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平成29年度上半期最高裁判例ダイジェスト④

平成29年度上半期(1月~6月)に出された最高裁判決の中から、特に気になった判決を4週連続で、紹介していく企画の最後4週目です。

 

4つめの最高裁判決は、平成29年2月28日に出された賃金請求事件( 平成27年(受)第1998号)です。

 

この事案は、タクシー乗務員が、歩合給の計算に当たり残業手当等に相当する金額を控除する旨を定める賃金規則上の定めが無効であり、会社は控除された残業手当等に相当する金額の賃金の支払義務を負うと主張して、会社に対し、未払賃金等の支払を求めたものです。

 

まず、本判決は、

「(労働基準法37条は、)労働基準法37条等に定められた方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまり、使用者に対し、労働契約における割増賃金の定めを労働基準法37条等に定められた算定方法と同一のものとし、これに基づいて割増賃金を支払うことを義務付けるものとは解されない。」とし、必ずしも労働基準法37条等に定められた方法で割増賃金を算定しなければならないわけではないことを明らかにしました。

 

また、本件事案での計算方法については、「労働契約において売上高等の一定割合に相当する金額から同条に定める割増賃金に相当する額を控除したものを通常の労働時間の賃金とする旨が定められていた場合に、当該定めに基づく割増賃金の支払が同条の定める割増賃金の支払といえるか否かは問題となり得るものの、当該定めが当然に同条の趣旨に反するものとして公序良俗に反し、無効であると解することはできない」と判示しました。

 

そのうえで、「本件賃金規則における賃金の定めにつき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができるか否か、また、そのような判別をすることができる場合に、本件賃金規則に基づいて割増賃金として支払われた金額が労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かについて審理判断」すべきとして、審理を高裁に差戻しました。

 

以上のとおり、本件事案で未払賃金等の支払が認められるのかは定かではありませんが、労働基準法37条の解釈について、興味深い判示をしているため、紹介する次第です。

高裁で、どのような判断がなされるのか、楽しみです。

(弁護士 國安耕太)

 

*

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/544/086544_hanrei.pdf

 

※下記の日程で経営者勉強会を開催いたします。定員少数のため満席の場合はご容赦ください。

第14回経営者勉強会

日時:平成29年8月8日午前11時30分~午後1時

定員:7名

テーマ:債権回収の基本を習得する。経営者の陥る3つの落とし穴編。(第13回と同内容となります。)

参加費(昼食代):1500円

 

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平成29年度上半期最高裁判例ダイジェスト③

平成29年度上半期(1月~6月)に出された最高裁判決の中から、特に気になった判決を4週連続で、紹介していく企画の3週目です。

 

3つめの最高裁判決は、平成29年4月6日に出された預金返還等請求事件( 平成28年(受)第579号)です。

 

この事案は、共同相続された定期預金債権および定期積金債権が、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるかが争われた事案です。

 

最高裁は、「定期預金については、預入れ1口ごとに1個の預金契約が成立し、預金者は解約をしない限り払戻しをすることができないのであり、契約上その分割払戻しが制限されているものといえる。そして、定期預金の利率が普通預金のそれよりも高いことは公知の事実であるところ、上記の制限は、一定期間内には払戻しをしないという条件と共に定期預金の利率が高いことの前提となっており、単なる特約ではなく定期預金契約の要素というべきである。」として、「共同相続された定期預金債権及び定期積金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである。」と判示しました*1。

 

なお、共同相続された普通預金債権および通常貯金債権についても、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるとされている(最決平成28年12月19日判タ1433号44頁*2)。

(弁護士 國安耕太)

 

*1

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/670/086670_hanrei.pdf

 

*2

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/354/086354_hanrei.pdf

 

※下記の日程で経営者勉強会を開催いたします。定員少数のため満席の場合はご容赦ください。

 

第13回経営者勉強会

日時:平成29年7月25日午前11時30分~午後1時

定員:7名

テーマ:債権回収の基本を習得する。経営者の陥る3つの落とし穴編。

参加費(昼食代):1500円

 

第14回経営者勉強会

日時:平成29年8月8日午前11時30分~午後1時

定員:7名

テーマ:債権回収の基本を習得する。経営者の陥る3つの落とし穴編。(第13回と同内容となります。)

参加費(昼食代):1500円

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平成29年度上半期最高裁判例ダイジェスト②

平成29年度上半期(1月~6月)に出された最高裁判決の中から、特に気になった判決を今週から4週連続で、紹介していく企画の2週目です。

 

