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2016年3月の投稿

社員の金銭的不正行為への対応2

先週に引き続き、従業員の金銭的不正行為への対応です。

 

従業員の金銭的不正行為が発覚した場合、会社は、事実確認を入念に行ったうえで、

①懲戒処分(懲戒解雇)をするか否か

②損害の賠償を請求するか否か

③刑事告訴をするか否か

を検討することになります。

 

それでは、前回の続きです。

 

②損害の賠償を請求するか否かについて

 

①の懲戒処分とは別に、金銭的不正行為をした従業員に対しては、損害賠償請求または不当利得返還請求をすることができます。

ただし、一方的に給与や退職金と相殺することはできないので、注意が必要です(労働基準法24条1項本文*1、賃金全額払いの原則)。

そのため、退職金と相殺したり、退職金を放棄させるのであれば、従業員の同意が必要となります。

過去の判例でも、労働者の自由な意思に基づいてなされた退職金債権放棄の意思表示が有効と判断されています(最判昭和48年1月19日、民集27巻1号27頁、シンガー・ソーイング・メシーン事件*2)。

 

③刑事告訴をするか否かについて

 

刑事告訴を行ったとしても、会社が被った損害が回復されるわけではありません。

むしろ刑事告訴をすることによって、会社が悪い意味で話題になってしまう可能性もあります。

また、刑事告訴は、義務でもありません。

 

ただ、金額が大きかったり、態様が悪質であったような場合、会社として放置できないということもあるでしょう。

また、他の従業員との関係を考慮して、厳しい姿勢で臨む必要がある場合もあります。

それゆえ、刑事告訴をする場合には、これによって生じるメリットとデメリットを十分検討することが重要です。

なお、証拠がないにもかかわらず、従業員を告訴したような場合、会社の側に名誉毀損が成立することもあるので、注意が必要です。

(弁護士 國安耕太)

 

*1

労働基準法24条1項本文

「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」

 

*2

最判昭和48年1月19日

「全額払の原則の趣旨とするところは、使用者が一方的に賃金を控除することを禁止し、もつて労働者に賃金の全額を確実に受領させ、労働者の経済生活をおびやかすことのないようにしてその保護をはかろうとするものというべきであるから、本件のように、労働者たる上告人が退職に際しみずから賃金に該当する本件退職金債権を放棄する旨の意思表示をした場合に、右全額払の原則が右意思表示の効力を否定する趣旨のものであるとまで解することはできない。」

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社員の金銭的不正行為への対応1

最近、従業員の金銭的不正行為(窃盗、横領、詐欺等)への対応についてアドバイスを求められることが多くなっています。

 

従業員の金銭的不正行為が発覚した場合、会社は、事実確認を入念に行ったうえで、

①懲戒処分(懲戒解雇)をするか否か

②損害の賠償を請求するか否か

③刑事告訴をするか否か

を検討することになります。

 

以下、個別にみていきましょう。

 

①懲戒処分(懲戒解雇)をするか否かについて

 

まず、現在の我が国の法制度は、解雇権濫用の法理*1*2を採用しており、労働者を手厚く保護しています。

そのため、懲戒処分の中でも懲戒解雇については、慎重な判断が求められることが多いです(すなわち、懲戒解雇が無効となることが多々あります。)。

 

しかし、従業員の金銭的不正行為に関しては、過去の裁判例では、その額や回数を問わず、有効とされる傾向にあります。

そのため、従業員の金銭的不正行為に関し、懲戒解雇を行っても、後に無効とされる可能性は低いといえます。

 

ただし、あくまでも懲戒事由に該当する事実を証明できる場合であることが必要です。

過去の裁判例では、従業員が、使途不明金の一部を着服した旨の自認書および念書を書いていた事案において、事実に即して書かれたとはいい難く、これによって着服の事実を基礎づけることはできないとされたものがあります*3。

それゆえ、本人が認めているだけでなく、客観的な資料に基づいて事実を証明できるようにしておかなければなりません。

 

また、実務上は、懲戒解雇事由に該当する事実を証明できる場合であっても、懲戒解雇とせずに諭旨解雇や普通解雇、自主退職にとどめるということもありえます。

このあたりは、金銭的不正行為の額、被害弁償の有無、これまでの処分事例との均衡等を考慮して、判断していくことになります。

 

なお、②損害の賠償を請求するか否か、③刑事告訴をするか否かについては、次回解説します。

(弁護士 國安耕太)

 

