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昨日(平成27年6月8日)、最高裁は、労働者災害補償保険法(労災保険法)に基づく療養補償給付等が労働基準法(労基法)75条に定める療養補償に該当するか否かに関し、初めての判断を示しました* 1。
労基法は、労基法75条1項に定める療養補償を受ける労働者が、療養開始後3年を経過しても疾病等が治らない場合、使用者は、平均賃金の1200日分を支払えば、解雇できる旨規定しています(労基法81条、75条1項、19条1項*2*3*4)。
他方、労災保険法に基づく療養補償給付は、使用者が、労働者に対し、直接支払うものではないため、労災保険法に基づく療養補償給付を受ける労働者は、この労基法75条1項に定める療養補償を受ける労働者に該当しないのではないか、という点が問題となりました。
原審(東京高判平成25年7月10日)は、労基法81条・75条1項が、労災保険法に基づく療養補償給付及び休業補償給付を受けている労働者については何ら触れていないこと等から、労災保険法に基づく療養補償給付を受ける労働者は、この労基法75条1項に定める療養補償を受ける労働者に該当しないと判断しました。
これに対し、最高裁は、
①業務災害に関する労災保険制度は、労基法により使用者が負う災害補償義務の存在を前提として、その補償負担の緩和を図りつつ被災した労働者の迅速かつ公正な保護を確保するため、使用者による災害補償に代わる保険給付を行う制度である
②労災保険法に基づく保険給付の実質は、使用者の労働基準法上の災害補償義務を政府が保険給付の形式で行うものである
としたうえで、
③労災保険法に基づく、療養補償給付を受ける労働者は、解雇制限に関する労基法19条1項の適用に関しては、労基法81条・75条1項に定める療養補償を受ける労働者に含まれる
と判断しました。
本判決を受けて、労災による休業がしにくくなるのではないか、といった論調も見られますが、そもそも打切り補償による解雇は労基法上認められているものであり、また、労災保険分は、全額事業主負担であることを考えれば、妥当な判断ではないかと思います。
なお、打切り補償による解雇の場合であっても、解雇である以上、解雇権濫用*5にあたらないことが前提となります(本件も、この点をさらに審理するため、差し戻されています。)。
(弁護士 國安耕太)
*1
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/148/085148_hanrei.pdf
*2労基法81条
「第七十五条の規定によつて補償を受ける労働者が、療養開始後三年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合においては、使用者は、平均賃金の千二百日分の打切補償を行い、その後はこの法律の規定による補償を行わなくてもよい。」
*3労基法75条1項
「労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかつた場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。」
*4労基法19条1項
「使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。」
*5労働契約法16条
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」