2つめの最高裁判決(決定)は、1つ目の最高裁判決と同じ平成29年1月31日に出された投稿記事削除仮処分決定認可決定に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件(平成28年(許)第45号)です。

 

この事案は、児童買春法*1違反で、罰金刑に処せられた者が、人格権ないし人格的利益に基づき、検索事業者に対し、自己のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURLならびに当該ウェブサイトの表題および抜粋を検索結果から削除することを求めたものです。

 

最高裁は、「個人のプライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益は、法的保護の対象となるというべきである」とする一方で、

「検索結果の提供は検索事業者自身による表現行為という側面を有する。」「検索事業者による検索結果の提供は、現代社会においてインターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果たしている。」とし、

「検索事業者による特定の検索結果の提供行為が違法とされ、その削除を余儀なくされるということは、上記方針に沿った一貫性を有する表現行為の制約であることはもとより、検索結果の提供を通じて果たされている上記役割に対する制約でもあるといえる。」ことから、

 

「検索事業者が、ある者に関する条件による検索の求めに応じ、その者のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等情報を検索結果の一部として提供する行為が違法となるか否かは、当該事実の性質及び内容、当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度、その者の社会的地位や影響力、上記記事等の目的や意義、上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化、上記記事等において当該事実を記載する必要性など、当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので、その結果、当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には、検索事業者に対し、当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当である。」と判示しました*2。

 

これまでもプライバシーの保護と表現の自由との衝突場面が争点となった事案がありますが、本件もその1つのメルクマールとなるといえます。

(弁護士 國安耕太)

 

*1

児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰および児童の保護等に関する法律

 

*2

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/482/086482_hanrei.pdf

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平成29年度上半期最高裁判例ダイジェスト①

平成29年度上半期(1月~6月)に出された最高裁判決の中から、特に気になった判決を今週から4週連続で、紹介していこうと思います。

 

初めの最高裁判決は、平成29年1月31日に出された養子縁組無効確認請求事件(平成28(受)第1255号)です。

 

この事案は、A、X1、X2という3人の子供がいる甲が、Aの子どもであるY(甲からみれば孫。X1およびX2からみれば甥)と養子縁組をしたところ、X1およびX2が、本件養子縁組は、専ら相続税の節税のために行われたものであって、縁組をする意思を欠くものであると主張して、その無効確認を求めた事案です。

 

原審は、本件養子縁組は専ら相続税の節税のためにされたものであるとした上で、かかる場合は民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとして、X1らの請求を認容しました。

 

これに対し、最高裁は、

「養子縁組は、嫡出親子関係を創設するものであり、養子は養親の相続人となるところ、養子縁組をすることによる相続税の節税効果は、相続人の数が増加することに伴い、遺産に係る基礎控除額を相続人の数に応じて算出するものとするなどの相続税法の規定によって発生し得るものである。相続税の節税のために養子縁組をすることは、このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず、相続税の節税の動機と縁組をする意思とは、併存し得るものである。」

とし、

「専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。」

と判示しました*。

 

これまで実務で行われていた相続税の節税のために養子縁組をし、節税効果を発生させるというスキームが適法であることを追認するものにすぎませんが、適法であることが明確になったことで、今後このスキームを利用しようとするケースが増えてくるかもしれません。

ただ、養子縁組の効果は、相続税の節税にとどまらないため、きちんと専門家に相談し、そのメリット、デメリットを検討することをお勧めします。

(弁護士 國安耕太)

 

*

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/480/086480_hanrei.pdf

 

※下記の日程で経営者勉強会を開催いたします。定員少数のため満席の場合はご容赦ください。

第12回経営者勉強会

日時:平成29年7月11日午前11時30分~午後1時

定員:7名

テーマ:インターネットと特定商取引法等(第11回と同内容です。)

参加費(昼食代):1500円

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盲導犬同伴の障害者の入店拒否に法的な罰則はあるか

当事務所の南部弘樹弁護士が、弁護士ドットコムの取材を受けました*1。

 

公益財団法人アイメイト協会が、盲導犬を連れている視覚障害者を対象に、今年3月に行った調査では、約9割が外出した際に「嫌な思い」をした経験があると回答したそうです。

 

身体障害者補助犬法では、盲導犬や聴導犬、介助犬(手や足が不自由になった人の日常生活を助けるよう訓練された犬)を身体障害者が同伴している場合、飲食店などの不特定かつ多数の人が利用する施設を管理する人に対して、原則として、『同伴を拒んではならない』としています(9条)*2。