*1

労働契約法16条

「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」

 

*2

最判昭和50年4月25日(労判227-32、日本食塩製造事件)

「使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になると解するのが相当である。」

 

*3

東京地八王子支判平成15年6月9日(労判861号56頁、京王電鉄府中営業所事件)

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線路に立ち入り列車と衝突して鉄道会社に損害を与えた認知症の者の妻と長男の責任

新聞等で大きく報じられましたのでご存じの方も多いと思いますが、平成28年3月1日に責任無能力者の監督義務者等の責任について定めた民法714条について注目すべき最高裁判所の判例が出ています。
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=85714
そもそも「責任無能力者」という言葉自体なじみがないですが、「自己の行為の責任を弁識するに足る精神能力を有しない者」をいうとされています。それでもまだ日常用語からは離れていますが、具体的には重度の認知症や知的障害がある人などがあてはまります。
そして、報じられていますように、線路に立ち入り列車と衝突して鉄道会社に損害を与えた認知症の者の妻と長男の民法714条1項に基づく損害賠償責任が否定されました。これはどういうことでしょうか。
そもそも民法714条の1つ前に置かれている民法713条は、「精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わない。」としています。これは、先ほどの責任無能力者が他人に損害を与えても損害賠償をする義務はないとするものです。
しかし、これでは被害者が救済されません。そこで、今回問題となった民法714条が置かれています。
民法714条は「(1項)…責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。(2項) 監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。」としています。
つまり、責任無能力者は損害を賠償する義務はありませんが、この者を監督する義務を負う者は損害を賠償しなければいけません。
そして、先ほども触れましたとおり、最高裁判所は、線路に立ち入り列車と衝突して鉄道会社に損害を与えた認知症の者の妻と長男は民法714条に基づく損害賠償をする義務はないとしたのです。
判決文はかなり長いですが、簡単に要約するとその論理は以下のとおりです。
①本件における認知症の者の妻と長男は、いずれも民法714条1項にいう監督義務者ではない。民法の規定を分析すると、配偶者だったり、後見人だったからといって直ちに監督する義務があるという立場を民法が取っていると解釈することはできないからである。
②ただし、生活状況や心身の状況などとともに、精神障害者との親族関係の有無・濃淡、同居の有無その他の日常的な接触の程度、精神障害者の財産管理への関与の状況などその者と精神障害者との関わりの実情、精神障害者の心身の状況や日常生活における問題行動の有無・内容、これらに対応して行われている監護や介護の実態など諸般の事情を総合考慮して民法714条1項の監督義務者に準じて責任を負うことはある。しかし、本件においては認知症の者の妻と長男は諸般の事情を総合考慮しても民法714条1項の監督義務者に準じて責任を負うべきとはいえない。
本件の場合、損害賠償請求をしたのが大手の鉄道会社であり、また人がケガをしたり、亡くなったりしたという事案ではありませんでした。しかし、この判例の考え方は、被害者が個人であり、また被害者がケガをしたり、亡くなったりしたという事案にもあてはまります。
たとえば名古屋地方裁判所平成23年2月8日 判例時報2109号93頁は、以下のような事案です。
Aさん(責任無能力者)は、スーパー内のレジで、おつりを受け取るのを忘れたままその場から立ち去ろうとしました。これを見ていたBさんは、気づいてもらおうとAさんに声をかけ、手を伸ばしてAさんの肩に触れようとしました。ところが、Aさんは振り向きざまにBさんの両肩付近を押してBさんを突き飛ばし、レジに戻っておつりを受け取り、その場を立ち去りました。Bさんは、Aさんの行為により、右半身を床にたたきつけられ、右上腕骨頸部骨折、右大腿骨頸部骨折という大けがをしてしまいました。その後、Bさんは自宅付近で転倒して頭部を打撲し、外傷性硬膜下血腫により亡くなりました。Bさんの遺族はAさんの両親に対し、民法714条に基づく損害賠償請求をしました。
この事案で、裁判所はAさんの両親への損害賠償請求を認めませんでした。
理由は、Aさんの生活状況などを考えると、Aさんが第三者に危害を加える可能性があることを予想することは困難だった。そのため、Aさんの両親が、外出の際にはBさんに付添いをする等して、Aさんを保護監督すべき具体的必要性があった場合とは認めらられない。したがって、Aさんの両親に対して監督義務者に準ずるとして民法714条1項あるいは2項による損害賠償請求をすることはできないというものです。
とても悲しく、やりきれない事件です。裁判官も判決文で「本件事案の内容に鑑みれば、道義的には(Aさんの両親が)何らかの損害負担をすることが望ましいものである。」などとしています。しかし、このような場合であっても法律上は民法714条による損害賠償請求はできないというのが裁判所の立場です。
判例の立場がこのまま維持されるのであれば、必ずしも万全とはいえない場合もありえますが、保険で自衛するほかないのかもしれません。

