いずれの判決も現行規定のままでなければならない、という判断をしたものではなく、どのような規定にするのかは立法府である国会の判断に委ねています。
たとえば、2つ目の判決では、「夫婦同氏制を規制と捉えた上、これよりも規制の程度の小さい氏に係る制度(例えば、夫婦別氏を希望する者にこれを可能とするいわゆる選択的夫婦別氏制)を採る余地がある点についての指摘をする部分があるところ、上記(1)の判断は、そのような制度に合理性がないと断ずるものではない。上記のとおり、夫婦同氏制の採用については、嫡出子の仕組みなどの婚姻制度や氏の在り方に対する社会の受け止め方に依拠するところが少なくなく、この点の状況に関する判断を含め、この種の制度の在り方は、国会で論ぜられ、判断されるべき事柄にほかならないというべきである。」とされています。
そのため、今後も、これらの点については、議論が続けられることになるのだろうと思います。
(弁護士 國安耕太)
*1
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/547/085547_hanrei.pdf
*2
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/546/085546_hanrei.pdf
最新判例のご紹介(債権譲渡と異議を留めない承諾について)
6月1日、長い間確立した判例がなかった「異議を留めない承諾」(民法468条1項)について最高裁の判断が示されましたので、ご紹介します。
民法467条1項は、「指名債権の譲渡は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。」と定めています。
そして民法468条1項は、「債務者が異議をとどめないで前条の承諾をしたときは、譲渡人に対抗することができた事由があっても、これをもって譲受人に対抗することができない。 」と定めています。
平たく言いますと
「AさんがB社から300万円を借りた。その後、AさんはB社に200万円を返済した。ところがその後B社からAさんに対し、「あなたに対する債権をC社に譲渡した。承諾書を同封したからからサインし、印鑑を押して返送してくれ。」との連絡があった。承諾書には簡単に「私はB社の私に対する下記債権を、B社がC社に譲渡することについて、承諾します。」などと書かれていただけだった。Aさんは深く考えずに言われるままに承諾書にサインし、印鑑を押して返送してしまった。」
という場合、C社はAさんに対して残りの100万円ではなく300万円全部を請求でき、AさんはC社に対し300万円を払わなければいけない、ということなのです。
つまり、AさんはB社にすでに払っていた200万円分はなかったものとしてC社に300万円を払わなければいけません。Aさんにとっては大事ですね。
もしAさんが200万円をすでに払っているということを主張したかったら、Aさんは「200万円をすでに払っています。」と主張すべきでした(これを「異議」といいます。)。
もちろん、AさんはB社に対しすでに払った200万円を返すよう請求できます。しかし、B社が素直に返すとは限りませんし、連絡が取れなくなったり倒産している可能性もあるでしょう。
また、C社が200万円はすでに返済されているという事情を知っていた場合には、Aさんは法律上C社に対して残りの100万円しか返済する義務はありません。しかし、これを立証するのは簡単とは限りません。
このような場合に、C社が事情を知らなくとも知らなかったことに過失があったとき、Aさんは300万円全額を払わなければいけないのか、残りの100万円で済むのか、長いこと見解が分かれていました。
この点について最高裁は、残りの100万円でよいとの判断を示しました。
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/133/085133_hanrei.pdf
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/134/085134_hanrei.pdf
ただ、この過失があったことをどうやって立証するかということについてはまだ問題が残されています。
内容がよく分からない書面には、安易にサインをしたり、印鑑を押さないということがまずは大切でしょう。
なお、民法468条1項は改正が議論されています。こちらの行方も注目されるところです。