 

しかし、この規定に違反したとしても、罰則はありませんので、実際には、同伴を拒まれるケースも多々あるようです。

 

ただ、日本は世界でもっとも速いスピードで高齢化が進んでおり、高齢化社会は障害者が急増する社会でもあります。

将来的には、障害者への配慮が、実はその店の収益に寄与する可能性は十分あります。

 

今後のビジネスにおいては、より一層バリアフリー、ユニバーサルデザイン*3という発想が求められることになるでしょう。

(弁護士 國安耕太)

 

*1

https://www.bengo4.com/other/1146/n_4721/

 

*2 身体障害者補助犬法9条

前二条に定めるもののほか、不特定かつ多数の者が利用する施設を管理する者は、当該施設を身体障害者が利用する場合において身体障害者補助犬を同伴することを拒んではならない。ただし、身体障害者補助犬の同伴により当該施設に著しい損害が発生し、又は当該施設を利用する者が著しい損害を受けるおそれがある場合その他のやむを得ない理由がある場合は、この限りでない。

 

*3

障害の有無等にかかわらず、すべての人にとって使いやすいようにはじめから意図してつくられた製品・情報・環境のデザインのこと

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障害者差別解消法および改正障害者雇用促進法の施行について

平成26年6月、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)が公布され、本年4月から施行されます。
これまで、いわゆる差別として典型的に考えられてきたものは、たとえば盲導犬を連れた障害者の入店拒否や障害を持つ児童の入学拒否など、障害を理由とする排除や制限でした。これは直接差別と呼ばれてきました。
しかし、この法律は直接差別だけでなく、障害者に合理的な配慮をしないことも差別にあたるとしています。
障害者差別解消法第8条2項は、「事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない。」としています(知的障害等により本人自らの意思を表明することが困難な場合には、その家族などが本人を補佐して意思の表明をすることもできるとされています。)。
難解な表現ですが、同法は、事業者に対して、単に直接差別をしないだけでなく、障害者が生活するにあたってのハードルを取り除くよう、民間事業者に合理的な配慮をするよう努力する義務を課しました。これは、単に機会の平等を確保するだけではなく、障害者が他の人々と同じ社会的活動を営めるようにしようという考え方に基づくものです。
つまり、単に入店拒否や入学拒否をしないというだけでは十分ではなく、たとえば施設を利用しようとする障害者を民間事業者はサポートしなければならないとしたのです。具体的には、店舗にスロープを設置すること、障害者が電車やバスへ乗車する際に職員などによる手助けをする体制を整えること、飲食店に入ろうとする車いす利用者のために段差解消のための渡し板を設置するなどの措置をとることなどが考えられます。
そして、直接差別だけでなく、このような合理的配慮をしないことも新たに差別に当たるとされることになったのです。

 

さらに、障害者雇用促進法が改正され、やはり今年4月から施行されます。これにより障害者を雇用している事業主に対しても合理的な配慮をする義務が課されました。
しかもこれは先ほど述べた障害者差別解消法とは異なり努力義務ではありません。事業主は努力するだけでは足りず、法的な義務として合理的な配慮をしなければならなくなりました。
具体的にどのようなことが求められるのかは今後の実務の蓄積を待つことになりますが、たとえば、車いすを利用する方に合わせて机や作業台の高さを調整することや、知的障害をもつ方に合わせて口頭だけでなく分かりやすい文書・絵図を用いて説明することなどが想定されています(なお、障害者が希望する措置が事業主にとって過重な負担に該当する場合は、希望どおりの措置を講じる義務まではありません。ただし、その場合であっても、障害者と話し合い、その意向を十分に尊重した上で、過重な負担にならない範囲で、合理的配慮に係る何らかの措置を講じる必要があるとされています。)。
近年、障害者の雇用は広がりを見せていますが、雇用している事業主としてはきめ細やかな対応をしなければ重大事故に繋がりかねません。そして、万一の事故の際、本年4月以降はこの合理的な配慮をしなかったことが事業主の損害賠償義務を肯定したり、賠償額が増額される要素となることが考えられます。
障害者を雇用している事業主の方は、障害者の方が安全な環境で働けているか、より注意を払わなければならない時代になったといえるでしょう。

(弁護士 南部弘樹)

 

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線路に立ち入り列車と衝突して鉄道会社に損害を与えた認知症の者の妻と長男の責任