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自動車保険契約の搭乗者傷害特約の適用範囲

先日(平成28年3月4日)、デイサービスの利用者(以下「A」)が送迎車から降車し着地する際に負傷したという事故(以下「本件事故」)が、自動車保険契約の搭乗者傷害特約(以下「本件特約」)における車両の運行に起因するものとはいえないとして、保険会社の、入通院保険金受領者(その後、Aが死亡したため、Aの遺族)に対する不当利得返還請求を認める判決が出されました*。

 

本件の事案はつぎのとおりです。

・本件特約は、車両の運行に起因する事故により、その搭乗者が身体に傷害を被り、入通院した場合に入通院保険金等を支払う旨が定められている。

・Aの年齢および身体の状況に鑑み、通常、Aが降車する際には、職員がAを介助のうえ、車両の床ステップと地面との間に高さ約17㎝の踏み台を置いてこれを使用させていた。

・本件事故の際、踏み台を使用しなかったところ、Aが降車する際に右大腿骨頚部骨折の傷害を負った。

・Aは、本件特約に基づき、保険金50万円を受領した。

・Aの遺族が、保険会社に対し、後遺障害保険金の支払を求めたところ、保険会社が、Aの遺族に対し、入通院保険金の返還(不当利得返還請求)を求め反訴した。

 

これに対し、最高裁は、「本件事故は、本件車両の運行が本来的に有する危険が顕在化したものであるということはできないので、本件事故が本件車両の運行に起因するものとはいえない」として、保険会社の、Aの遺族に対する不当利得返還請求を認めました。

被害者救済という観点からは、保険会社の請求を認めるべきではないとの判断もあり得ます。

しかし、上記のとおり、あくまでも本件特約は「車両の運行に起因する事故」とされており、最高裁としては、やはり車両の運行とは無関係なところで保険金支払義務を負わせるのは、無理があると判断したものと思われます。

 

なお、最高裁も被害者救済に関し、「Aの降車の際には本件センターの職員の介助のみでなく、踏み台を使用することが安全な着地のために必要であり、上記職員がその点を予見すべき状況にあったといえる場合には、本件センターに対する安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求等の可否が問題となる余地が生ずるが、このことは、本件における運行起因性の有無とは別途検討されるべき事柄である。」としています。

(弁護士 國安耕太)

*http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/726/085726_hanrei.pdf

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相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権

先日(平成28年2月26日)、相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権(民法910条)に関し、遺産の価額算定の基準時を価額の支払を請求した時とする最高裁判決が出されました*1。

一般的な相続ではあまり関係のない条文ですが、この機会にちょっと整理をしてみましょう。

 

まず、共同相続人は、「いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができる。」のが原則です(民法907条1項*2)。

また、遺産分割協議は、相続人全員が参加しなければならず、相続人を一人でも欠いた遺産分割協議は無効となります。

 

ただし、相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産分割協議に参加していなかったという場合は、例外的に無効とはなりません。

この場合、当該相続人は、価額の支払を請求することができます(民法910条*3)。

 

では、この価額の支払を請求する場合における遺産の価額算定の基準時はいつか、ということが問題となりますが、これについて価額の支払を請求した時としたのが上記最高裁判決です。

 

この理由について最高裁は、「認知された者が価額の支払を請求した時点までの遺産の価額の変動を他の共同相続人が支払うべき金額に反映させるとともに、その時点で直ちに当該金額を算定し得るものとすることが、当事者間の衡平の観点から相当であるといえるから」としています。

 

以上のとおり、最高裁は、遺産の価額算定の基準時を価額の支払を請求した時としましたので、いつの時点で価格の支払を請求するかによって、遺産の価額算定の基準時が変動することになります。

今後は、いつの時点で価格の支払を請求するのか、不動産や経済状況の推移等を見て、判断していく必要がありそうです。

(弁護士 國安耕太)

 

*1

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/705/085705_hanrei.pdf

 

*2 民法709条1項

「共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができる。」

 

*3 民法910条

「相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。」

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