新聞等で大きく報じられましたのでご存じの方も多いと思いますが、平成28年3月1日に責任無能力者の監督義務者等の責任について定めた民法714条について注目すべき最高裁判所の判例が出ています。
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=85714
そもそも「責任無能力者」という言葉自体なじみがないですが、「自己の行為の責任を弁識するに足る精神能力を有しない者」をいうとされています。それでもまだ日常用語からは離れていますが、具体的には重度の認知症や知的障害がある人などがあてはまります。
そして、報じられていますように、線路に立ち入り列車と衝突して鉄道会社に損害を与えた認知症の者の妻と長男の民法714条1項に基づく損害賠償責任が否定されました。これはどういうことでしょうか。
そもそも民法714条の1つ前に置かれている民法713条は、「精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わない。」としています。これは、先ほどの責任無能力者が他人に損害を与えても損害賠償をする義務はないとするものです。
しかし、これでは被害者が救済されません。そこで、今回問題となった民法714条が置かれています。
民法714条は「(1項)…責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。(2項) 監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。」としています。
つまり、責任無能力者は損害を賠償する義務はありませんが、この者を監督する義務を負う者は損害を賠償しなければいけません。
そして、先ほども触れましたとおり、最高裁判所は、線路に立ち入り列車と衝突して鉄道会社に損害を与えた認知症の者の妻と長男は民法714条に基づく損害賠償をする義務はないとしたのです。
判決文はかなり長いですが、簡単に要約するとその論理は以下のとおりです。
①本件における認知症の者の妻と長男は、いずれも民法714条1項にいう監督義務者ではない。民法の規定を分析すると、配偶者だったり、後見人だったからといって直ちに監督する義務があるという立場を民法が取っていると解釈することはできないからである。
②ただし、生活状況や心身の状況などとともに、精神障害者との親族関係の有無・濃淡、同居の有無その他の日常的な接触の程度、精神障害者の財産管理への関与の状況などその者と精神障害者との関わりの実情、精神障害者の心身の状況や日常生活における問題行動の有無・内容、これらに対応して行われている監護や介護の実態など諸般の事情を総合考慮して民法714条1項の監督義務者に準じて責任を負うことはある。しかし、本件においては認知症の者の妻と長男は諸般の事情を総合考慮しても民法714条1項の監督義務者に準じて責任を負うべきとはいえない。
本件の場合、損害賠償請求をしたのが大手の鉄道会社であり、また人がケガをしたり、亡くなったりしたという事案ではありませんでした。しかし、この判例の考え方は、被害者が個人であり、また被害者がケガをしたり、亡くなったりしたという事案にもあてはまります。
たとえば名古屋地方裁判所平成23年2月8日 判例時報2109号93頁は、以下のような事案です。
Aさん(責任無能力者)は、スーパー内のレジで、おつりを受け取るのを忘れたままその場から立ち去ろうとしました。これを見ていたBさんは、気づいてもらおうとAさんに声をかけ、手を伸ばしてAさんの肩に触れようとしました。ところが、Aさんは振り向きざまにBさんの両肩付近を押してBさんを突き飛ばし、レジに戻っておつりを受け取り、その場を立ち去りました。Bさんは、Aさんの行為により、右半身を床にたたきつけられ、右上腕骨頸部骨折、右大腿骨頸部骨折という大けがをしてしまいました。その後、Bさんは自宅付近で転倒して頭部を打撲し、外傷性硬膜下血腫により亡くなりました。Bさんの遺族はAさんの両親に対し、民法714条に基づく損害賠償請求をしました。
この事案で、裁判所はAさんの両親への損害賠償請求を認めませんでした。
理由は、Aさんの生活状況などを考えると、Aさんが第三者に危害を加える可能性があることを予想することは困難だった。そのため、Aさんの両親が、外出の際にはBさんに付添いをする等して、Aさんを保護監督すべき具体的必要性があった場合とは認めらられない。したがって、Aさんの両親に対して監督義務者に準ずるとして民法714条1項あるいは2項による損害賠償請求をすることはできないというものです。
とても悲しく、やりきれない事件です。裁判官も判決文で「本件事案の内容に鑑みれば、道義的には(Aさんの両親が)何らかの損害負担をすることが望ましいものである。」などとしています。しかし、このような場合であっても法律上は民法714条による損害賠償請求はできないというのが裁判所の立場です。
判例の立場がこのまま維持されるのであれば、必ずしも万全とはいえない場合もありえますが、保険で自衛するほかないのかもしれません。

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自動車保険契約の搭乗者傷害特約の適用範囲

先日(平成28年3月4日)、デイサービスの利用者(以下「A」)が送迎車から降車し着地する際に負傷したという事故(以下「本件事故」)が、自動車保険契約の搭乗者傷害特約(以下「本件特約」)における車両の運行に起因するものとはいえないとして、保険会社の、入通院保険金受領者(その後、Aが死亡したため、Aの遺族)に対する不当利得返還請求を認める判決が出されました*。

 

本件の事案はつぎのとおりです。

・本件特約は、車両の運行に起因する事故により、その搭乗者が身体に傷害を被り、入通院した場合に入通院保険金等を支払う旨が定められている。

・Aの年齢および身体の状況に鑑み、通常、Aが降車する際には、職員がAを介助のうえ、車両の床ステップと地面との間に高さ約17㎝の踏み台を置いてこれを使用させていた。

・本件事故の際、踏み台を使用しなかったところ、Aが降車する際に右大腿骨頚部骨折の傷害を負った。

・Aは、本件特約に基づき、保険金50万円を受領した。

・Aの遺族が、保険会社に対し、後遺障害保険金の支払を求めたところ、保険会社が、Aの遺族に対し、入通院保険金の返還(不当利得返還請求)を求め反訴した。

 

これに対し、最高裁は、「本件事故は、本件車両の運行が本来的に有する危険が顕在化したものであるということはできないので、本件事故が本件車両の運行に起因するものとはいえない」として、保険会社の、Aの遺族に対する不当利得返還請求を認めました。

被害者救済という観点からは、保険会社の請求を認めるべきではないとの判断もあり得ます。

しかし、上記のとおり、あくまでも本件特約は「車両の運行に起因する事故」とされており、最高裁としては、やはり車両の運行とは無関係なところで保険金支払義務を負わせるのは、無理があると判断したものと思われます。

 

なお、最高裁も被害者救済に関し、「Aの降車の際には本件センターの職員の介助のみでなく、踏み台を使用することが安全な着地のために必要であり、上記職員がその点を予見すべき状況にあったといえる場合には、本件センターに対する安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求等の可否が問題となる余地が生ずるが、このことは、本件における運行起因性の有無とは別途検討されるべき事柄である。」としています。

(弁護士 國安耕太)

*http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/726/085726_hanrei.pdf

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最新判例のご紹介(債権譲渡と異議を留めない承諾について)

6月1日、長い間確立した判例がなかった「異議を留めない承諾」(民法468条1項)について最高裁の判断が示されましたので、ご紹介します。

 

民法467条1項は、「指名債権の譲渡は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。」と定めています。

そして民法468条1項は、「債務者が異議をとどめないで前条の承諾をしたときは、譲渡人に対抗することができた事由があっても、これをもって譲受人に対抗することができない。 」と定めています。

 

平たく言いますと

 

「AさんがB社から300万円を借りた。その後、AさんはB社に200万円を返済した。ところがその後B社からAさんに対し、「あなたに対する債権をC社に譲渡した。承諾書を同封したからからサインし、印鑑を押して返送してくれ。」との連絡があった。承諾書には簡単に「私はB社の私に対する下記債権を、B社がC社に譲渡することについて、承諾します。」などと書かれていただけだった。Aさんは深く考えずに言われるままに承諾書にサインし、印鑑を押して返送してしまった。」

 

という場合、C社はAさんに対して残りの100万円ではなく300万円全部を請求でき、AさんはC社に対し300万円を払わなければいけない、ということなのです。

つまり、AさんはB社にすでに払っていた200万円分はなかったものとしてC社に300万円を払わなければいけません。Aさんにとっては大事ですね。

もしAさんが200万円をすでに払っているということを主張したかったら、Aさんは「200万円をすでに払っています。」と主張すべきでした(これを「異議」といいます。)。

 

もちろん、AさんはB社に対しすでに払った200万円を返すよう請求できます。しかし、B社が素直に返すとは限りませんし、連絡が取れなくなったり倒産している可能性もあるでしょう。

また、C社が200万円はすでに返済されているという事情を知っていた場合には、Aさんは法律上C社に対して残りの100万円しか返済する義務はありません。しかし、これを立証するのは簡単とは限りません。

 

このような場合に、C社が事情を知らなくとも知らなかったことに過失があったとき、Aさんは300万円全額を払わなければいけないのか、残りの100万円で済むのか、長いこと見解が分かれていました。

この点について最高裁は、残りの100万円でよいとの判断を示しました。

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/133/085133_hanrei.pdf

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/134/085134_hanrei.pdf

 

ただ、この過失があったことをどうやって立証するかということについてはまだ問題が残されています。

内容がよく分からない書面には、安易にサインをしたり、印鑑を押さないということがまずは大切でしょう。

 

なお、民法468条1項は改正が議論されています。こちらの行方も注目されるところです。

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ライザップと広告表示

昨日(平成27年5月19日)、神戸市の適格消費者団体*1・NPO法人「ひょうご消費者ネット」が、トレーニングジムを運営するRIZAP株式会社(以下「ライザップ」)に対し、ライザップが広告でうたっている「30日間全額返金保証」表記が、景品表示法の有利誤認や特定商取引法の誇大広告に当たる疑いがあるとして、同表記の削除を求める申入書を送付したとの報道がありました*2*3。

 

ひょうご消費者ネットのホームページに、当該申入書の全文が掲載されており*4、これをみる限り、

広告には、全額返金保証と記載されているにもかかわらず、

①返金を受けるためには、会社(ライザップ)の承認が必要とされていること

②転勤や妊娠等の場合には返金が受けられないとされていること

③健康食品等については対象外とされていること

から、

㋐広告の記載が、実際のものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの(景品表示法4条1項2号)であり、また、

㋑著しく事実に相違する表示、または実際のものよりも有利であると人を誤認させるような表示(特定商取引法12条)である、

との主張のようです。

 

かかる主張に対し、ライザップがどのような反論をするのか注目です。

(弁護士 國安耕太)

 

*1 景品表示法および特定商取引法では、2008年改正から、消費者に代わって消費者団体が消費者全体の被害防止のために、事業者の不当な行為そのものを差止め請求できるようにするために消費者団体訴訟制度が取り入れられており(消費者契約法は、2006年改正から)、適格消費者団体のみが団体訴訟を提起することができます。

*2 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150519-00050000-yom-soci

*3 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150518-00000147-jij-soci

*4 http://hyogo-c-net.com/pdf/150518_rizap.pdf

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土地の所有権と地下利用

先日、国土交通省が、リニア中央新幹線東京(品川)―名古屋間が2027年に開業すれば、国内総生産(GDP)を年間約5100億円押し上げる経済効果があるとの試算をしたとのニュースが報道されていました。

http://www.yomiuri.co.jp/economy/20150120-OYT1T50014.html

 

さて、このリニア中央新幹線、首都圏等の大都市圏内の区間では、地下トンネルを通行することになるようですが、線路用地はどのように確保しているのでしょうか。

 

民法上、土地の所有権は、「法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ。」(民法207条)とされています。

このため、本来であれば、リニア中央新幹線が地下を通行する区間についても、土地所有者から個別に使用の許諾を得なければならないことになります。

 

しかし、実は、大深度地下(40m以下)の使用については、「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法」という法律があります。

この法律に定める要件に従い、国土交通大臣等の使用の認可を受ければ、事業者(リニア中央新幹線の場合は、JR東海)は、対象地域において、当該事業者が施行する事業のために大深度地下を使用することができます(法10条)。

リニア中央新幹線については、平成26年3月に、事業概要書が提出されていますから、数年以内に、使用認可申請書が提出されるものと思われます*

 

なお、土地の「上」については、航空法に基づき、使用が制限される場合があります(同法49条)。

(弁護士 國安耕太)

 

*近時では、平成26年3月に、東京外かく環状道路(関越道~東名高速)について国土交通大臣が使用を認可しています(事業概要書の提出は、平成19年1月、使用認可申請書の提出は、平成25年11月)。

 

 

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子育て世帯臨時特例給付金の支給について

平成25年度一般会計補正予算により子育て世帯臨時特例給付金の支給されるとの施策が公表されています。

平成26年1月分の児童手当の受給者であって、その平成25年の所得が児童手当の所得制限額に満たない方に対し、対象児童1人あたり1万円を給付するというものです。申請先は、原則として平成26年1月1日時点の住所地である市町村(特別区を含む。)とされています。

この給付のポイントは、支給対象者側から申請しなければもらえない、ということです。 お子様のいる世帯は、もらい忘れることのないよう、市区町村に申請しましょう。

なお、対象となる方についての一定の例外などもございますので、詳しくは厚生労働省のホームページをご確認ください。
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodo

mo_kosodate/rinjitokurei/index.html

 

(弁護士 小林聡之)

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